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暗躍

 

『打つ手は一応打っておきましたが、どうなるでしょうね』

 突然ゴンが言い出した。


『一体何をしたんだ?』

『もし、澪とドクターがこれほど厳重な隔離部屋に入れられてなければ、充分にチャンスはあります』


『どういうことだ?』

『さすがに澪も武装解除された際に、DNスーツまで脱がされてはいなかったようです』


『まあ、丸裸になるからな』

『そうです。それにDNスーツを着用していれば、囚人の管理が容易です。室内環境が多少悪くても平気ですし、バイタルのモニターや行動の監視も簡単です』


『確かに、その方が面倒はないな』

『澪の肉体はDNスーツを着た状態で最適化されたので、セイジュウロウや試作型アンドロイドと違い、スーツとの親和性が高いのです』


『だから澪さんは、今もあの恥ずかしいレオタードを着たままだと……』

『はい。でもドクターと澪が着用しているのは、普通のDNスーツではありません』

『ああ、USM隊員専用の高機能版だったか』


『いいえ、DNスーツを開発したのはドクターですよ。そのドクターが通常の支給品を使用するわけがありません。澪とドクターのスーツの見た目は通常品と変わりませんが、中身は全くの別物です』


『拘束される直前に、澪には脱出に関するメッセージを伝えました。恐らくドクターも今夜までは迂闊に動かないでしょうから』


『二人は脱出可能ということか?』

『そうですね。二人がDNスーツの機能を使いこなせば、電子錠のハッキング程度は可能かと』


 まだ希望はある。


『しかし、二人が脱出した後は?』

『それも、別の方法で何とかなるでしょう』

 さすがに、こいつには色々と裏の手がありそうだ。



『ところで、グランロワがこの一件に裏で絡んでいるとすれば、俺たちのこの会話も傍受されている可能性があると思わないか?』


 俺は少し呻きながら、ベッドの上で大きく手足を伸ばして目を閉じる。薄いマットが凹み、両手が壁に届いた。


『あのトンネルは周到に用意された特別な罠だったと思います。USMの最高機密を誇るこの場所には、逆にそんな大掛かりな細工をするのは困難かと。もしそれが可能であれば、澪やドクターもノーチャンスでしょうね』


『そこまでやられていれば、最初から勝算はないということか……』

『そういうことになりそうです』


『で、他にも何かあるんだろ?』

『あまり言いたくないのですが……』


『こら、今更何を言うか』

『ではせめて、そのバカ正直な顔を隠してください』


『毛布を被って泣いたふりでもすればいいか?』

『はい、それでいきましょう。毛布の内部は私が偽装しますので、思いきり泣いてください』


『本気か?』

『だから、軽いジョークですよ。わからない人ですね』


『ああ、面倒な奴だ!』

 俺は薄いコットン毛布を頭から被り、うつ伏せ寝の体勢になった。

『で、言いたくないことって、何だ?』

『慌てないでください』


『澪さんにどんな指示を出したんだ?』

『ドクターと共に脱出し、美鈴と美玲を再起動してから、一緒に身を隠すように、と』


『それだけじゃないんだろ?』

『はい、可能なら澪と美玲には、USM上層部にグランロワの手の者がいないかを探ってもらおうかと』


 グランロワがあのトンネルからあっさりと俺たちを帰したのも、この仕込みがあったからと考えるのが妥当だろう。


 どうやってUSMの内部へ影響力を行使できたのか。それを調べる必要がある。


 誰が、スパイなのか?


『澪や美玲の眼が届かない場所で行われた陰謀でしょう』


『そうだよな。魔女とその弟子を欺くとなると、かなり骨が折れるだろう』

『そこで、二人を拘束し終えて油断している今なら、探り易いのではないかと』


『なるほど』

『あとは、ドクターにもちょっとしたお願いをしましたが、どうなるかわかりません』


『まあ、あの人にはあまり借りを作りたくないし』

『そうですね』


『細かい指示を出す暇はなかったから、あとは向こうに丸投げして、俺たちは救助を待つのみ、ということになるのか?』

『はい。しかし美玲が再起動できれば、何とかなるでしょう』


『美玲さんも何か強化されているのか?』

『いえ、それはあの雛祭りの夜に美玲が中心となり、上野の全施設の通信環境を再構築したことが生きてきます』


『あれって、その後再建に向けてお前が色々とUSMの技術部門に指示していたやつじゃないのか?』

『はい。それはUSMが自ら考え時間をかけて対電子対策(ECCM)を実行したような満足感を与えるための、欺瞞工作の一環として……』


『実際には、その時は既に美玲さんによる仕込みが終わっていたのか……』

『ほんと、お前が敵じゃなくてよかったよ』


『ワタシも、セイジュウロウの中にいなければここまで自由にできなかったと思いますよ。感謝しています』

『何を言ってるんだか』


『じゃあ、仲間を信じて果報は寝て待てばいいんだな』

『はい。もはや我々にできることはありませんので』


『本当に、それでいいのか?』


 いや、いいのだろう。

 こいつのことだから、仲間が失敗した時には、きっと何か別のプランが出て来るのだ。



 


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