表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【翻訳英語版③巻発売】悪役アリス  作者: 来栖千依
最終章 アリスの烙印

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/193

† † 悪役令嬢の婚約 † †

 女王に手渡された手紙を読んだ私は、卒倒するかと思った。

 事件を解決するまでの一連の流れが、私とダークの恋模様に重きをおいた、乙女ゲームのように書かれていたからだ。


「どういうことなの、ダーク!」

「何てことはないさ。俺は美貌だけでなく、文才も持ち合わせていてね。筆がのって大恋愛超大作になってしまったというだけだよ。だが、内容のねつ造はしていないよ。君との出会いから、駆け引き、事件に巻き込まれての急接近までを、少々華やかに表現しただけで」

「華やか? 華やかですって?」


 私は、ダークの襟元をつかんで、反対の手で書面を顔に突きつけた。


「ここの『夜会で初めてのキス』って、私があっち向いてホイ方式で騙されたやつでしょう! 『一目で引かれ合った二人は、お互いの熱を伝え合うように唇を合わせ……』って表現するのは、ねつ造以外のなにものでもないじゃない!!」

「まあまあ、落ち着いて。ヴィッキーはお気に召したようだよ。ね?」


 ダークが笑いかけると、女王は桃色に染まった顔を縦になんども振った。


「素晴らしい完成度よダー君。このまま本にして売ってほしいわ! あ、その前に結婚式よね。どんなドレスで行こうかしら?」


 どうやら重大な誤解をされている。

 私はダークをつかんでいた手を離して、必死に主張した。


「陛下! この婚約は犯人を陥れるためにでっちあげたことで、本気じゃないんです!」

「照れなくってもいいのよ、アリス。危機が男女を結びつけるのはよくあることなのよ。事件でのドキドキ感が、本物の愛へと変わる……。ときめくわぁ!」

「ヴィッキー、あまりからかわないでくれ。アリスは照れ屋なんだ。だけど、本気になると情熱的でね。契りを交わすときも、かわいい顔で懇願こんがんしてくるものだから、手加減できなかったんだ」


「ダーク、変な言い方をしないで! 烙印の話でしょう!?」

「あれ、キスの話じゃなかった?」


 悪びれないダークの笑みに、私は顔を真っ赤にして憤慨ふんがいした。

 見ていた女王は、クネクネと体を揺らす。


「きゅんきゅんするわ! メイドたちにも見せてあげたい!」

「ど、どこに行かれるのですか、女王陛下っ!」

「ちょっと人を集めてくるわ~っ!」


 私の呼び止めもむなしく、女王は長いドレスをたくし上げて、丘を駆け下りて行ってしまった。


 あの調子では、まちがいなく婚約について言い触らされるだろう。

 王宮に伝われば、社交界まで噂が広まるのに時間はかからない。


「なんてこと……。なにもかも、あなたのせいだわ!」


 頭をかかえる私に対して、ダークは「いいじゃないか」と上機嫌だ。


「烙印を与えて、魂を預かる契約をしたわけだから、婚約したも同じだよ。本当はそんなものなしに、君とかかわりたかったな。多分、ベルナルドも同じ気持ちで、きみには『烙印』を押さなかったんだと思うが――」


「烙印を与えれば、相手とのつながりができるのに……?」


 不思議に思う私を、ダークは愛おしそうに見つめてくる。


「どうせなら、相手の意志で、好きになって欲しいじゃないか」

「私の意思」


 私は、なぜベアが『烙印』を与えなかったのか、その理由わけを知った。


 ベアは、私からの愛が欲しかったのだ。

 烙印で手っ取り早く言わせる睦言より、自発的な感情を望んだ。


 愛を知る悪魔だったのだから、彼は。


「……馬鹿なひと」


 そう不満を口にできるぐらいには、私はベアを家族として愛していたのに。

 ダークは、紅茶を一口飲んで、「さて」と話題を変えた。


「俺たちの婚約の話だ。女王陛下たるヴィッキーの承認があれば、どんな貴族も反対できないと思うんだけど、お披露目はいつにする?」

「しません。婚約は成り行き上、仕方なくしただけです!」

「強情だなあ。このムードに流されておいでよ。幸せにするから」

「けっこうよ。私には、まだまだやることがあるの」


 これがダークの個別ルートらしいことは諦めがついた。

 問題は、乙女ゲームのボリュームからいって、これが裏ルートの序盤に過ぎないということだ。

 つまり、ダークと恋が進めば進むほど、『アリス』の命は脅かされる。


 私は、ポシェットから拳銃を取りだして、ダークの脳天につきつけた。


「私はリデル男爵家ファミリーの当主『アリス』。幸せは自分の手でつかむわ。婚約は、性格の不一致で破棄はきしていただきます」


 きっぱり告げると、ダークはサファイアの瞳を愉悦に細めた。


「そんなことして、後悔しないかな。君、意外と俺のことが好きなのに」

「好きだなんて、言った覚えはないわ」

「烙印を押すときに、キスをしたから分かるよ?」


 指摘されて、私は再び真っ赤になった。


「人の心を読むなんて、卑怯ものーっ!」


 つかんだ書簡でバシバシ叩くと、ダークは声を上げて笑った。


 夏は目前。つぎの事件が起きるまでの短い平和は、ままならない初恋に振り回されて終わりそうだ。



〈第一部 完〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] タイトルで気になってはいても、 中々読む気にならなかった(すみません)のですが、 読んでみたら、とても面白かったです。 素敵なお話読ませて頂きまして、ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ