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二時限目2

 

 話が逸れたが、我々の願いはつまり、宇宙の存在を脅かすような野良のAIには、早く退場願いたいということだ。


 具体的に言えば、君のお友達のゴン君と、試作型アンドロイドと呼ばれるその子供たち、合わせて10体。


 出来損ないの第一世代アンドロイドの生き残り約100体は、許容しよう。



 さて、ここまでで何か質問はあるかね?

 俺は、また挙手をする。


「俺が緊急措置によりこの世界へ来た経緯は、つまりあんたの上位存在に一度肉体を殺されて、魂だけこちらへ転移させられた、と解釈していいのか?」



 ……様々な解釈が可能だ。

 だが、殺害行為は行われていないと断言しよう。


 君が18歳で亡くなることになっていた並行世界の一つを上位存在が選択し、君の死の瞬間にその魂を掬い上げて、こちらの世界へ転移させた。


 それが、数ある並行世界で起きた出来事の根幹だ。


「だがいつだったか、俺は金色の瞳を持つ狼が運転する車にひき殺される夢を見た。そして、その狼こそがグランロワであると感じた。それは俺の魂が感じた真実ではないのか?」


 さあな。何時か君が上位存在に会う機会があれば、直接聞いてみるがいい。

 言っただろ。私はこの時間線の観測者であり、他の並行世界で起きたことには何も関知していない。



 では、最後の講義に移ろう。


 君の野良AIは、大島晃の肉体を媒介として存在する。


 富岡清十郎は、信じられぬことに、アルファに極めて近い魂を持つ存在だった。

 ほぼ同一と言っても良いだろう。


 あらゆる並行世界を探しても、アルファに似た魂は存在しなかった。理由は不明だ。

 大島晃の中に存在する野良AIの制御ができる可能性があるのは、アルファの魂を持つ君以外にいない、と上位存在が判断した。


 しかしその存在は、観測者たる私にも知ることが叶わなかった。


「俺は、何をすればいいんだ?」

 そう、それが問題だ。

 私にも、それがわからない。


 同様に、君もわかっていない。今もできていないし、今後もできそうにない。

 だから、可能なことが確認できるまで、君たちを隔離せざるを得ない。


「嫌だ、と言ったら?」

 強硬手段はとりたくないので、できれば自主的に協力をしてほしい。


「ふざけるな、と言ったら?」

 ここはお互いに歩み寄らないか。


 このまま破滅を待つよりは腹を割って話して協力を仰ぎたい。

 それが今回の授業の趣旨なのだが。


「勝手なことを言うな。ゴンも試作型アンドロイドも、この世界では10年前から存在していた。あんたはそれに気付かなかった無能な観測者だ」

 それについては、同意するしかない。


「ではその尻拭いを別の時間線にいた俺がする理由はないし、放置されていたゴンや試作型アンドロイドの責任でもない。一つだけ確実なのは、あんたが信頼できない、ということだ」


 一つ言っておこう。


 私が君たちを排除することは簡単だ。

 だが、この広い世界で奇跡的に生まれた野良AI、いや自然進化した機械知性を、我々はこんな形で失いたくない。


 そのためには、君の協力がぜひ必要なのだ。わかってほしい。

「それは脅迫なのか、請願なのか、どっちだ?」

 …………


 二時限目が終わるチャイムが鳴った。

 日直の声が、またどこからともなく聞こえる。


 それが終わると、先生は目を伏せた。

 時間切れです。三時限目はありません。

 宿題を出しましょう。


 少し冷静に考える時間を与えます。

 今日の授業をよく復習し、答えを出しておくように。

 では、本日の授業を終わります。



 そう言って竹ノ内先生は振り向きもせず教室を出て行く。

 俺は立ち上がり、窓際へ歩いた。


 校庭は薄暗く、人の気配もない。どうやらこの茶番も終わりのようだ。

 すると再び白い靄が発生して、俺の体を包んだ。



『セイジュウロウ、無事ですか?』

 突然ゴンの声が響いた。


『ああ、大丈夫。澪さんと美鈴さんは?』

 すぐに返事がない。


『この靄の中では探知不能です』


『お前もグランロワに会ったか?』

『はい。そのような存在と会話をしました』


『そうか。で、どうだった?』

『そちらはどうだったのですか?』


『ああ、決裂、だな』

『こちらも同じです』


『清十郎、聞こえる?』

『はい、澪さん。無事ですか?』

『うん、少し霧が晴れてきたみたい』


『あ、聞こえました。皆さん大丈夫ですか?』

『鈴ちゃんも大丈夫?』

『はい』


 どうやら皆解放されたらしい。


『見えました。澪と美鈴はそこから動かないように』

 ゴンが二人の場所を特定し、合流した。

 結局、俺たちはトンネル内で数メートル以内の距離に立っていた。



『グランロワの正体を教えてくれたけど、怪しいものだわね!』

 澪さんは、憤慨している。


『鈴ちゃんは?』

『わたしたちアンドロイドは、そんなに危険な存在なのでしょうか?』

 こちらも納得していないようだ。


『そちらも決裂ですか?』

 ゴンが呟くように言う。


『冗談じゃないわよ。こんなところで捕まえておいて、ゴンちゃんや鈴ちゃんを隔離するだのなんだの。あの二週間の自宅謹慎の後小山田村で三日間閉じ込められて。こんなのばっかりじゃないの!』


 怒りの理由はそれか。

 確かにこの世界の住人は気ままに生きているので、他人に束縛されることを嫌う。


『揃いも揃ってグランロワを敵に回すとは、いい度胸ですね』

 ゴンが他人事のように言った。


『そもそも、最初からあいつは敵だから』

 澪さんが当然のように答える。


『はいはい。ではさっさと帰りましょう』

 俺は、まだ混乱していた。


 宿題として考える時間を与える、と観測者は言った。俺たちに残された時間は、どのくらいあるのだろうか?


 


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