48 フラル王国の王家の現状
シイちゃんが意味深なメッセージを残した数日後、お父様の元にロブ殿下が倒れたとの報告が届いた。報告書には他のことも書かれていたけれど、まずは、わかる範囲でロブ殿下の話をお父様に聞いてみることにした。
「ロブ殿下が倒れたとのことですが、何があったんですか?」
「正確には倒れたふりをしていたらしい。医者が言うには食中毒のような状態らしくて、ずっと腹を下しているそうだ」
エイブランの報告書によると、ロブ殿下がシエッタ殿下の侍女に八つ当たりしたところ、突然、腹痛に襲われ、その場でいたしてしまったらしい。
そのショックでロブ殿下は倒れたふりをしたそうで、表向きには病気だとしているけれど、恥ずかしくて部屋から出ることができないというのが本当のところらしい。
ロブ殿下の年齢でお漏らしをするのは恥ずかしいわよね。病気とかならまだしも、ロブ殿下はそうじゃない。普通ならお手洗いまで我慢できるものだけど、それができなかったということは、よっぽどのことだし、きっとシイちゃんの仕業なんでしょうね。
「ロブ殿下の腹痛はもうおさまったんですか?」
「おさまっても突然痛みだすようで、部屋の中で閉じこもっているというよりか、部屋の中にある手洗い場に閉じこもっているのかもしれないな」
このままの状態が続けば、食べ物や飲み物を満足に取れない状況になるから、ロブ殿下がいくら若くて体力があったとしても脱水症状になる可能性があるとのことで、お医者様はロブ殿下に注意を促しているらしい。
私の隣に座っているお兄様が報告書に目を通しながら、お父様に話しかける。
「エイブランからの手紙には石が砂になったと書かれていますが、どういうことですか。シイがやったんでしょうか」
「そうだろうな。このことでミリルはシイから何か聞いているのか?」
「砂になるという話は聞いていませんが、堪忍袋の緒が切れたとは言っていました」
『まずはひとりめ』というメッセージを見た時に、命を奪うのかと思い、焦って聞いてみたけれど、そうではなかった。自分が悪いという考えができないようなので、一人ずつこらしめていくという意味合いだったと教えてくれた。
プライドの高い人たちばかりだから、それを崩壊させようとしているのかもしれない。
「次の日には、一気に四人目までいくと言っていたので、次に苦しむことになるのは、第一王女から第三王女までの三人になるのはでないかと思われます。といっても、それから数日経っていますので、すでに苦しんでいる可能性はありますね」
そのことを伝えた時、談話室の扉がノックされた。家族四人で談話室を使っている時は、家族の時間の邪魔をしないようにと使用人たちは気を遣ってくれている。だから、よっぽど急ぎの案件なのだと判断し、お父様がソファから立ち上がって応対する。
「どうした」
「申し訳ございません、旦那様。フラル王国の王家から早馬で手紙が届いたので持ってまいりました」
年配の執事の焦った声が、扉の向こうから聞こえてきた。お父様は扉を開けて執事を中に招き入れると、彼が持っていた封筒の封を切らせた。
手紙を読み進めていくうちに、お父様の表情は苦々しいものに変わっていく。その様子を見た私とお兄様、そしてお母様は三人で顔を見合わせたあと、すぐにお父様に目を戻した。
お父様は手紙をたたみながら話し始める。
「相手は切羽詰まっているらしい。二人でこちらに向かうからミリルに会わせろという内容だった」
「二人というのは、あのお二人のこと?」
お母様が厳しい表情で尋ねると、お父様はため息を吐いて頷く。
「フラル王国の両陛下だ。仕事を奪われて何もやることがないから暇なんだろう。それに、跡継ぎである息子の様子を見たら居ても立っても居られないというところか」
ハピパル王国の国王陛下に報告して、門前払いをする許可を出してもらうと言うお父様にお願いする。
「私もお願いしたいことがあるんです。ハピパル王国の国王陛下の元へ、一緒に行っても良いでしょうか」
「……頼むのはかまわないが、何を願うつもりなんだ?」
お父様に尋ねられ、私は素直にお願いしたい内容を話すと「明日の朝一番に発つので、今から準備をしなさい」と言ってくれた。
フラル王国の両陛下が私に言うことなんてわかりきっている。
シイちゃんはシイちゃんなりのやり方で動いているように、私は私のやり方で迎え撃たせてもらうわ。
そして、私とお父様が王城に向かっている間に、フラル王国の両陛下は、私のいないジャルヌ辺境伯家にやって来たのだった。




