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出撃

 

 すっかり元気な美鈴さんは、ゴンに教えられるまま器用にワイヤーを編み込んで長いロープ状の物を作っている。


 ワイヤーは台所の食用油で洗浄して汚れを取ってから編みこまれ、細く絞った先端に重りをつけて、しなやかな長い紐が出来上がっている。


 ハンドル部分は削ったスリコギで、固い山椒の木だという。


 編みあがったそれを美鈴さんが右手で握り集中すると、DNスーツが体の表面を覆うように、鞭の表面に薄い膜がコーティングされた。


 これがゴンの言っていた美鈴さんの肉体を素材にするという意味なのだろう。薄気味悪いので見なければ良かった。


『何を言っているのですか。セイジュウロウの右手でも同じことが可能ですよ』

 嘘だろ。聞かなきゃよかった。



 俺もその間にエルザさんの作った銃のオプションパーツをチェックする。


『ジャミングがあるのでバイパーなどの誘導兵器は使えないよな』

『そうですね。素早い相手でもあるので、得意な接近戦に持ち込むまでの作戦が必要です』


『この長い銃身とサプレッサーを使い遠距離狙撃でもしてみるか?』

『この銃の性能ではせいぜい600メートル。森の中での狙撃は難しいですね』


『でも初撃だけならいけるんじゃない?』


『そうですね。三日前のように木の上で静止していれば、当たるでしょう。初撃で耳のアンテナをひとつ片付けておきたいですね。もう少し接近したらグレネードランチャーで追い込み、待ち伏せした美鈴が鞭で残った耳と尾を狙いましょう』


『だが、逃げずに俺に向かってくるかも』

『その可能性は高いですね。美鈴も近くにいて、迎え撃つ方がいいでしょう』


『俺は中距離からプラズマ弾で脚を止める』

『はい。美鈴にはなるべく樹上から頭を攻撃してもらい、清十郎は地上近くで足もとを狙ってください』


『ところで、美鈴さんは鞭なんて使えるの?』

『ただいまバーチャル空間で特訓中ですよ』


『大丈夫かよ?』

『拡張された演算能力が、こういう時に役に立つでしょう』


 俺は布団にくるまり眠っている澪さんを見下ろす。

『この人はどうするんだ?』


 澪さんの安全をどう確保すればいいのだろう。

『DNスーツのプロテクション機能を最大にして、清十郎の背中に張り付いていてもらうのが一番でしょうね』


『近接戦闘は美鈴さんに任せて、俺は離れて射撃に徹底するということか』

『はい。それが一番安全かと』

『そうだな』


『それに、澪には雷獣が見える場所にいて、その意識を覗いてもらいたいのです』

 確かに、それは重要な任務だ。


『でも、敵は雷獣だけじゃないぞ。小型の怪獣がわらわらと寄って来るはずだ』

『はい。セイジュウロウにも接近戦用の武器を用意してあります』


『なんだ、それは?』

『お楽しみにしておいてください』


『サバイバルナイフくらいしか持っていないぞ?』

『大丈夫、それで十分です』



『澪さんを背負うにしても、本格的な戦闘になるなら両手を開けておかないとまずいだろ』


 三日前の偵察行の時は、絶対に戦闘にならぬよう細心の注意を図り隠密行動をとっていた。だが今回はそうもいかない。


『大丈夫です。USMの正式装備には、既にその機能が付属しています』

『どうするんだ?』


『防弾ベスト同士を貼り付けることができます。セイジュウロウの背中に澪のベストを貼り付けてやれば、多少のことでは落ちないでしょう』


『フライングカーが墜落して脱出した時にもそれが使えたら楽だったんだが……』

『スミマセン、慌てていたので気付きませんでした』


『あの時は、お姫様抱っこが一番安全だったからな』

 ただ慌てて逃げるだけなら、その方が確実だった。



『さて、お手紙も書いたし、村人が起きる前に出かけようか』

『そうですね。いい時間になりました。美鈴を呼び戻します』


『美鈴さんのポンチョは必要?』

『今の美鈴に悪い影響はないと思いますが、それ以前に体組織の変化でアンドロイドと認識されない可能性が高いです。セイジュウロウが大丈夫だったのだから、美鈴も不要でしょう』


『わかりました』

 現実世界に戻った美鈴さんが、ほっとしたように答えた。



 俺たちは澪さんを起こして、まだ暗い村を出てゆっくりと森の中を行く。


 澪さんが寝ている間にゴンがまた小山田村のドローンを一時拝借して、森の高空から偵察飛行を行った。

 特に獲物はいなかったのか、三日前とそう変わらぬ場所に雷獣がいることを確認している。



 前回の偵察で、小型の取り巻き獣たちも雷獣の周囲200メートル程度の範囲にほぼ集まっていることが分かった。


 広い森の中、そうそう怪獣に出会うことはない。特に今のような夜明け前の気温の低い時間帯は、怪獣の行動が鈍くなる。その意味では雛祭りの襲撃は温かな屋内へ入り込んだ小型獣が生き生きと活躍できる場になってしまったのだ。


 俺は背中に澪さんを貼り付けたまま、木の枝を避けて慎重に歩く。

 澪さんもフルガードしているので、少しのことでは怪我もしない。

 それにしても、美鈴さんの動きが早くて驚きだった。


『美鈴さんは、完全に戦闘型のアンドロイドになりましたね』

『違いますから!』


『鈴ちゃんはしっかりこの力を隠しておかないと、日奈ちゃんにバレたら大変だよう』

『わたしはあくまでも医療班ですからね』


『いや、今ならセイジュウロウより強いんじゃないでしょうか?』

『じゃあ、俺が医療班になりますから、美鈴さんよろしくお願いしますよ』

『ダメです!』


『でも鈴ちゃん、あの変態ドクターと組んでいるよりも、その方がいいと思うけどね』

『ああ、それもそうですね。じゃあ私と清十郎さんでコンビを組みましょう』


『いいですね。今日はコンビ結成の初戦ですから、頑張りましょう』


『それはそれで、美玲が嫉妬して暴れそうデスネ』

『それは怖い……』


 


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