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殲滅

 

 障壁を失ったシーホースは慌てて逃げようと今更ながらに東へ向かうが、もう遅い。

 直立した今の形態では速度を出せないようだ。


 最初の映像で見た、前掲して尾を伸ばしている姿が、奴の移動形態なのだろう。

 だが、その尾は丸まったまま焼け焦げて、半分は千切れて落ちそうになっている。


 無敵バリアの消えた今、腹の中に仲間を抱えたまま逃がすわけにはいかない。



 俺は上空高く舞い上がった勢いで反転し、追撃を始める。


 しかし、思った以上に機体の損傷が大きく、飛行の制御が効かない。


 そんな状況でも、レーザー砲塔と後席の美鈴さんは攻撃の手を休めない。


『反重力装置の出力がかなり落ちているな。この速度で地上へ激突したら、いくら俺たちでもやばいぞ!』


 俺は姿勢制御用のスラスターと飛行用の推進ジェットを吹かせて、何とか減速を試みる。


 垂直に落下していたバイクは落下しつつも滑空状態に戻り、このままなら脱出装置に頼らずにどうにか不時着ができそうだった。


 だが、それにより戦闘の現場からは徐々に離れていく。


『美鈴さん、機体の調子が悪いので不時着します。銃をしまって衝撃に備えてください』


『わかったわ。頼みましたよ、清十郎さん。それから美玲! わたしたちは離脱するから、後の攻撃は任せたわよ』


『姉さん、ご無事で。ここから先は弟たちと一緒に何とかします』


『澪さん、俺たちは大丈夫ですから、それ以上怪獣には近寄らないでくださいよ』

『わかってる。不時着したらすぐ救出に行くからね』

『はい、お願いします』


 俺はふらふらと頼りなく降下するバイクをどうにか操りながら、どうせ降りるのならあの満開の桜の下まで行けないかと奮闘していた。



 美玲さんの乗ったバイクは先ほどまでとは逆に、体内にいる隊員の回収を迅速にする目的もあり、東の湿原へ逃れようとする怪獣を阻止し、台地上で決着をつけようとしている。


 東側から接近して弾幕を張り、致命的なダメージよりも足止めに終始している。そこへ通天閣が参戦した。



 人型ロボットは男のロマンだという三馬鹿のおかげで、新大阪シティは面倒なことになっていたらしい。


 巨大重機の設計にあたり、浪花のシンボルだった通天閣をイメージする鉄骨組みのアームと人型ロボットの融合という命題を突きつけられて、USM大阪の技術陣は頭を抱えたという。


 しかし目の前に現れた三機の勇姿は、俺の想像を遥かに超えていた。



 遥々大阪から運ばれてきた三人の専用重機を見るのはこれが初めてではない。しかしそれは上野の大地に散らばる瓦礫を集めている働くクルマのような姿で認識されていた。


 だが今の姿は違う。しっかりした二本の脚で大地を踏みしめ、両肩のアームに取り付けられたアタッチメントによる戦闘形態(?)は、巨大人型兵器と呼んでも差し支えのないレベルに仕上がっていた。


 水素エンジンとコクピットの納められた頑丈な銀色の球体を中心に、太い鋼鉄の脚が二本延びて、クロウラーにより前進している。


 心臓部の巨大な球体から上には風の抵抗を減らすためトラス構造の鉄骨が組み上げられ、肩の位置には地面と水平に大きな梁が横たわる。


 梁の中央には透明な樹脂製の小さな球があり、エレベーターシャフトで中央の球体と連結されていた。


 コクピットを上昇させれば、頭の位置から目視で作業をすることも可能になっているのだった。


 肩の位置にある梁の両側にはクレーンやパワーショベルなど、様々なアタッチメントが付け替えられる仕様で、オペレーターであるアンドロイドの並列処理により、左右同時に二つの作業をこなすことが可能だった。


 俺が見た時にはこの足が折り畳まれ、胴にあたる大きな球体に直接クロウラーが付いているような形態だった。


 それが今は、しっかりと二本足で立ち、関節を曲げて歩行することもできる。

 最上部の頭の位置にある透明な第二コクピットまでの高さは、なんと130メートル。


 これは、かつての通天閣よりも高い。


 何故なら、この三機は大阪に通天閣を再建するための道具として開発されたからだ。

 しかし今は、完全に巨大怪獣と戦う戦闘兵器だった。


 二つのアームを並列処理で精密に操作する技術を持つのはこの三馬鹿だけで、これは彼ら専用の機体だ。



 三機は両腕のアームに異なるアタッチメントを取り付けている。


 通常のパワーショベルのバケットだけではなく、クラッシャーとも呼ばれ、コンクリートを掴んで砕く圧砕機。

 打撃によりコンクリートを破砕するブレーカー。

 基礎工事に使う杭打機。

 太い鉄骨を切断する巨大なハサミであるカッター。

 グラップルと呼ばれる挟むための太い爪。


 以前三馬鹿が一つずつ自慢げに説明してくれたものが、三機に総動員されている。


 怪獣を追って来た三馬鹿の重機が加勢し、美玲さんの射撃に加えてアームによる直接攻撃を畳みかける。



 先ずは、電磁カタパルトによる杭打機が、残った海馬の尾を地面に杭で縫い止めて、逃げられないように処置をした。


 次に振り上げたパワーショベルが海馬の顔を地面へ叩き落とし、その巨体を大地へ横たえる。


 続いてクラッシャーやブレーカーが総がかりで、生きたまま怪物の体を解体し始めた。


 戦闘というよりも、一方的な解体工事の様相だ。


「美玲姉ちゃん、首と尾はちぎってもうて、ええんやろ?」


「そうだね。その膨らんだお腹だけ無事に残しておいてくれればいいから、好きにやりな」


「じゃあワイは胸びれをもろうたでぇ」

 そう言ってかくがグラッブルで挟んだひれを千切り取る。

「よっしゃ、今夜はひれ酒やで!」


「じゃあ、ワシこの角をいただくわ」

 そう言ってとおるがカッターで二本の角を切り落とす。


「それならわては、竹輪を取るか」

 そらはクラッシャーで尖った口を根元から砕き始めた。



 見るに堪えない非人道的な光景が上野の大地上で展開されていた。


 だが俺はそれをじっくり見ている余裕はなく、どうにかその殺戮現場からやや離れた桜並木の中に、バイクを無事降ろすことに成功した。



 


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