2 王家の石の譲渡について ②
シイちゃんは『オソクナル』と言いつつも、いつも思ったよりも早く帰ってくる。
だけど、今回はその日の夜遅くになっても帰ってくることはなかった。
明日は学園は休みだった。
だから、帰ってくるまで待とうと思っていたのに、ベッドに横になって本を読んでいるうちに眠ってしまっていた。
頬に固くてひんやりとした何かが当たっている気がして目を開けた。
カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいて、夜が明けたのだとわかった。
ゆっくりと体を起こすと、目の前でシイちゃんが飛び跳ねた。
「おかえりなさい。それから、おはようシイちゃん」
シイちゃんはおはようとただいまを言ってくれているのか、シーツの上で二度飛び跳ねた。
「ごめんね。いつもよりも帰りが遅かったから眠っちゃった」
謝ると、シイちゃんは体を前後に振ってくれた。
これは、人間が首を横に振っている時の真似らしい。だから、シイちゃんは『キニシナイデ』と言ってくれているのだと思う。
やはり、紙無しでは詳しい話を教えてもらうことはできない。
シイちゃんを持ってベッドから下り、書物机の上に置いているシイちゃん用の紙を広げる。
シイちゃんは紙の上に移動すると、コロコロ転がって会議での話を説明してくれた。
ちなみに石同士の会話は念話らしい。
私もシイちゃんと念話できたらいいのに。
と、その話は後ですることにして、石たちの会議の話に集中することにした。
シイちゃんに一通り説明してもらっていると、メイドが朝食の時間だと知らせに来てくれた。
ワンピースタイプの寝巻き姿のままだったので、慌てて身支度を整え、朝食をとりにダイニングルームに向かった。
「おはようございます! 遅くなってしまって申し訳ございません!」
両親もリディアスもすでに席についていたけれど、カトラリーは動かされていないし、食事を進めているようには見えない。
みんな、私を待ってくれていたみたい。
大きな木のテーブルの上には、かごいっぱいに焼きたてのパンが入れられていて、甘い匂いが部屋の中に漂っている。
「おはよう。昨日は遅くまで起きていたの?」
リディアスの隣に座ると、向かいに座るお母様が笑顔で話しかけてきた。
「はい。昨日は気がついたら寝てしまっていました。でも、寝起きはばっちりです」
メイドたちが周りにいるので、詳しい話はできない。
だから、シイちゃんを手に乗せて見せると、お母様だけでなく、お父様もリディアスも微笑んだ。
「お父様、相談にのってほしいことがあるんです。あとで部屋に伺ってもいいですか?」
「もちろんだ」
「あら、気になるわ。私も聞いていいかしら」
「もちろんです!」
お母様に頷くと、リディアスが手を挙げる。
「俺も聞きたい」
「リディアスも? 仕方がないわね」
「俺だけ仲間はずれはないだろ」
「そういうつもりじゃないわよ」
不服そうな顔をしているリディアスを見て笑っていると、お父様に注意される。
「話なら後でもできるから、今は食事に集中しなさい」
「「申し訳ございませんでした」」
私とリディアスは声を揃えて謝り、食事を開始した。
食後、お父様の部屋に直行し、ローテーブルの上に紙を広げ、シイちゃんを置いた。
まずは、私の口から説明する。
「石たちの会議では、人間たちが自分たちを譲渡することについて文句は言えないという話になったそうです」
「譲渡されたという石は、その会議に参加していたのか?」
リディアスに尋ねられ、私が答えようとすると、シイちゃんが『キテナカッタ』と答え、そのまま、コロコロと転がった。
『アイツハ、シイタチト、テキタイスルキラシイ』
お父様とリディアスは眉間に皺を寄せ、お母様は驚いたのか、両手で口を覆ったのだった。




