27 家庭の事情
次の日、ノンクード様は登校してこなかった。私とお兄様の話を公爵閣下にして叱られたのかもしれない。そう納得したあとは、ノンクード様のことは考えないようにしたのに、夕食時、お父様からノンクード様の話をされた。
「ビサイズ公爵から連絡があったが、昨日、ノンクード様がビサイズ公爵にミリルたちの話をしてきたらしい」
「俺たちが話した内容と同じですか?」
「少し脚色されていたようだが、ビサイズ公爵は話の内容は気にしていない」
「どういうことですか?」
今度は私が尋ねると、お父様は難しい顔で答える。
「ミリルに近づくなと言っていたのに近づいただろう? ビサイズ公爵の言うことを聞かなかったとみなしたんだ。だから、罰を与えることにしたそうだ」
「そういえば、以前、ビサイズ公爵はノンクード様を追い出そうとしているという話を、前にしていらっしゃいましたね」
私が言うと、お父様とお母様は顔を見合わせた。
複雑な事情があるのかと、私とお兄様も顔を見合わせる。すると、お母様が眉尻を下げて口を開いた。
「これは社交場での噂話だから、絶対にそうだと思わないでほしいんだけど……」
「「承知しました」」
私とお兄様が声を揃えると、お母様は話し始める。
「ビサイズ公爵夫人のジーノス様なのだけど、浮気をしているという噂なの。しかもかなり前からね」
「お美しいですから、色んな男性に声をかけられているだろうとは思っていましたが浮気ですか」
「ええ。そして、ノンクード様は浮気相手との子供ではないかと言われているのよ」
「……そうなんですか」
ビサイズ公爵閣下のノンクード様への無関心さや、追い出そうとしているということを考えると、ノンクード様はビサイズ公爵閣下の子供ではない可能性が高い。
私はまだデビュタントも迎えていないから、ビサイズ公爵とはノンクード様との婚約の時に会っただけ。
浮気性だから婚約の解消もすぐできるという話を聞いた時に、親の対応としては違和感を覚えていたのに深く考えなかった。
浮気相手の子供なんて可愛くないという感じなのかしら。まだ、自分を慕ってくれているならまだしも、お母様にべったりだし、自分の奥様と同じで浮気ばかりしているとなれば腹が立つ気持ちも分からなくはない。
「今すぐ追い出すつもりでしょうか」
「いや、成人になるまでは面倒を見るつもりだろう。……だが」
答えたお父様は、そこで言葉を止めた。
お父様が何を言おうとしているのかわからないので黙って見つめていると、お兄様が尋ねる。
「彼がそのことを知っているのかはわかりませんが、知っていたとしたら本当の父親の元に行く可能性はあるんですか?」
「……本当の父親はフラル王国にいるから、その可能性は高い……と、あくまでも噂だ。お前たちからノンクード様にその話はしないように。わかっていると思うが他言するなよ」
「「わかっています」」
お兄様と同時に頷いた。
こんな話を言いふらすだなんて、お父様に言われなくても絶対にしないわ。秘密を守るのが当たり前。それに今の段階では噂であって真実かはわからないものね。
「ノンクード様はどうなるんです? しばらくは軟禁状態になるんですか?」
お兄様の質問にお父様は頷く。
「そのようだ。家庭教師を付けて勉強はさせるらしい」
「……学園に来なくなるのは、私にとっては有り難いことですけど、本人は納得するのでしょうか」
「納得させるだろう」
次の日、お父様が断言した通り、ノンクード様が学園を退学したことを担任の先生から知らされた。
退学理由は女性好きのため、好みの女性に手を出す可能性があるため学園には置いておけないという、公爵家の一族にしては考えられない理由だった。
家庭の事情のことだけ考えると、ノンクード様はお気の毒だと思える部分もある。だからといって彼のやっていることは良くない。
そのことをお父様に伝えると、私の肩に手を置いて話す。
「今回の件をジーノス様は納得はしていない。どうやら、ジーノス様はミリルがミーリル殿下ではないかと疑っているようだ」
「どういうことですか?」
「侍女にミリルとフラル王国の王妃陛下の雰囲気がよく似ていると言っていたそうだ」
メイクの違いである程度ごまかせるかと思っていたけど、気づく人は気づくのね。
「私を脅してくるか、フラル王国にコンタクトを取るかどちらかですね」
でも大丈夫。ミーリル殿下は亡くなったことになっているんだから、それで押し通せばいい。
たとえ、私の正体がジーノス様にバレたとしても、私は絶対に母国には戻らない。




