50 王女に愛される人
私とシモンズがお父様と合流し、会議室を借りて話をしていると、中庭のほうからリディアスについて話す声が聞こえてきた。
お父様たちもそのことに気がついて、会話を中断して耳を澄ませる。
「エレスティーナ殿下、やっぱりリディアス様のことが好きだったんだな」
「まあ、バレバレだったけどな。あんな所で告白するくらいだから、よっぽど自信があるんだろ」
「でも、リディアス様って婚約者がいるよな? 告白したって意味がないじゃないか」
「そうだけど、エレスティーナ様は美人だし王女だからな。婚約者を捨ててそっちに走るかもしれないぞ」
「それはあるかもな。エレスティーナ様よりも美人な人なんて見たことねぇもん!」
あはははと笑う声が遠ざかっていく。聞きたくなかった部分だけを聞かされた感じで、嫌な気分になった。
顔が全てじゃないわよね! 話していた人たちに恋人がいるなら聞かせてやりたいわ! そして、怒られればいいのよ!
ムッとしていたからか、シモンズが笑いながら話しかけてくる。
「気にするなよ。たぶん、あんな話ができるということは平民だろうから、嬢ちゃんのことを詳しくは知らないんだろ」
「そうかもしれないけど、笑いものにされるのは腹が立つわ」
「ミリル、相手にしなくていい。人には好みがある。たとえ、多くの人がエレスティーナ様を選んだとしても、リディアスにとって恋愛対象になる女性はお前しかいないんだから、自信を持ちなさい」
ふてくされた顔をする私に、お父様が優しい笑みを浮かべて慰めてくれた。
「自信がないわけじゃないんですけど……って、それより、エレスティーナ様がリディアスに告白されたって話してませんでした?」
「そう言われればそうだったな」
シモンズは頷くと、真剣な表情でお父様に尋ねる。
「相手は王女殿下です。婚約者になれと言われたら、断ることは難しいのでしょうか?」
「いや。命令となれば別だが、さすがに個人の意思は尊重すべきだろう」
「命令された場合はどうなりますか?」
今度は私が尋ねると、お父様は眉根を寄せて答える。
「命令となると、すぐにお断りするのは難しいかもしれない。だが、事情を話せば、ハピパル王国の国王陛下がお断りをしてくださるだろう。両陛下はミリルを可愛がってくださっている。リディアスにエレスティーナ殿下の気持ちに応えろなどとおっしゃることはないはずだ」
「それなら良かったですけど、リディアスって、前世で王女に好かれるようなことをしたのかしら」
「どうしてそう思うんだ?」
私がボヤくように言うと、お父様とシモンズが不思議そうな顔をした。
「だって、以前はフラル王国の第三王女に好かれていたし、エレスティーナ様だって王女。私も、一応元王女よ?」
「……そうか。そう言われてみればそうだな」
「ははは! 本当にそうだな! リディアスの奴、女性運が良いのか悪いのかってやつだな」
お父様は頭が痛いと言わんばかりにこめかみを押さえたけれど、シモンズは豪快に笑った。




