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【書籍発売中・コミカライズ連載開始】捨てられた第四王女は母国には戻らない WEB版  作者: 風見ゆうみ
第一部

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36 誠意が感じられない謝罪

 十日も経つと、ゼカヨダ病の流行のピークを過ぎて患者の数も減り、普段の生活に戻り始めた。

 そんな中、キララだけは一向に治らないようだった。

 キララの両親であるエノウ伯爵夫妻が訪ねてきて、体調が悪くてここまで来れないキララの代わりに私に謝罪した。


「娘はノンクード様に恋心を抱いていたようです。それなのに、あなたは彼のことを好きじゃないというだけでなく、婚約破棄までしたので許せないと思ったと言っておりました。友人のあなたよりもノンクード様を優先してしまったことを本当に反省しているようです。何卒、お許し願えませんか。そして、娘のために薬を融通してやってほしいのです」


 エノウ伯爵はぺこぺこと頭を下げながら言った。

 形だけの謝罪で真の目的が薬をもらうことだとわかり「薬は売っているはずです。キララのためにあなたが薬を用意してあげてください」と突っぱねた。

 彼女の体調が良くならなければ、本人が謝罪をしに来ることができないとか言ってきたけれど、私が薬を用意しなければならない理由にはならないのでお断りした。


「そこを何とかお願いします。あなたとキララはとても仲が良かったではないですか!」

「裏切るような真似をしたのはそちらだろう」


 お父様はエノウ伯爵を睨みつけたあと、私には穏やかな目を向けて促す。


「ミリルはもういいだろう。あとは私が話をしておくから部屋に戻りなさい」

「わかりました。あとはよろしくお願いいたします」


 これからは大人同士の話になるらしい。私は項垂れているエノウ伯爵夫妻を一瞥して外へ出た。


「私の対応は冷たいのでしょうか」


 応接室の前の廊下で待っていてくれたお兄様と合流し、歩き出しながら尋ねると、お兄様は不思議そうな顔をする。


「どんなことを言って冷たいと思ったんだ?」

「すぐに手に入れることができるんだから自分で買ったらどうだって言ったの。でも、普通は渡すべきなのかなって思って」

「冷たいかどうかは別として、すぐに手に入れることができるというのは間違った認識だな」

「どういうことですか?」

「薬が不足していたからコニファー先生もミリルに頼ってきたんだろ」

「でも、あの時とは違います。今は薬は足りているんでしょう?」


 どうやら私の考えは甘かったらしく、お兄様は苦笑して首を横に振る。


「足りている足りていないという問題じゃなくて、薬の値段が跳ねあがってるんだ」

「どういうこと? 薬師の人が値段を上げてるの?」

「仲介業者が普段通りの値段で薬師から仕入れて高くで売っているんだ。平民には薬師の多くが直接手渡しで売っているのを買いに行けるけど、貴族の場合は自分で買いに行ったりしないだろ?」

「……エノウ伯爵は自分で手に入れようとすると薬が高いから、私からもらおうとしたってこと?」

「ミリルなら無料でくれると思ったんだろ」

「失礼な話ね」


 今までの私ならキララに嫌われたくなくて、すぐに用意していたと思う。でも、それは彼女が私に害を及ぼす人じゃなかったからだ。キララはノンクード様のことしか考えていないのよ。あんなに大事にしてくれていたソーマ様のことも簡単に裏切れるんだもの。

 そこでふと疑問が浮かんだ。


「どうしてキララはこんなにも症状が長引いているのかしら。シイちゃんが何かしているの?」

「シイの仕業とは思えないけどな」

「……ということは仮病の可能性もあるってこと?」


 お兄様はハッとした顔をして頷く。


「そうか。その可能性もあるな。ビサイズ公爵と夫人が離婚したら、ノンクード様はフラル王国に行くかもしれない。追いかけていきはしないだろうけど、無一文になるかもしれない彼に何かしてやりたいと思っているのかもな」

「元気になってはいるけれど、薬を売ってお金にするつもりね。そうだと考えると、ますます渡したくなくなるんだけど、結局は薬が大したお金にならなければ良いのよね」


 私が呟くように言うと、お兄様が口元に笑みを浮かべる。


「悪いことを考えたな」

「ええ。彼女がしつこく薬を求めるようなら薬を渡してもいいわ。そのかわり、私の言うことをきいてもらうつもりです」


 お兄様とそんな話をした二日後、キララが学園に登校してきた。顔を見ると、青白く見えるメイクをしているのがわかり、私は馬鹿馬鹿しくなって苦笑した。

 キララは私の所にやってくると、みんながいる前で深々と頭を下げる。


「お願い、ミリル。助けてください。どうしてもコニファーさんの作った薬が必要なんです。そうじゃないと、私の病気は治らないの。お願いします! お願いします!」


 私が反応せずにいると、キララは床に額をつけて懇願してくる。


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