16 糸を引く人物 ②
休憩後、改めて薬草探しをしたけれど、幻と言うだけあって見つけることはできなかった。何の収穫もなかったかと言われればそうでもない。
というのも、ノーラさんとは今後も連絡を取り合うことになったからだ。
ノーラさんからは私の家に、私からの手紙は研究所宛に送ることにし、薬草の話をたくさんしようと約束して別れた。
「ミリルったら、薬草が見つからなかったのに嬉しそうね」
草原から宿屋に向かう途中の馬車の中でお母様が笑った。
「薬師のお友達ができるのは初めてなんです。だから、たとえフラル王国の薬師であっても嬉しくって! ハピパル王国には生えていない薬草の話を教えてもらう約束もしたんです」
コニファー先生は私の師匠だから、大切な人ではあるが友人ではない。
私に初めての薬師の友人ができたのだ。薬草が見つからなかったのは残念だけど、友人ができただけでもここに来た甲斐があった。
ノーラさんはとても良い人で「お父様がノーラさんの身元調査をするかもしれない」と伝えても「それは立場上当たり前のことですから気になさらないでください」と微笑んでくれた。
私の存在はフラル王国の薬師の間でかなり有名らしく、知り合えたメリットのほうが大きいそうだ。
ぜひ、フラル王国に来て、薬草作りを教えてほしいとお願いされたけれど、それはお断りした。
今のところ、美味しく飲める薬はコニファー先生が作っていて、たまにしか作れないという設定になっているからだ。
私の場合は間違いなく、見た目は酷いが美味しい薬になる。私がみんなの前でそれを作るのは、段階を踏んでからにしたい。
それに、フラル王国は私にとって良い思い出のある国ではない。時には妥協も必要だと思うけど、フラル王国に戻らないという気持ちは一生変わらないと思う。
フラル王国に行かなくても、生きていく上で大した問題にはならないからいいわよね。
「それにしても、何がしたいのかわからなかったな。ミリルが友達になった女性は別として、もう一人の女性はどう報告するつもりなんだろうか」
リディアスが呆れた顔をして聞いてきた。
「わからないけど、リディアスを落とせないとわかって逃げたんじゃないかしら」
もう一人の女性は最初は無言で薬草探しを頑張っていたが、途中で飽きてきたのか、またリディアスに媚び始めた。私が彼女に目的を聞いてみると、切羽詰まった理由はないらしく、お金が欲しいだけだった。お父様に確認を取り、私が付けていたイヤリングを渡すと、薬草を探すのはやめてさっさと草原を後にしていた。
箱や証明書がなくても高く買い取ってくれる所を知っているのかもしれない。
「私、薬師になる人ってお金目当てであっても、根本的には人助けをしたいんだと思っていたけど、それって甘い考えだったのかも」
「人に迷惑をかけなければ、どんな理由で薬師を目指しても良いとは思うが、多くの人はミリルのように考えている人ばかりだろう。彼女と一緒にするのは間違いだ」
「そうですね」
お父様の考えに同意して頷くと、ポーチの中のシイちゃんが動き出した。
「シイちゃん、どうしたの?」
話ができるように紙を用意してから外へ出すと、シイちゃんはやはり何か伝えたいのかキラキラと光る。
紙の上に置くと、シイちゃんは私たちに注目されながら、コロコロと転がる。
『バカオウジニ、イレヂエヲシタジンブツガイタミタイ。ソレガダレダカワカッタヨ』
「ど、どういうこと? レイティン殿下が考えたことじゃなかったの?」
『ユウワクニツイテハ、バカオウジ。オンナノヒトヲエランダノハ、ジッサイハオウジジャナカッタ』
「殿下じゃなかったんなら誰なんだよ」
リディアスが答えを急かすと、シイちゃんは転がって答える。
『ロードブルオウコクノオウジョ、エレスティーナ』
ロードブル王国は優秀な薬師を輩出するということで有名な国だ。
どうして、その国の王女が関わってくるの!?




