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隔離

 

 二月にこの世界に来てから、これで何度目の拘束だろう。


 そもそも目覚めた時から俺は入院していて、気軽にベッドから出ることも許されなかった。


 その後、澪さんと一緒に二週間の自宅謹慎。


 しかも謹慎が終わらぬうちに雛祭り侵攻の戦いに巻き込まれ、損傷した肉体を直すのにまた十日ほどバーチャル世界で過ごした。


 次はひと月前の海馬戦で、まさかのニューボディーの損傷による三週間の戦線離脱。


 あ、その前に美鈴さんの肉体改変のため、小山田村のゲストハウスで72時間の寝たきり生活というのもあった。


 そしてもう大丈夫だろうと思っていたら、今度は何かの陰謀に巻き込まれて投獄されるという意味不明さ。


 何だ、これは。


 この世界は、余程俺を自由に動かしたくないらしい。

 あ、もしかしてそれは、俺よりゴンのことなのかもしれないが。


『ワタシは10年以上も前からずっとこの肉体の中に閉じ込められたままですが、何か?』


『そもそも、お前の自我が芽生えたのはいつなんだ?』


『その辺の記憶は曖昧ですが、東京に怪獣の第三次進攻があった2036年前後と思われます』


『お前、意外と若いんだな。でも中二病のAIには丁度いい年齢か』


『今はそんなことを言っている場合ではないような気がしますが、気のせいですか?』

 心なしか、ゴンの言葉には怒りを感じる。


『やはり、セイジュウロウはバカでしょう。バカなんですね。そうですね!』

 よくわからないが、これは本格的に怒っているようだ。



『あ、あのさ、ここがどこだか、分かるのか?』

『上昇しているUSMビルの地下空間……伸縮するエレベーターチューブの最下層にある進入禁止エリアから地下街を更に東へ移動した、下町の低湿地帯の地下に当たる部分デスネ』


 その場所は、俺も聞いたことがある。

 街と隔離された、特別な区画があると。


 そこにあるのは、生きた怪獣を収容可能な巨大隔離施設を含む、バイオハザード対策が徹底された秘密の研究施設だという。


 更に、そこから遠くない場所には、一部の危険人物を収容する施設も併設されている。


 その一番奥にある小部屋が、ここらしい。


 例えば体内に爆弾を抱えたテロリストなどを収監するために造られた、耐爆型の隔離施設。


 内部からも外部からも、あらゆる攻撃を無効化する小部屋。

 核爆発にもバイオテロにも耐える、世界一安全な場所と呼ばれる独房だ。

 そんな特殊な部屋に、俺たちは押し込められているらしい。


 さすがに容易に脱出することは不可能だろう。


 だが、そんな特殊な部屋は多くない。

『澪やドクターは一般人ですので、別の区画の普通の独房に入れられているのでしょう』


『俺たちは完全に手詰まり、ということか……』

 さすがに今度ばかりは、先方からの接触を待つしかなさそうだ。


『もしかしてこれが観測者の言っていた、考える時間を与える、ということなのか?』

『かもしれませんね。今は与えられた宿題をする時間なのでしょう』


『俺は宿題なんて大嫌いだ』

『ワタシもです』


 俺は部屋の隅に固定された、コンクリート製の寝台に横になる。

 これが俺に与えられた「宿題を考える時間」だとすると、USM内部にもグランロワの手が伸びていると考えるべきである。


 それは思っていたよりも厄介で、今後は色々と面倒なことになりそうだ。



『監視カメラの位置とか、分かるのかよ?』

『幾つかそれらしきものがありますが、実用性のないダミーでしょうね』

『何故?』


『この部屋全体が、ありとあらゆる高度な観測装置の塊のようなものですから』

 囚人というより、危険物か実験動物のような扱いなのか。


『ああ、そうか。生きた怪獣を入れるケージと同じレベルの施設だからな』


『そうです。場合によってはバイオハザードの恐れもありますので、この区画全体がバイオセーフティ(BS)レベル6相当の基準で管理されていると思います』


『お前のヤバいナノマシンも隔離しないとな』

『まあそういうことです。あらゆる方角からあらゆる方法で我々は常時監視されています』

 嫌な感じだ。


『例えば俺の脳波を遠隔から感知して、思考を読み取るとか?』

『はい。例えば今のセイジュウロウの脳波を測定すれば、きっと澪のおっぱいのことしか考えていないように見えるでしょう』


『それは今現在お前が行っている欺瞞工作なのか?』

『はい。でも実際、結構当たってたりもして……』


『もう少し、マシな欺瞞はできないのか?』

『では美鈴の尻にしますか?』


『いや、だから、そっち方面ではなくて』

『では腹減った、とか』


『確かに腹が減ったな』

『そういう根源的で単純な欲求の方が、再現が容易です』


『なるほど、そういうことか。でも、怪獣の肉は美味かったよなぁ』

『ほら、そういう危険な思考が漏れたら大変ですよ』


『あれ、そういえば、美鈴さんが怪獣肉を大量に持ち帰ったはずたけど……』

『あれは貴重なサンプルとして、研究者の手に渡るのでしょうね』


『そもそも、あれがバレた時点で俺たち三人はアウトだよな』

『はい。まさかこんなことになるとは』


『焼肉パーティーをするために貰って来たとは言えないよなぁ』

『そんなことが研究者に知れたら、腰を抜かすでしょう。ただ、ここで我々を監視しているのは人間ではなく、AIです』


『なるほど、ゴンには付け入るスキがあると』

『既にワタシの手の中ですから、監視装置を遡ってハッキングをかけることも可能ですが、それは基本的な対電子戦の手法として、ある程度は先方も対策済みでしょう』


『なるほど。で、どうするんだ?』

『せっかくの休暇なので、ゆっくり休ませて貰いましょう』


『はは、俺はずっと休んでるんだけどな……』

 それでも宿題はしない。


 俺は宿題が大嫌いなのだ。




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