52 第四王女は母国には戻らない ③(シエッタ視点)
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この話はシエッタ視点になります。
ある日突然、わたしやお姉様の顔が老婆みたいになってしまった。体調不良にならなくなったことは良いことだったのに、こんな仕打ちは酷すぎる。
こんな顔を誰にも見られたくなくて、部屋に閉じこもる生活を続けていた。お父様たちが帰って来た時には、これで以前の美しいわたしに戻れると思ったのに、お父様たちはミーリルを連れ帰ることはできなかった。
「必ずミーリルを取り戻し、お前たちの病気を治すからもう少し待っていてくれ」
帰ってきた次の日の朝、お父様はそう言って、寝室に集まっていた私たちに頭を下げた。
「もう少しっていつなんですか!」
見ない内に驚くほどにやせ細ったロブが泣きそうな顔で叫ぶと、お父様は歯ぎしりをして答える。
「いつとは言えないが、何とかするから待ってくれ! ああ、くそっ! 全部、ミーリルが悪いんだ。ミーリルが戻ってくれば済むことだというのに!」
「そうよ。七歳まで育ててあげた恩を忘れて、家族を見捨てるだなんて酷い娘に育ったものだわ!」
お母様が嘆いたその時だった。
ガシャン、という音がした。
立ち上がって音が聞こえてきた方向に目を向けると、お父様の背中側にある窓ガラスが割れ、こぶしくらいの大きさの石がガラスの破片と一緒に赤いカーペットの上に転がっているのがわかった。
「い、石⁉ 何なの⁉」
後ろを振り向いたお母様が悲鳴をあげると同時に、今度はゴツッという鈍い音が聞こえてきた。
「な、何だよ、あれは!」
ロブがソファから立ち上がって指さした先を見ると、数えきれないくらいの白い何かが、こちらに向かって飛んできていることがわかった。
そしてその白い何かは壁や窓を攻撃し尽くすと、部屋の中まで攻撃し始めた。
「一体どうなっているのよ!」
空から降ってくる石はわたしたちが逃げれば後を追うように降ってきた。窓のない部屋に隠れてもどんどん壁が崩されて、その場にいることができなくなった。護衛に助けを求めても彼らの前に石が降ってきて、あっという間に石の壁を作り、わたしたちと合流させないようにした。
気が付くと、王城の出入り口までの道が出来上がっていて、わたしたちが外へ出ると石は降ってこなくなった。安心して中に戻ろうとすると、石が城を壊していく。城の中に入れなくなったわたしたちは、近くの高級宿に泊まることになった。
城から出たら、わたしたちの姿は元通りになり、ロブも健康になってきた。これで不幸は終わったのだと安堵し、いつ、城に戻れるのかという話をしていた時、お父様の側近たちが訪ねてきた。
大事な話だというので、家族全員がお父様の部屋に集まって話を聞くことになった。
部屋にあるソファは、わたしたち家族しか座れなかったため、側近たちは立ったままだ。側近のリーダーであるエイブランは、私たちを見下ろすように話し始めた。
「今回の件を話し合ったところ、神様が現在の王家がフラル王国にふさわしい王家ではないと判断されたという意見が多く、現在の国王陛下には退位していただき、ロブ様の王位継承権もはく奪ということになりました」
……どういうこと?
理解が追いつかず呆然としていると、お父様が立ち上がって叫ぶ。
「ふざけたことを言うな! 何の権限があって、お前たちにそんなことが決められるのだ!」
「陛下、我が国の法律の中に国王がその資格に値されないと判断された時、議会の三分の二以上の賛成があれば国王を退位させることができると明記されているのです。それは、王太子殿下にも同じことが言えます。次の国王が決まるまでは国王が不在になりますが、宰相閣下が代理をなさいますので国のことはご心配なく」
エイブランはそう言って一礼すると、他の側近たちと一緒に部屋から出ていこうとした。
「待って! わたしたちはどうなるのよ!」
お母様が叫ぶと、エイブランは振り返って苦笑する。
「路頭に迷わせるようなことはしませんのでご心配なく。連絡があるまでここでお待ちください」
エイブランはそう言うと、もう話すことはないと言わんばかりに足早に部屋を出ていった。
「……お父様、僕たちは……これから、どうなるんですか?」
ロブの問いかけに、お父様は頭を抱えて答える。
「どうなるかはわからない。でも、もう終わりだ」
お父様がどんな表情をしているかは、俯いているせいで見えなかった。でも、声が震えていたので泣いているのだとわかり、わたしの胸には絶望感が広がった。
「どうして……、何が間違っていたんだ」
嘆くお父様の言葉を聞いて考えた。
何が間違っていたの?
いつから、こんなことになったの?
考えなくてもすぐに答えは出た。
ミーリルがいなくなってから、わたしたちは不幸になっていった。
「ミーリルをお父様が捨てなければ、わたしたちは幸せになれていたのかしら」
私の呟きを聞いたお父様とお母様は、両手で顔を覆い、声を上げて泣き始めた。そして、わたしや、ロブ、お姉様たちの目からも涙が溢れ出した。




