1 王家の石の譲渡について ①
シイちゃんも初耳だったらしく、動揺したように机の上でピョンピョン飛び跳ねている。
お母様も眉をひそめて呟く。
「王家の石を譲渡するなんて、正気の沙汰とは思えないわ」
「そんなことを神様が許すとは思えねぇんだけど、王家の石としての力はどうなるんだ?」
リディアスに問いかけられたシイちゃんは、私に体の正面を向けた。
顔がないからわからないけど、たぶん正面だ。
「ちょっとまってね」
一言声を掛けてから、テーブルの上に紙を広げる。
シイちゃんは、ぴょんと紙の上に飛び乗ると、リディアスの問いかけに答える。
『コンナコト、ハジメテダカラ、シイモワカラナイ。ゴメンネ』
「別に謝ることじゃない。わかるならと思って聞いてみただけだ。俺もごめんな」
リディアスがシイちゃんを指で撫でていると、お父様がシイちゃんに尋ねる。
「神様に確認することはできるのか?」
『キクコトハデキル。コンカイノケンデ、イシダケノカイギモ、ヒラカレルトオモウ』
「石だけの会議……」
どんなのだろう。
石が集まって会議していると思うと、なんだかシュールだわ。
『トニカク、カクニンシニイッテミルネ。チョット、カエリガオソクナルカモ』
シイちゃんは私たちの返事は待たずに姿を消した。
「今のところ、私たちにできることはないだろう。シイが帰ってくるのを待とう」
お父様はそう言って、目の前のテーブルに置かれている、青い小花が描かれたティーカップを手に取り、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干した。
「私たちがあれこれ考えても答えは出ないでしょうし、シイが帰ってくるまでは、他のことを考えましょう」
お父様の隣でお母様は微笑んだ。
他のこと……、と聞いて、頭の中に思い浮かんだことがあった。
こんな状況で言い出すのもなんだけど、話はしておかなくちゃいけない。
「お父様、シイちゃんを返すことについて、フラル王国側と話をしなければならないと思うのですが、どのタイミングで話をするおつもりですか?」
尋ねた瞬間、お父様は眉尻を下げた。
「そのことだが、一刻も早く返すべきだと、ハピパル王国の国王陛下はおっしゃった」
やっぱりそうよね。
覚悟を決めなくちゃ。
「……が、他国で石の譲渡が許されたのであれば、交渉してみてはどうかともおっしゃっていた。ミリルはどうしたい?」
「ど、どうと言われましても! シイちゃんをハピパル王国に譲渡してほしいと頼むということですか?」
驚いて聞き返すと、お父様は頷いて答える。
「表向きはハピパル王国の王家に譲渡だが、ミリル個人に譲渡してもらえないか、頼んでみるのはどうかと言っておられた」
「許してもらえるとは思えませんが……」
「第四王女がいなければ、シイは動かない。王家の宝物庫に眠っているだけなら、ミリルが生きている間だけ、シイをミリルのものにするのはどうかと言ってみるのはどうかとのことだ」
そんなことをしても、フラル王国にメリットはない。
承諾してもらえるとは思えないけど、言ってみるくらいなら許してもらえるだろうか。
「シイちゃんが帰ってきたら、相談してみます」
その後は、重い話はやめて、落ち着いたらまた家族で出かけようという話で盛り上がったのだった。




