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性能確認試験

「では、只今より富岡清十郎の性能確認実地試験を開始する」


 隊長が珍しく緊張した面持ちで言った。


 よくわからないが、俺はUSMに大島晃ではなく富岡清十郎の名前で登録されている。もしかするとこれは隊員名ではなく、兵器の固有名称ではないかと疑っている。


 普通は隊員個人の性能確認試験なんてものはあり得ない。

 だが敢てそれをするのは何故か。

 何故なら、俺が未知の兵器だからだ。

 まあ、連中のことだから、面白がってそう呼んでいるのも確かだ。


 そのうち名前も省略されて記号と番号で呼ばれるようになるのではなかろうか。まぁ、今でもほぼ「トミー」だけど。せめてファントムとかイーグルとかカッコいい名前にしてほしい。



 先ずは室内に揃えてある機器を使ったパーツ毎の入出力関係のベンチマークテストが行われる。これは正に、機械部分が正常に機能しているかの検査である。


 パーツ毎にバラして検査されることを考えれば、この程度は我慢しなければ。


 分解されないので単なる筋力値だけではなく、自分の意思に従い正確に動作するかどうか、反応速度や反射速度、それに忘れちゃいけない視力検査も行う。

 その後、障害物のある暗い部屋の中を歩かされたりもした。


 室内での検査が一通り終わると、地下にある広い訓練場へ移動した。


 ドクター永益がここまでの報告と、ここで行う試験の説明をする。

「今日は個々のパーツの能力とその制御機構が、設計値通りに働いていることが確認できたと思います」


 八雲隊長が重々しく頷くのを見てドクターは満足そうに続ける。

「しかし生身の肉体に固定された状態でこれを利用するとなると、その性能を100%開放することは困難です。肉体との接合部分への負荷や制御系の許容範囲内での利用に制限する必要が生じます」


 ドクターはズバリと言う。

「本日の試験は概ね、基本性能の30%が基準、とご理解ください」


『おお、さすがドクター、よくわかっているではないか?』

 その数字を聞いて、俺はドクターがまともなことを言っているので感動した。


 だが、よく考えれば残る70%の性能を使えないオーバースペックの義肢に600億円もつぎ込んだ馬鹿野郎だとも言える。


 俺は全身にプロテクターや計測用センサー類を付けて、訓練場の中を走ったり跳んだり物を持ち上げたり投げたり、色々な動きをさせられた。


 適当に動いてもゴンが調整をかけてくれるので、危険を感じるようなことはない。だが機会を見ながらゴンなしで動く練習もしなければ、と危機感を抱いた。


『ドクターの言う基本性能は今日のベンチマーク結果にほぼ等しいので、それに対して30%という数値を基準に設定しました。それより下、およそ基準値の20~25%程度に出力、反応速度を調整し、その範囲に納めています。ちなみに先日ウミウシと戦った時もこの程度でしたので、心配無用です』


 一昨日と言っていることが少々違うが、まあ結果オーライとしよう。

 しかしどれだけ無駄に基本性能が高いんだよ、とドクターに突っ込みを入れたくなる数字だ。


 例えば、ゴンの言う基準値の20%でも垂直飛びが3メートル以上に達する。

 100メートル走は3秒台。時速100キロを軽く超える。助走してウミウシを跳び越えたのもわかる。


 野球のボールなら肘から先で軽く投げても時速250キロを超える。全力投球をしたら文字通り、腕が抜けるだろう。



「それで、俺は素手で怪獣と戦うわけじゃないですよね?」


 一通りの試験が終わり、俺は少し青い顔をした八雲隊長へ尋ねた。当然、ドクターはその隣で満足そうにドヤ顔をしているわけだが。


「ああ、そうだな。生憎うちには白兵戦用の武器はコンバットナイフくらいしか用意していないのだが……」


 白兵戦用の武器だって?

 まさかナイフ一丁とは言わないよね。それとも、剣や槍で怪獣と戦わせたいのだろうか。

 ここはファンタジー世界か?


「普通に飛び道具でいいんですけど……」


 せっかく夢の21世紀にいるのだから、怪しげなビーム兵器くらいは撃ちたいものだ。


「今後の射撃訓練次第で銃の所持許可が出せるかもしれない。だが市街戦を基本とする俺たちの場合、無暗に発砲するわけにもいかないのだ」


「俺、運転免許もないし、何の役にも立てそうにないですね」

 それは非常に嬉しいことだが。


「そうだな。何せ相手がでかいので、個人で扱える強力な武装は少なく、車両に搭載するような大型の火器が多い。だから、その訓練も今後は必要になる」


「はは、何ならその車両搭載兵器を一人で担いで走り回り、バンバン撃ちましょうか?」


「…………ああっっ、それだっ!」

 しまった。口は禍の元、勝手に自爆してしまった。



 午後からはシミュレーション訓練となり、ガイダンスの時に被ったヘルメット型の機器を使い仮想空間へダイブして、ホバーカーに始まる各種乗り物と、銃器の扱いについての基礎訓練を受けた。


 こんなことが出来るのなら、ほとんど実世界に出ないで過ごせそうだ。

 いや、いっそそうして引きこもりたい。


 午前中の試験結果で得たパラメーターが、このシミュレーション訓練に投影されている。

 そしてゼロ小隊全員がパーティで対怪獣戦を行うと、俺一人だけほぼ怪獣扱いとなることが分かった。


 俺以外の隊員がフライングカー2台に分乗し、空から波状攻撃をかける。


 俺はサポート隊員の運転する小型のホバーカーで怪獣に接近し、途中で降りて一人で走り回って遊撃する。ホバーカーには各種の武器が積載されていて、色々試してみたい。


 しかし不安定な2台のフライングカーよりも地面を走り回る俺の方が機動力は高く、スピードもあってゴンのおかげで攻撃の命中精度も遥かに高い。


 だから、フライングカーが何もしないうちに俺一人で怪獣を撃破してしまう。


 色々な武器を試す間もなく、ホバーカーで待機するサポート隊員も呆れている。



『ゴン、俺もう辞めたいんだけど』

『まだ訓練初日ですよ』

『だって、こんなクソゲーもう嫌だよ』

『現実はこんなものではありません。訓練は大切です』

 くそー、現実か。確かにカエルの時もウミウシの時も、俺は必死だった。

 気を抜けばすぐ死んでしまう、厳しい世界なのだ。


 想像したくはないが、俺が全力で敵に立ち向かわねばならない事態に陥ることも、考えておかねばなるまい。


 しかし、そういうこいつにとって現実ってのは一体何なのだろう?


『おいゴン、おまえってシミュレータの中でも構わず平気で出てくるのな』

『はい、これもワタシにとっては貴重な現実ですから』

『……』



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