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ターミナル

 

「また、ずいぶんとおかしな場所へ呼び出したな」

 八雲隊長が俺たちを見つけて向かいの席に座るや、店内を見回してそう言った。


 だがそんな店だからこそ、俺たち四人の他に客はいない。

「すみません、うちのAIアシスタントの趣味で」


「私はずいぶん前に一度、永益先生に連れて来られたことがあります。まだあったんですね、この店」

 もう一人は、調査隊隊長の明石美琴あかしみことというアラサーの女性だ。


「当時と何も変わっていないのがすごいですね」

「もしかして、昔ドクターと付き合ってたんですか?」

 つい、いつもの調子で俺は軽く聞いてしまった。


「いえ、先生の送別会の後、面白い場所があると言って女性を何人か誘い、ここへ来たんです。男性隊員と二次会に行くのが嫌だから付き合ってくれ、と無理やりに……」


「なるほど。ドクターらしいや」


「そうですね。私たちの中にもドクターの世話になった子がいたんで、最後くらいは付き合わないと、と思いました」


 そういえば、調査隊には俺やドクターのような浦島太郎が多いと聞いた。

 きっと、まだ自分のように怪獣の腹に捕えられたまま眠っている者がいるのではと思うと、じっとしていられないのだろう。もっとも、調査隊の業務はそれだけではないのだが。


「そのころのドクターって、今よりもっと変人だったんですよね」

「そりゃ、若い女性をこんな店に連れて来るくらいですから!」

 そう言って、明石さんが笑う。


「で、そのドクターが逮捕されたと聞いているのだが……」

 俺たちが拘留された件についてはまだ公にされておらず、隊長クラスしか知らないそうだ。


 俺はこれまでに起きたことを、二人に説明した。



「お、お前たち二人とも脱獄犯なら、それらしい変装くらいしろよ!」

 呆れたように、八雲隊長に言われた。


「いえ、ここへ来るまではちゃんと変装しましたよ。でもこの店はもう結界の中だから大丈夫とゴンが言うもんだから……」

 俺は慌てて言い訳をする。


「その、ゴンっていうのが噂のスーパーAIなのね」


『はい。ワタシがそのスーパーAIデス』

 明石さんが変なことを言うので、ゴンの奴が調子に乗って出てきてしまった。


「こ、これがその脳内通話という奴なのか?」

 八雲隊長にも聞こえたようだ。


『観測者の配下がどの程度USM内部に浸透しているのか不明なうちは、迂闊な動きが出来ません。しかし、お二人が確実に信頼できる範囲で、有事に備えていただきたいのデス』


「それも、澪さんと美玲さんの今後の調査次第ってことになりますが」

「有事ってのは、どの程度の規模を想定しておけばいいの?」

 明石さんが考えながら言った。


『規模で言えば、東東京だけでは収まらない可能性を考慮しておいてください』

「つまり、この場所が要になるってことだな?」


『はい。ここを先に押さえられたら、上野の市民は逃げ場を失います』

「そうね。ここと西新宿のハブが東京の弱点だものね。内部に精通した敵なら、定石通りに狙うでしょう」


「わかった。可能な限り他の支部にも協力を仰げるような体制を作る」

 二人の隊長が動いてくれれば、心強い。


『今後は、念のためUSMの回線を使わない連絡手段を用います』

「そんなことが出来るとは思えませんけど?」

 明石さんが即断する。


「大丈夫、妹たちが造った秘匿回線網がありますので」

 美鈴さんがそう言って、店主のタロスに視線を送る。


 俺たちもそれに倣うと、夫婦役のタロスが満足そうに頷いた。

「よくわからんが、何となく分かった」

「そうね。私もそういうことにしておきます」


『では連絡方法を送ります』

 ゴンが秘匿回線の接続に必要な情報を二人に送った。


 誰にも言えないがこれは一種のウィルスで、この二人も遂にゴンによって汚染されてしまったことを意味する。


 単に電子的な情報だけではなく、ゴンのナノマシンによる物理的な汚染でもある。俺たちは正真正銘のテロリストだ。


 観測者が恐れていたのは、俺たちのこういう非倫理的な行動規範なのではなかろうか?

 これは、笑えない。


『今更何を言っているんですか。血も涙もなく人を殺し回っているのは、その観測者の方ですよ』


 そうだ。それを忘れてはいけない。俺たちはレジスタンスなのだから。


 そう言いつつも罪悪感が残るのは、魔王のようなゴンを俺が本当に抑えられるのか不安だからではなかろうか。


『大丈夫ですよ、セイジュウロウ』

『お前が言うな!』


 二人が出て行った後も俺たちはしばらく店内に残り、コーヒーのお代わりを飲みながら周囲の状況を観察した。


 地上を飛ぶフライングカーと違い、地下のトンネル網は限られたルートを行くしかない。


 その分天候に左右されず確実な運航が可能だが、幾つかの道の交わるターミナル駅の重要度が高まる。


 そう考えれば、飛行場や港、駅などが不要なフライングトレインの優秀さが際立つ。

 何しろ余程の悪天候でもなければ、空中で分解して個別のコンテナ船に分けてしまえば、小さなトレーラーで牽引して直接建物内に人も荷物も運び込めるのだ。



 このEAST東京ステーションは通称ターミナルと呼ばれ、最重要拠点として、常駐の守備隊が置かれている。


 装備品もUSMから支給された最新の機種が用意されている。


 周辺施設の重要なインフラも複数の独立した系統が用意され、地下シェルターからの脱出、もしくは他の街からの避難民の受け入れ態勢は、最高の強度で確保されている。


 雛祭り侵攻の時にも、地下シェルターとこのターミナル周辺は無傷だった。

 だが、既に地下に侵入した敵がこの場所に手を伸ばしている可能性もある。


『もう少し、慎重な調査が必要ですね』

『ああ。ここと地下シェルターが上野の生命線だからな』



 


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