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地下侵攻

 

 地上では悪天候が味方になるという滅多にない幸運に恵まれて、通天閣の無双が始まろうとしていた。


 しかし地下では事態は悪化の一途を辿っている。


「ダミー奪還作戦」により無事牢獄からダミーを救出した俺たちは、シェルター経由でターミナルへ向かうルートを目指していた。


 ドクターとエルザさん以外は、投獄時点での自分の姿とそっくりな人形を担いでいる。不測の事態を考えると自力で歩かせるよりは、この方が面倒がないだろうとの判断であった。


 俺だけ、自分とドクターの人形を両肩に担いでいるが、それは仕方がない。


 急いでいたのでアジトへは戻らず、途中でゴンの指示した空き倉庫へダミーを仮置きして(放り込んで)おいた。


 自分の分身のような人形なので、埃まみれの倉庫へ放置するのには俺や澪さんにとってはやや抵抗感があった。

 だが、ドクターやアンドロイド姉妹はさすがにドライなものである。


 ターミナルに常駐していた守備隊からの応答はなく、全滅した可能性が高い。


 地下に待機している討伐隊員の半分は副隊長の日奈さんに率いられて、上層の支援に向かっている。


 日奈さんに化けた怪人が何らかの手を打って来るのは間違いないが、隊員たちには全て周知済みで、簡単に罠にはめられたり、騙されたりするようなことにはならないだろう。(と希望する)


『侵入警報です』

 半魚人により塞がれていなかった幾つかの出入口の一つが地上側から破られて、そこから小型怪獣が地下へなだれ込んでいる。


 そこは、地下プラントを出入りする瓦礫や再生コンクリートと鉄骨、鉄筋などの資材を搬出入するための、メインルートだった。


 大型クロウラーが地上と地下倉庫を行き来するランプの先には巨大な資材用エレベーターが設置されていて、その太いエレベーターシャフトの縦穴から、一気に大量の怪獣が地下へ降りて行った。


 本来有事の場合には何重にも閉鎖されるべき侵入ルート上の隔壁やシャッター関連の機能が、何故か全て機能不全を起こしていていた。


 これこそが、内部から林氏と日奈さんが密かに手引きしていた破壊工作活動の一つだった。


 雛祭り侵攻を凌ぐ500体以上の中小怪獣が、倉庫を経由して居住区画を通る安全なルートから地下施設へ入っていた。


 大部分の区画の閉鎖が進む中、一部の隔壁が機能不全を起こして怪獣たちの通路を形成している。


 怪獣のために周到に用意された道を辿り、次々と百鬼夜行の化け物が各層へなだれ込み、小型の斥候タイプは深層へ向けて一気に進む。


 その圧倒的な数量に対して市民には反撃の余地がなく、逃げ惑い倒れ伏し、次々と怪獣の胃の中に飲み込まれて行った。


 満腹になって動けない怪獣を乗り越えて新たな怪獣が進み、地下は絶好の狩場として怪獣のなすがままに蹂躙されていた。


 地下への侵入は完全には防げないだろうと予測していた俺たちだが、考えていた以上の猛進に恐怖を感じた。怪獣の地下への進行速度が、圧倒的に速い。


 残る討伐隊の半分は八雲隊長が率いて、ターミナルへと向かっていた。



 地下深くの牢獄から出て人形を倉庫へ隠した俺たちは、急いでターミナルの援護に行くつもりだった。


 しかし、既にそんな状況ではなくなっている。


 俺たちはターミナルへ行くのを諦め、最重要拠点であるシェルターを守るため、その入口付近に陣を構えた。


 非戦闘員のドクターとエルザさんは予定通りシェルターの中に逃れている。


 シェルターにはUSM上層部や子供祭りに協力してくれた実行委員会のメンバーと関係者が避難していた。


 澪さんはその中を一瞥し、怪人が混じっていないことを確認してほっとする。

「大丈夫。ここには人間しかいませんから」

 シェルター内部へそう声をかけ、澪さんがこちらを向く。


「では澪さんも、後はよろしく」

「嫌よ。私も一緒に行く!」

 澪さんは断固としてシェルターへ残ることを拒み、俺たちと一緒に怪獣と戦うことを選んだ。


 結局俺と澪さん、それに美鈴さんと美玲さんの四人が残り、通路に展開する。


 俺たちは少数だが、今回は武器も弾薬も大量に用意してある。多少の余裕を持ってバリケードを築き、迎撃態勢を固めた。



 怪獣どもの先兵がやって来る。


 俺たちはバリケードの中から激しい射撃を行い、小型の怪獣たちを寄せ付けない。

 とりあえず今は市民を巻き込む恐れがないので、気にせず撃ち放題だ。


 俺たちの張る弾幕を通過できるような怪物は、今のところ現れていない。

 目の前の一団を全て撃ち倒し、俺たちはバリケードから前進して、突き当たったT字路の両側をチェックした。


 足元に横たわる怪獣は、俺たちが撃ち殺した攻撃専門部隊、いわゆる殺し屋たちだ。

 手負いの人食いは、俺たちに背を向けてT字路を左右に逃げて行く。


 妙だと思ったが、逃げているのではなく、シェルターへ近付く人を追っているのかもしれなかった。


『大丈夫です。その先に人間はいません。深追いする必要はありませんよ』

 その背を追おうとした俺を、ゴンが止めた。


「そうか。それにしても、手応えがなさすぎるな」

「ほんと、期待外れね」

 澪さんが退屈そうに言った。


「でも、これくらいで丁度いいんですよ」

 俺は雛祭り侵攻の凄惨な現場を思い出していた。


 このメンバーで、あんな激戦に巻き込まれるのは、本当に勘弁してほしい。

 その後、ゴンの指示により時折襲ってくる攻撃専門の殺し屋たちを適宜銃撃しつつ、俺たちは状況の把握に努めていた。


 地上では大嵐の中で通天閣を中心とした部隊が依然として半魚人と交戦中だ。


 悪天候に助けられて怪獣の動きが悪いが、こちら側も復興途上の街の被害をこれ以上増やさないためにも、無茶な攻撃ができないようだ。


 今のところ打てる手が少なく、膠着状態に近い。

 今回は通信障害が少なく、内部へ侵入した多くの獣による施設への破壊行為も控えめだ。


 林の破壊工作により作られたルートの詳細はまだ掴めないが、それにより地下深くへと侵入した怪獣が市民を追って、こちらへ近付いているのは間違いない。



 一方、ターミナル方面へ追い詰められている市民も多い。

 逃げる市民の背後には、怪獣が迫っている。


 ターミナルに巣を作るタコ一族と、背後の小型怪獣の群れ。

 八雲隊長の率いる部隊は、まだターミナルへは到達していない。


 だが、俺たちはターミナルへ加勢に行けず、上野の惨劇は非情な速度で進んでいた。

 俺たちはシェルター前の通路に陣を築き、近寄る怪獣たちを片端から倒していた。


 特に前衛の戦闘特化型の小型獣に関しては、最優先で潰していく。

 同時に、ゴンの中継で二隊に分かれて行動している討伐隊の映像が視界の隅に映っている。



 上層へ向かった部隊は不思議と戦闘もなく進んでいたが、突然白い霧に包まれて霞んでいた。場所は地上へ向かう非常通路の一部だ。


 そして、その霧が消えると日奈さんの部隊の姿はなく、通信も途絶えた。


『神田川副隊長の率いる討伐隊15名が行方不明になりました』

 ゴンが感情のない声で報告した。


 これにより、地上から侵入した数百に及ぶ怪獣は、何の抵抗も受けずに地下街を我が物顔で進むことができる。



 一方、八雲隊長の率いる討伐隊は、じりじりとターミナルへ向かっていた。


 圧倒的に怪獣の数が多いので囲まれないよう移動しつつ戦っているが、地下の深層には市民の姿は見えない。


 既に多量の怪物に追われシェルターへ逃げ込んだが、食われてしまったのか。

 隊の移動途中に、満腹状態で動けなくなっている中型獣を幾つか発見している。既に怪獣の波が、一度通り過ぎた後なのだろう。


 やがて前方の敵が減り、数々の中小怪獣に追われるように、討伐隊はターミナルへ到達した。


 隊員により映し出された子供祭り会場の映像には、人ひとりいない。


 ただ広場の中央に巨大なタコが座り込み、満腹になって眠っているように見えた。


 


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