風鈴の音は追憶の彼方に
りん
涼やかな音が鳴る。
その音が私をあの日に連れていく。
*
今日とは違い風の強い日だった。
カラコロカラコロ
カラコロカラコロ
あちこちの家に吊るされた風鈴が風に吹かれて一斉に鳴っていた。
貴方の唇が動き、何事か告げる。
風鈴の音でかき消されて聞き取れなかった。
カラコロカラコロ
カラコロカラコロ
「え? 何?」
私の言葉も届かなかったようだ。
カラコロカラコロ
カラコロカラコロ
貴方は少し首を傾けて緩く首を振った。
問おうとしてやめたのか、次でいいと思ったのか。
ちらりと腕時計に視線を走らせた。
カラコロカラ
風がやむ。
私もちらりと時間を確認した。
電車の時間が迫っていた。
私は駅までは一緒には行かない。
見送りには来ないでほしいと言われていたから。
「もう行くよ。それじゃあ」
手を上げて貴方は笑顔を見せて去っていった。
とっさに呼び止めようとした。
その時ーー
りんーー
断ち切るように風鈴が鳴った。
*
あの時、貴方は何と言ったのだろう?
何年経ってもその問いの前に立ち尽くす。
まさかあの日を最後に会えなくなるなんて思わなかったから。
次に会った時に訊けばいいか、なんて思い、追いかけることはしなかった。
だから何年も貴方に囚われたまま。
ずっと動けないでいる。
ーーねぇ、あの時、何て言ったの?
遠い記憶の中の貴方の面影に声をかけようとしてーー
ーーりん
風鈴が鳴った。
読んでいただき、ありがとうございました。




