21 交換留学生 ①
リディアスとお父様たちが家を発ってから二日が経っても、二人がいない生活はまだ落ち着かない。
リディアスの遠征の件はフラル王国の国王陛下にも伝わり、その間、寂しくなるだろうからとシイちゃんを引き続き預けてくれるという連絡をくれた。
とてもありがたいことではあるのだけど、その分のお礼はしないといけない。いや、もしかしたら、向こうはそれが目的なのかもしれない。
学園から帰った後や、休みの日はずっとお礼のための薬を作り続けることになり、初めて家族全員で薬を作ったことは、私の中では楽しい思い出の一つとなった。ただ、リディアスと二人で過ごすことはできなかった。
リディアスがそのことについて、どう思っているかはわからない。
婚約者になったからといって、恋人らしいことはできていないし、今回の遠征で初めて送る手紙には、何か書こうと思っているのだけど、恥ずかしくてペンが進まない。
気分転換をしようと、ペンを置いてお母様をお茶に誘ってみた。
緑に囲まれた庭園内にある白いガゼボで、お母様はメイドが離れるとすぐに口を開く。
「ミリル、あなたが心配になる気持ちはわからないでもないけど、カークもリディアスも無謀なことはしないわ。それに、リディアスが跡を継いで辺境伯になったら、こんなことが当たり前のようになるかもしれないのよ? 覚悟を決めなくちゃ」
「うう。そうですよね。お父様は私の中では英雄ですから、無事に帰ってきてくれるって素直に思えるのに、リディアスの場合は信じているんですけど心配というか……」
「命を落としてしまうかもしれないと心配しているの?」
「それもあるんですけど、遠征先で現地妻みたいな人を作ったら嫌だなとか」
飲んでいたお茶が変な所に入ったのか、お母様は急に咳き込み始め、テーブルの上のシイちゃんは抗議をするかのように何度か跳ねた。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ごめんなさい。あのね、ミリル。母親の私が言うのもなんだけど、リディアスはモテるし、あなたが心配する気持ちもわかる。だけど、リディアスは恋愛面ではあなたのことしか頭にないのよ」
「わかっているんですけど、私よりも素敵な人は世の中にたくさんいるじゃないですか。だから、どうなのかなって」
「ミリル、あなた、また昔みたいにウジウジと悩んでいるの? リディアスの気持ちに応えると決めた時に覚悟を決めたのではなかったの?」
お母様の表情が厳しくなってやっと、私が馬鹿なことを考えていることに気がついた。
「ごめんなさい、お母様。覚悟を決めたのに、こんなことを言うのは駄目ですよね。もし、リディアスが現地妻を作るようなら、往復ビンタするくらいの意気込みでいようと思います!」
「あのね、ミリル。そういう意味ではないのよ」
お母様は呆れた顔になったものの、苦笑して頷く。
「そうね。それくらいの意気込みでいいのかも。あなたらしいし、リディアスはあなたのそういう所が好きなんでしょうしね」
「お母様はどうですか?」
「まあ! 私の気持ちを疑うなんて信じられない!」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて謝ると、怒り顔のお母様はリディアスがよくやるように私の頬を優しくつねる。
「い、いひゃいです」
「でしょう? でもね、娘に愛情を疑われた母親が感じた心の痛みはもっと痛いのよ?」
「ごめんなひゃい」
「わかってくれたならいいわ。これで説教はおしまい! ミリル、そんなに気になるなら浮気しないでねと、リディアスに手紙を書きなさい」
「わかりました!」
私からの手紙を読んだリディアスがどんな反応をするのかと想像しただけで、気分が晴れた気がした。
思っているだけじゃ伝わらない。恥ずかしがらずに伝えてみるのも良いことよね。
明るい気持ちになった数日後、私のクラスにロードブル王国から交換留学生がやって来ることが伝えられたのだった。




