50 第四王女は母国には戻らない ①
私から国王陛下にしたお願いの一つに、二人への多少の無礼については大目に見てもらえるという話になっている。だから『覚えていろよ。不敬罪で処分してやる! それを理由に連れ帰るからな!』と言われたけれど、すぐに忘れることにした。
城に着くと、二人はディング陛下が待っていると言う場所に衛兵に連れて行かれることになり、私たちはそのすぐ後ろを付いて歩いた。
ディング陛下が二人を招待した場所は、城壁のすぐ近くにある処刑場だった。
ハピパル王国は大勢の前での公開処刑はしておらず、国家反逆罪や不敬罪など、王家や国にかかわる罪人を裁く場合は、この場所で処刑が行われる。
「世界ではギロチンと呼ばれる処刑器具が一般的だが、ハピパル王国ではあまり使われていない。じわじわと苦しめていくほうが、自分たちの犯してしまった罪がどんなものだったか考えられるだけでなく、後悔する時間にもなるだろう」
四十代後半のガッシリとした体躯で、渋い顔立ちのディング陛下は、怯えきった表情の二人を見ながら豪快に笑った。
「……顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
ぶるぶると震えている二人に尋ねると、国王陛下が口を開こうとしたけれど、その前にディング陛下が両陛下に話しかける。
「自分たちが悪いことをしていないのなら、何も恐れることはない。まさか、この俺の悪口やハピパル王国を狙うような発言をしたりしてないだろう?」
「……い、言うつもりはないが……」
国王陛下が額に汗を流しながら答えると、ディング陛下は余裕の笑みを見せる。
「なら、そんなに怯える必要はない。この俺を嘘つき呼ばわりしたとか言うのなら、名誉毀損で容赦はせんがな。……ところで、貴方がたはどうして何の連絡もなしにここまで来たのだろうか」
ディング陛下に尋ねられた二人は顔を見合わせたあと、用意していたのか国王陛下が答える。
「妻もそうなのだが、娘たちも老けてしまった。だから、薬を求めてきたのだ」
「……そうか」
ディング陛下は王妃陛下に目を向けたあと頷いた。
ディング陛下にはシイちゃんの話はしていないから、フラル王国の王妃陛下がどうしてこんなことになってしまったのか不思議に思っているでしょうね。
「申し訳ないが、わが国には老化する病気を止める薬はない。違う国に行ってくれ。そんな薬があるとは聞いたことはないがな。他国にそのような薬があればフラル王国に連絡を入れるように伝えておこう。これで、あなた方の用事は終わりだ。子供たちが心配だろう? 早く帰ってやりなさい」
こう言われてしまった以上、二人はハピパル王国に留まっているわけにはいかなかった。
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フラル王国の両陛下が帰っていったあと、私たちも王都を出発しジャルヌ辺境伯家に戻った。それから約十日が経ち、日常生活が戻り始めてきた時のことだった。
シイちゃんと部屋で会話をしていると、五日後の朝に隣接する伯爵領にある山に登るように言われた。
その山の頂上からは小高い丘に建っているフラル王国の王城が見える。ということは、王城に何かが起きるのだということはすぐにわかった。
シイちゃんは私が学園を休まずに済むようにと、学園が休みの日を選んでくれていたため、次の日の朝、お父様に事情を話すと、伯爵家から山に立ち入る許可を取ってくれた。
一体、何が起きるのかしら。
気になって仕方がなくて、何度かシイちゃんに聞いてみたが『トウジツノオタノシミ』としか教えてくれなかった。だから、私も当日になるまでは、私もまったく想像がつかなかった。
そして出発の日、学園から帰ってきた私とお兄様はすぐに準備をして、お父様とお母様、そしてシイちゃんと一緒に出発した。馬車の中でのシイちゃんはご機嫌なのか、ジュエリーボックスの中でずっとキラキラと光り続け、時には踊るように動いていた。




