18 恋人からのお願い ①
楽しい旅行の時間はあっという間に過ぎて、私たちは日常生活に戻った。
お父様は独自の情報網から仕入れたと言って、ハピパル王国の国王陛下にロードブル王国の王女とレイティン殿下の話をしてくれた。
さすがに無理に私を自分の国に連れ帰ることはないだろうけれど、もし、そんなことになる場合は、国王陛下が介入してくれると約束してくれたそうだ。
こんなことになるのなら、レイティン殿下に薬を渡さないほうが良かったのかと思ってしまうけど、目の前で苦しんでいる人を放っておくのも薬師としてやるべきことではないと思った。
悪いのはレイティン殿下なのだし、レイティン殿下を王城に閉じ込めておいてほしいとお願いしたい気分だわ。
旅行から帰った5日後、警備隊のみんなに旅のお土産を渡し終え、帰途につく途中の馬車の中で悩んでいると、リディアスが話しかけてきた。
「さっきから何を悩んでるんだ?」
「レイティン殿下のこと。本当に碌なことをしてくれないなあって思ったの」
「シイを返さなくちゃいけなくなったのも、あの人のせいだもんな」
「うん。あの人が話さなくていいことを話したからいけないのよ」
眉根を寄せて頷いたあと、ポーチからシイちゃんを取り出し、気になっていたことを口にしてみる。
「忘れないうちに聞くんだけど、どうして幸運か災厄と言われるのは、第四王女だけなのかしら」
「どういうことだ?」
食いついてきたリディアスに答える。
「シイちゃんのこともそうだけど、決定権は神様にあるのでしょう? 神様はどうして第四王女を幸運か災厄の存在にしたのかなと思ったの。普通に悪い王家をこらしめるだけで良くない?」
何度か疑問に思ったことはあるのだけど、シイちゃんと出会う前だったり、思いついた時にシイちゃんが近くにおらず聞けずじまいだった。
紙の上に置くと、シイちゃんはコロコロと転がって、答えを返してくれる。
『マレニ、オウゾクトシテノ、ウツワガミトメラレナイママセイチョウヲシテ、オウニナルヒトガイル』
「先代のフラル王国の国王陛下みたいな人のことね?」
『ソウ。スグニジャッジガデキナイカラ、ヨニンメノオウジョニキメタ。サンニンメデモヨカッタノカモシレナイケド、ヨニンメナラ、ジュウネンチカク、ヨウスヲミラレルカラ、ソウシタミタイダヨ』
「でも、必ずしも器じゃない国王が四人目の娘を作るとは限らないだろう?」
リディアスの問いかけに、私が答える。
「男の子が生まれるまでは、側妃を作ってでも子供を産ませるはずよ。私の時だってそうだったもの」
「……跡継ぎの問題か。ただ、それだと神様が人間の意思に介入していることになるよな」
「ムカシニキメタシキタリミタイナモノデ、イマサラカエルキハナイミタイダネ」
シイちゃんが言うには、この世界の神様は一柱だけで、助手はたくさんいるらしいけれど、それでも全国民を見るには手が回らないのだそう。
ちなみに公にされていないだけで、他の国にもフラル王国と同じように第四王女の話が伝わっている王家もあるらしい。
多くの国は私たち家族のようなことにはならないんだろうけど、何百年も続けば、変わった人も出てくるといったところだろうか。
納得していると、リディアスが話題を変える。
「そういえば、ミリルにお願いしたいことがあるんだ」
「何?」
「近々、遠征することになったんだ。旅立つ前に俺に薬の作り方を教えてくれないか?」
「えっ!?」
リディアスからのお願いにも驚いたけれど、遠征に行くということのほうが驚きで、私は詳しい話を求めたのだった。




