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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第三十三話

(´・ω・`)暴力! 暴力! 暴力!

「すみません、ここはグローリーナイツのクランホームで合っているでしょうか?」


 立派な屋敷にしか見えない建物。クランホームということになっているが、いまいち信じ切れていない俺は、社会通念やらなにやら関係なしに、素でこの場所が本当にクランホームなのか確かめる為に、門番の男性に訊ねてみる。


「ああ、そうだ。我らグローリーナイツのクランホームだが……もしや入団希望者か? 悪いが、今は募集していないんだ。年に一度、新年になってから募集をするから、もう数か月待ってもらえないか?」

「あ、違います。ここにいる人に用事があって訪ねたんです」


 飛び込みの入団希望者だと勘違いされてしまったようだ。

 察するに、そういう人間が多いのだろう。まぁこんだけの規模のクランホームなら、さぞや名前も通っているエリート集団なのだろう。

 ……前のナンパ強姦未遂女三人組とか、よくここに所属出来たな。


「む、すまない、勘違いしてしまった。紅玉ランクのタグを下げているからな、てっきり希望者かと思ったんだ」

「あー、なるほど。ええと、確か名前を伝えたら通してもらえるように話が通っているはずなんですけど、セイムって言います。シュリス・ヴェールさんに用があって訪ねたのですが」

「む……ちょっと待ってくれ」


 そう言うと、門番の男性は懐から手帳を取り出し、ページを確認していく。

 察するに、俺のように名前で通すように言ってある人間が何人かいるのだろう。


「お、あった。確かに団長直々に指示があったようだな。歓迎する、セイムさん」

「ありがとうございます」


 うむ……鼻持ちならない人間でもない、真っ当で職務に忠実な門番さんだった。

『エリート集団に所属してる自分は他とは違う』と勘違いし、高圧的にふるまう人間なんてどこの世界にもありふれているが、どうやらここではそんなこともないようで――






「ちょっと、団長の不在中に一般人なんか通してるんじゃないわよ!」

「いや、この人だけは特例なんですよ。もし訪ねてきたら団長が不在でも通して待ってもらうようにって」

「はぁ? ちょっとアンタなんなのよ。うちに、団長になんの用事よ」

「申し訳ありません。シュリス・ヴェールさんに直接お伝えしたいので、他の方にはお話し出来ません」


 すみません前言撤回。めっちゃ失礼な女の子いたわ。

 愛想ゼロモード発動! 高圧的ならこっちは逆に感情を全部殺す!

 失礼な人間には礼節以外のすべてを消して対応してやろう。


「なによ、怪しいわね。アンタ、どこ所属よ」

「こちらを」


 タグを示し、話すことを拒絶する。

 いや大丈夫、非礼ではないよな……? ギリギリ。


「紅玉ね。ふふん、うちのクランの大半は紅玉よ。なに、自慢でもしたいわけ?」

「所属の説明の手間を省きました」


 見たところ、歳は本来の俺と同じか少し下、つまりメルトと同じくらいだ。

 だとしたら、この子も相当なエリートなのだろうか。

 ……ガキっぽいな。


「このままシュリスさんを待たせてもらいますね」

「帰りなさい、団長は今王宮に呼ばれているの。出直すことね」

「そうですか。では門番さん、言伝をお願いします。『待っていたところ、留守を任されていた女性に帰れと威圧された』と」

「告げ口? ガキね、アンタ。なっさけない、そのランクも偽造なんじゃないの?」

「なるほど、そういう対応をされるのですか。ここは人様の家、拠点です。そこで迷惑をかける訳にはいかないからと下手に出ているんですけどね。あまり失礼な態度を続けるのなら……痛い目に遭わせますよ、お嬢さん」


 女子供だろうが、そこまで言われたら流石に多少は言い返す。

 客人として認められてるつってんだろうが。


「な! 本性を現したわね! 一般冒険者が、痛い目に遭うのはアンタの方よ!」

「失礼な物言いに耐えきれなくなっただけですが。で、本当にやるのなら外に出ましょうか? いいんですね? 団長の客に絡んだあげく、怒らせて刀傷沙汰に発展。俺はそんなに困りませんが、そっちはクラン所属の身として死活問題では?」

「今更怖気づいたの? いいからついて来なさい、教育してあげるわ臆病者」


 ただ訪ねただけなのに。

 我慢しない俺が悪いって? んなわけないだろ。悪いのはコイツだ。




 中庭に通されると、総合ギルドの中庭よりも立派な、十分に試合場と呼べる空間が広がっていた。

 恐らく自主練習や組手、練習試合のようなことをする為のスペースなのだろう。

 今も、数人の人間がまばらに訓練を行っていた。


「場所をあけなさい! 今から不届き者に誅罰を与えるわ!」


 中央の試合場を空けるように宣言する娘。

 どうやら、クランの中でもそれなりの地位にあるのか、皆大人しく指示に従う。

 だが――


「おいおい……また嬢ちゃんの癇癪か? 今度は誰の客に噛みついてんだよ……」

「通した門番誰だ? 嬢ちゃんが留守任されてる時は極力避けろって言ってるだろ……」


 ……日常茶飯事なのかい! いや厳重に注意しましょう?

 いつの間にかついて来ていた門番をしていた男性が、状況を説明する。


「特例の客なんだよ……この人だけは何があっても通しておくように団長に言われてんだ」

「マジか。おい、嬢ちゃん! 今回だけはやめとけ! 団長の客に手出すと注意じゃすまなくなるぞ!」

「うっさいわね! こいつはそもそも私に向かって『痛い目に遭うぞ』なんて言ったのよ! クランの人間への挑発、私が私闘を申し込む大義名分があるのよ、今回は!」


 うわ、これは俺のミスなのか!? ついイラついて口に出してしまったのがアダになったか!?

 でもなぁ……本気でイラついたんだよ。こういう態度を許してる周囲の人間もどうかと思う。


「兄ちゃん、それがマジならこれ以上俺らには止めらんねぇが、どうする」

「客人に対する無礼な物言いや態度をこれまで許容していたんですよね? 誰も強く咎めなかった。その結果がこれです。ここで俺が大けがをした場合も、しっかりと証言してください。俺が好き勝手言われてる時の様子も門番さんが見ていましたし」

「……まぁ、そうだな。耳がいてぇ話だ。死ぬなよ、兄さん。あんたは団長の客だ」

「……反対にこちらがどう戦っても、手心を加えなくても止めないで下さいね。どうやら本当に真剣勝負みたいな空気ですし」

「アンタ……ただし殺しはなしだ。こんなんでも俺達のクランの家族みたいなもんだ。試合を逸脱するようなら、止めさせてもらう」

「了解」


 さて……丁度いい、恐らく一般の冒険者より確実に強いであろう人間相手に、対人戦でどこまで出来るのか、セイムの今の強さを計るためにも……全力で行く。




 試合場に、向かい合って距離を取り立つ。

 大体七メートル程だろうか。

 ドッジボールコートを二回りくらい広くしたスペースで、互いに剣を構える。

 俺はいつもの片手剣。性能はほぼ最低。

 あまり強力な武器だと、それこそ見た目が派手だったり美しすぎるので、絶対に浮いてしまうからと、かれこれセイムに初めて変化した時からずっと使っている剣だ。


「ふぅ。一般装備すぎるな」

「始まりの合図なんてないわよ。初手くらい譲ってあげるわ臆病者」


 防具、革の肘当てと膝当て、革のガントレット。

 服の上からそれらをつけているだけなので、正直駆け出し冒険者にしか見えない装備だ。

 が、セイムの強さは……シレントの次の次の次くらい、だろうか。

『封印』『使用自粛』のキャラを抜かせば、それなりに強い前衛キャラであるセイムが、自己強化バフ使ったらどこまでやれるか――


『ガアアアアアアアア!!!! マジで潰す!!! タダでは済まんぞ!!!』


 うわ、口が勝手に動いた! スキル発動しただけなのに!!!!


『クリムゾンハウル』

 威圧的な咆哮と宣言で対象を萎縮させ動きを鈍らせる

 自身の攻撃力をランダムで強化(最大九倍)

 使用後最初の攻撃にのみ適用される


『ラピットステップ』

 移動速度と攻撃速度を100%上昇させる

 使用後の攻撃回数を一度だけランダムで上昇させる(最大九倍)



 相変わらず剣士×盗賊にした場合のアクティブスキルはランダム要素が強い。

 その分上振れた時の爆発力はとんでもないけど。


「なによ! こけおどしをしたってそうはいかないわ――」


 全速力で駆け出し、もう目の前まで迫る可愛らしい顔に剣ではなく拳を叩き込む。

 顔面ど真ん中に強烈に拳がめり込み、物凄い勢いで吹き飛ぶ娘のさらに後方に一瞬で回り込み、飛んできた娘を、バッティングセンターでボールを打ち返すように、剣の腹で思い切り地面に向かい叩きつける。

 なんで気抜いてるの? 先手譲ったんだろ? もう始まってんだろ?


「グギャ!」

「どうしたガキ! 早く立ち上がれ! 潰すぞ!!!!」


 なんか口調が戻らない!


「そこまでだ! やめろ! やめろお前、もう動くな!」


 次の瞬間、周囲の男たちが一瞬でこちらを取り囲み、武器を突きつけていた。

 ……俺も、振り上げていた剣を鞘に戻す。


「……以上、教育的指導でした」

「……ああ」

「では俺は戻って団長さん、シュリスさんを待たせてもらいます」

「……分かった」


 俺は踵を返し、クランホームに戻る。

 俺に報復を行おうとしないあたり、周囲の人間はしっかりと教育が行き届いているようだ。

 個人的には、これまでなぁなぁで済ませていたであろう周囲の人間にも責任はあると思うのだが。

 背後から聞こえる、声を押し殺した泣き声を聞きながら『心の底からザマァみろクソガキ』という思いを抱く。

 これは、本当に俺の感情か? どうやら想像以上に同年代の女子に対して過剰にキレるようになってるようだ。

 いや、それとも今回は……あまりにも失礼かつ、周囲の大人が甘やかしていることに不満が溜まったからなのだろうか。

 ……いや違う、思い出した。

 セイムの感情に……かなり引っ張られてるな、これは。

 剣士と盗賊の組み合わせを行った場合、主人公は没落貴族の次男坊で、裏の世界に身を投じた……とある。

 が、主人公は貴族時代、傲慢で鼻持ちならない子供だった。それが没落し、社会の厳しさと闇を知り、自分がいかに恵まれて甘やかされてきたのか、嫌と言うほど思い知らされたのだ。

 故に、貴族時代の己のように、傲慢で鼻持ちならない子供が死ぬほど嫌い……という設定だった。

 間違いない、ここまでさっきの娘さんに嫌悪感を抱いているのは、俺が半分、セイムが半分、互いに嫌いな属性がフィットしたからだろう。


「……まぁこれで懲りたろ。心証は最悪だろうけど。こりゃ頼み事とか出来る空気にはならなさそうだな……」






 少しして、訓練所にいた人間がホームに戻って来た。

 なんとうか、腫物を扱うような気配がこちらに向かってくるが、特に敵愾心のようなものは感じない。

 ……薄々、あの女の子の態度をどうにかしないといけないとは思っていたんだろうな。

 正直、個人の機嫌を損ねるだけならマシな方なんだよ。

 もし、これでどこか大きな組織の使者だったり、大事な人間の使者だったりしたらどうなっていたか。

 間違いなく、クランにとって深刻な損害が出ていただろう。

 なら俺は開き直ろう。俺は悪くないと。

 男女平等、いや老若男女平等に、喧嘩を売られたらしっかり買って分からせる。

 ここだけは揺るぎない、絶対の信念にしよう。

 もう、誰にも俺の人生を邪魔させたりはしない。たとえ元クラスメイトであったとしても。

 そして理不尽な暴力、言葉であったとしても全力で抵抗してやる。

 ここは日本じゃないんだ、この世界のルールが許す限り、自由に生きてやる。

 これは紛れもない俺の、シズマの意思だ。


「あー、すまねぇ兄さん。名前、なんだったか?」


 その時、訓練場にいた一人が声をかけてきた。


「セイムです」

「そうか。セイムさん、ちっと応接室に移ってもらえないか。談話室にいらるとその……」

「ああ、先程の娘さんが戻って来られませんね。では案内をお願いします」

「おう。……さっきとは別人だな、セイムさん」

「基本はこうですよ。あまりにも理不尽に悪感情を向けられたら、誰だって腹の奥底ではあれくらい怒っていますよ。それを発露して力に変えた結果です」

「……そう、だよな。そうだよな……本当に……いつの間にか驕ってたのは何も嬢ちゃんだけじゃなかったんだろうな……俺達もだ『このくらい仕方ない』なんて」


 ……マジで統率が取れてるというか、人格者が多いというか。

 このクラン、凄いな。むしろなんであの娘さんが許されていたのか。

 ……まぁ若くて子供っぽくて可愛いし? 甘やかしたくなる気持ちも分からなくもないけど。

 だが限度があるでしょうよ。


「ここだ。この中で待っていてくれ。団長は今王宮に呼び出されているが、恐らくなんらかの会議だ。さすがに晩餐会みたいな催しは開かれないだろうし、夕暮れ前には戻るはずだ」

「……そうですか。すみません、何も聞かずにこれを受け取ってください」


 俺は、この応対してくれた団員の冷静さと、己を顧みる言動に、少しだけ自分の行いを思い返し……正しいと思える行動を取ることにした。


「それは、俺が知る中では最も外傷に効くポーションです。怪我の跡すら綺麗に消してくれるでしょう。誰から受け取ったかは、貴方は知らない。どこかからか仕入れていたということにしておいてください」

「そりゃどういう……なるほど、そうだな、そうさせてもらう」


 まぁ絶対鼻、曲がってるだろうし。歯だって欠けてるかもしれないし。

 割と全力でぶん殴ったから。もしクリムゾンハウルやラピットステップで『当たりの倍率』を引いてたら、たぶんまだ起きられないレベルの怪我だったろうし。

 そうして、応接室に通された俺は、なぜか散乱しているタオルやら書類を整理しつつ時間を潰すのだった。

(´・ω・`)以前も書きましたが今作の主人公はクズ寄りの人間です。

(´・ω・`)平気で女子供に暴力を振るいます(敵対した場合)

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