4 下敷きになった令嬢 ②
教室内に入ると、残っていた取り巻きたちが彼女の周りで泣きわめき、必死に石を動かそうとしていた。
大きな楕円形の石はルワナ様のお尻の上にのっていて、取り巻きたちが動かそうとしてもびくともしない。
「私が持ってみるわ」
取り巻きたちに避けてもらい、私は自分の上半身くらいの大きさのシイちゃんを抱え上げた。
まったく重くないから、まるでぬいぐるみを抱きしめているみたいだ。
ありがとうシイちゃん。私を守ってくれたのね。
心の中で感謝をしていると、ルワナ様が叫ぶ。
「あ、あなたがそんなに怪力だったなんて、知りませんでしたわ!」
「え?」
聞き返すと、取り巻きたちは私から遠ざかりながら怯えた様子で言う。
「化け物だわ」
「怖い」
「失礼ね!」
酷い言われようなので憤慨したところで、シイちゃんが私にしか見えない部分を光らせた。この光は何か言いたいことがあるサインだ。というか、こんな大きな石を教室に置いておくわけにもいかない。私は教室を出ると、大きいサイズのシイちゃんを抱えたまま職員室に向かった。
この石を持ち帰りたいので早退すると言うと、訝し気な顔をされたが、以前、小さなシイちゃんを拾って届け出ていたことと、辺境伯令嬢だという身分もあり、特に文句を言われることもなく、有料にはなるが学園の馬車を貸してくれたのだった。
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その日からルワナ様は私に嫌がらせをしたり、絡んでくることはなくなった。ただ、一部からは『怪力でリディアス様を脅した』などという噂が流れているらしい。
もしそれで婚約したのだったとしたら、それを阻止できないお父様が仕事のできない人になってしまう。このことについては、お父様に相談をして手を打ってもらうことになった。
私とシイちゃんはこれからもずっと、私たち家族と一緒にいてくれる、そう思っていたある日、エイブランから連絡があった。エイブランは現在、新国王の側近として働いている。その関係で助けを求めてきたのだ。
内容としては、フラル王国の第二王子が、自分の婚約者と親友に王家の石を私の家に預けていると話してしまったらしい。
その罰なのか、その日から第二王子は原因不明の腹痛に悩まされていて動くこともできない状態なんだそうだ。私の元家族の時のように石があれば症状が軽くなるかもしれないので、返してもらえないかと書いてあった。
シイちゃんに聞いてみると、その考えは間違っていないらしく、王家の石に対する無礼な行為だということで罰が当たったのだと教えてくれた。反省しない限り治ることはないようだが、第二王子に反省の色は全くないらしい。
どうすべきか迷っているうちに、フラル国の王家から正式にシイちゃんを返してほしいと連絡があった。
シイちゃんはフラル王国の王家のものだ。だから、返せと言われれば返さなければならない。
私たち家族はシイちゃんを囲んで話し合い、さよならをすることを決めた。
「こんなに辛い思いをするなら、持って帰らないほうがよかったのかな」
呟いたリディアスの額に、シイちゃんは体当たりすると膝の上に落ちて涙を流した。
「リディアス、シイちゃんは……っ、そんなこと言うなバカって……、言ってると思うっ」
「ごめん。……そうだよな。おま……お前が帰って来てくれて……、すごく楽しかった。帰って来てくれなかったら、そんな思い出……作れなかったもんな」
リディアスの声が震えていたせいで、こらえていた涙が一気にあふれ出した。私が泣き始めると、お父様は眉尻を下げ、お母様はハンカチで目を押さえた。
「シイちゃん、絶対にまた会えるよね?」
その日の夜、泣きながらシイちゃんに尋ねると『モチロン』と涙を流しながら答えてくれたのだった。




