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【書籍発売中・コミカライズ連載開始】捨てられた第四王女は母国には戻らない WEB版  作者: 風見ゆうみ
第二部

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9   王子の目的 ①

 私の家から王都まではかなりの時間がかかるが、早馬で連絡を取ったからか、二日後にはフラル王国の国王陛下から謝罪の連絡がきた。

 監視役を撒いてレイティン殿下が勝手に外出したことは部下から聞いていたが、どこに行くつもりなのかはわからなかったらしく、手が打てなかったそうだ。

 付き人たちも第二王子の命令には逆らえず、付いてくるしかなかったみたい。

 そんなに行きたいなら一人で行けと言われたらどうするつもりだったのかしら。あの王子様が一人でここに来るなんて不可能だもの。それくらい言ってもいい気もするけれど、本当に一人で出ていかれても困るし、ワガママな人のお守りは本当に大変ね。


 レイティン殿下はなんだかんだ言いつつも、私が作った薬を飲んだらしく、今は落ち着いた状態らしい。

 すぐに痛みがなくなることや、美味しく飲めるため、もっと薬がほしいと言っているそうなので、明日にでも作っておこうかと考えている。

 殿下の様子を詳しく教えてくれたのはシイちゃんだった。シイちゃんが監視していない間は、シイちゃんの仲間が監視しているらしく、逐一報告があるらしい。


 その話を夕食後に聞いた私とリディアスは、そのことについて談話室で話をすることにした。もちろんシイちゃんも一緒だ。


「シイに仲間がいることが驚きだな」

『フラルオウコクイガイニモ、オウケノイシガアルクニガアルンダヨ』


 リディアスの呟きに答えると、シイちゃんはまた紙の上をコロコロと転がる。


『フダンハヒマダカラ、ニンゲンカンサツシテルンダ』

「宝物庫に置かれてるだけだもんな。だけど、ジッとしているだけなのに、どうやって人間観察するんだ?」

『ミヨウトオモエバ、ミエルンダヨ』

「そうなのか」

  

 石と意思疎通している時点で不思議だし、この答えにもそんなものかと納得してしまう、私たちの感覚もおかしいと思う。 


『ミンナ、シイノコト、ウラヤマシイッテ! ミガカレタイッテイッテル』

「「磨かれたい?」」


 私とリディアスが聞き返すと、シイちゃんは自慢げに体をキラリと光らせた。


「そういう意味か。石同士でコミュニケーションをとってるのもすごいが、見た目にもこだわりがあるというのも驚きだな」

「普段は誰も触らないでしょうし、かまってほしいのかもしれないわね」

『ニンゲントナカヨクナルト、ワカレガツライ。ダカラミンナ、ナカヨクナラナイヨウニスル』


 家族が亡くなった時と同じ気持ちになるって聞くし、シイちゃんたちにしてみれば、大事にしていたペットが死んでしまうような感覚かしら。


「それなのに仲良くなってくれてありがとう。シイちゃんのように長く生きることはできないけど、生きている間はシイちゃんと一緒にいるね」


 手のひらの上に乗せて優しく撫でると、リディアスが苦笑する。


「また、シイと別れる日が近づいては来ているけどな」


 この時、シイちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねて、何か伝えようとした。


「寂しいって言ってるのかな」

「そうだと思うけど一応、聞いてみるか」


 頷き合って、シイちゃんを紙の上に戻そうとした時、談話室にメイド長がやって来た。

 寝る時間を過ぎていると怒られてしまい、私たちは慌てて部屋に帰ることになったため聞けずじまいに終わってしまった。


 次の日、シイちゃんを家に置いて学園に出かけると、門の前にフラル王国の王家の紋章が刻まれた馬車が停まっていた。

 嫌な予感がしたので、馬車から降りるとすぐに教室に向かおうとしたが無理だった。


「おい、ミリル!」


 待ち構えていたレイティン殿下に捕まってしまった。

 騎士の姿は見えるが、付き人の姿が見えないので、また撒いてきたのかもしれない。


「……おはようございます。あの、どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」

「父上と一緒に生徒との交流会に出席するんだ」


 最終学年の生徒と他校の生徒の交流会があるという話を思い出した。私と関係のない学年の話だったので重きを置いていなかったので忘れていたのだ。

 国王陛下がいらっしゃるという話は、セキュリティのこともあり公にされていなかったのでしょう。


「そうでしたか。では、楽しんでいってくださいませ。私はここで失礼いたします」

「待て! お前に言いたいことがある!」

「……なんでしょうか」


 多くの人からの視線を感じて泣きそうになった。

 目立ちたくないのにこんなことになるなんて……。この場から走って逃げたい気持ちをなんとか堪える。


「腕を認めてやるから、お前は俺の専属薬師になれ……いた、イタタタ!」

 

 勢いよく私の鼻先に指を突きつけてきたかと思うと、すぐにお腹を押さえて座り込んだ。


 真面目に話を聞くのも馬鹿らしくなってきたわね。

 専属薬師になれなんて、どういうことかしら。もしかして、フラル王国の国王陛下は、無理やりではなく、自然な形で私を国に戻そうとしている?


 そんな考えが頭をよぎったが、目の前で人が苦しんでいるのを放っておくわけにはいかない。

 薬を持ち合わせていないため、先生を呼びに行くことにした。


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