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弱点

 

 俺は接近して何度も危機を回避する中、この空間の歪みはこのバイクだけではなく、海馬の障壁をも不安定にさせているのではないかと感じていた。


『その可能性はありますが、圧倒的に出力の高いシーホースに対して、この小さな機体が対抗できる見込みは少ないでしょう』


『そんなことは、やってみなけりゃわからないだろ。でも、この事は美玲さんには伝えるなよ。あの人は一人で無茶な突っ込みをしているから、危なくて仕方がない』


『はい、その通りですね』

 珍しくゴンが素直に従った。


 俺はそれから少々無理をして上空から急降下して海馬の後頭部へ接近し、機体が分解しないギリギリの距離を保った。


 バイクが障壁による抵抗で失速して落ちる寸前まで堪えてから、前方のレーザー砲を最大火力で打ち込んでみた。


 すると、その攻撃が初めて障壁を貫通して海馬に命中し、僅かに背びれを焼いた。



 だがこの程度の威力では、急所を狙うか同じ場所を何度も繰り返し攻撃しなければ、致命傷を与えることは困難だろう。


 それに、何度もこんな無茶な攻撃を続ければ、機体がもたない。


 そうなると、急所を探してそこを集中的に狙う以外に勝つ方法はなかった。



 それから俺は、台地上をじりじりと北へ海馬を引き離しながら、本当にあるかも不明な急所を探して、何度となく攻撃と離脱を繰り返した。


 機体を傷めない的確な離脱と最大の効果が与えられる攻撃のタイミングを探して、ヒットアンドアウェイを繰り返す。


 どんなに神経を張り詰めても、俺の攻撃が与える損傷は微々たるもので、辛い時間が過ぎた。


 その時、フライングカーで戻ってきた澪さんの声が頭の中に響いた。

『大丈夫よ、日奈さんたちはタツノオトシゴの腹の中にいるわ!』


 それは、今日一番のビッグニュースだった。


『生きているかの保証はないけれど、行方不明の隊員たちは異空間へ飛ばされたわけじゃない。今でもあの太い腹の中にいると、あの怪物自身の心がそう語っている』

 澪さんの能力は、一段と冴えている。


 そうか。今までの怪獣と同じで、胃の中へ取り込んだだけなんだ……

 俺は、大きな希望が湧き上がるのを感じる。


 ありがとう、澪さん。

 俺は手短に、現在の状況を伝える。



『わかった。もう一度あの顔の付近を攻撃してみて』


 澪さんに促され、俺は再度急降下して眉間の辺りを狙いレーザー砲を撃った。


『例え清十郎の攻撃が効かなくても、無効化されてもいい。でも、もし本当にあの海馬に弱点があるのなら、それを無効化できるとわかっていても、必ず心が乱れるはずよ。私はそれを絶対に見逃さない』


 澪さんの意図は理解した。


 俺は海馬の様々な部位を狙って、効果のない攻撃を繰り返す。



 しかし、海馬は何の動揺も見せないようだ。

 本当に、弱点はないのだろうか?


 俺は更に何度か頭の角やひれの付け根など上半身を集中的に攻めた。


 もしかして、頭や首の付近には弱点がないのか?


『体内に日奈さんたちがいるとすれば、腹の周囲を攻撃するのは避けねばなりません』

 そこが弱点であれば、お手上げということか……


『まだ試していない部位があります』

 そうか。確かにそうだ。


 俺は次に、丸まった尾の部分を攻撃してみた。


『当たり。そこよ!』

 澪さんが叫ぶ。


 尾が奴の弱点だった。


『恐らく、反重力フィールドか亜空間の制御に関わる重要な機能が、そこにあるのでしょう』


 ゴンの解説を聞きながら俺は急上昇して海馬の意識を上に向け、そこから背後へ回ってビルの陰へ隠れた。


 そしてそのまま距離を取り、海馬の感知不能な位置まで逃げる。


 そして後席の美鈴さんと共に一斉攻撃の態勢を整え、反転して地上すれすれを尾に向けて突進した。



 全火力の一斉集中射撃を行うには、その瞬間に弱点の尾に向かって機体を90度の角度に保つ必要がある。


 そうなれば、前後のレーザー砲塔と美鈴さんの手持ちの火器全てを同時に標的へ向けて発射できる。


 地上すれすれから急上昇して、インメルマンターン風のロールを決めて回転する一瞬に尾へ近付いた。


 二つの反重力フィールドが干渉し、不快な重力変動が起きる。俺は機体が壊れるぎりぎりまで接近した。


「よし、ここだ!」


 その瞬間に、ゴンと美鈴さんの操る砲火が全力射撃を行った。


 縦にとぐろを巻いた尾の中心とその周辺に攻撃が命中し、海馬の無敵フィールドは激しく光りながらオーロラのように揺らいで、そして消えた。


 だが、離脱して次の攻撃態勢に入る前に、再び防御フィールドは回復している。


『浅かったのか?』

『ほぼ全弾命中したのに……』

『いえ、一瞬防御は消えました。確実に攻撃は効いています』


『そうよ。絶対に今の攻撃は効果があった。奴からは大きなマイナスの感情を感じたわ』

 澪さんの心強い一言で、俺たちの動揺も治まった。


『ではセイジュウロウ、同じ場所へもう一撃ぶち込みましょう』

『了解!』



 俺は再び現場から離脱し、態勢を整える。


『奴は清十郎を見失って激しく動揺しているわ。今がチャンスよ』

『では美玲に陽動をかけてもらいましょう』

『了解。任せて!』


 周囲を旋回して見守っていた美玲さんが、やっと自分の番が来たとばかりに、頭部へ閃光弾を含めた激しい攻撃を仕掛ける。


 俺は前回同様に地上に近い部分を高速で接近し、ゼンマイのように巻いた尾を目掛けてぎりぎりまで接近してから総攻撃を仕掛けた。



 今度は激しい爆発音が轟き、海馬の尾が炸裂弾により引き裂かれるのが見えた。


 俺はそのまま上空へ離脱して、海馬の体を包んでいた光がすっかり消えるのを見た。


「やったわ。奴は逃げるつもりよ。美玲に通天閣、あんたたちの出番が来た。やってしまいなさい!」

 澪さんの勝利の雄叫びが響いた。


「よし、では待機していた通天閣の三人も出撃してくれ。あの間抜け面を地に落とせ!」

 すぐに、八雲隊長が通天閣へ出撃命令を出した。


「それにしても、何であのちびっこ魔女が戦闘の指揮を執っているんだぁ?」

 最後におまけのように、小声で呟く八雲隊長のぼやき声も聞こえた。


 


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