表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【翻訳英語版③巻発売】悪役アリス  作者: 来栖千依
最終章 アリスの烙印

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/193

三話 鏡の間に鐘はなる

 柱時計から、十二時の鐘が鳴る。

 と同時に、廊下に通じる大きな扉が開いた。


「こりゃあ、凄いなあ」


 家令の案内で現れたのはベアだった。

 コック服ではなく、イタリア仕込みのセンスが光る洒落しゃれたスーツに、アスコットタイを締めている。

 髪型はいつも通り、ねじって留めた髪が熊の耳のように見える豪快ごうかいなものだ。


「「ベアっ!!」」


 招待人がベアだと気付いた双子は、嬉しそうに彼の両側にまとわりつく。

 私はしずしずと近づいて、ドレスを軽くつまんで膝を曲げた。


「お待ちしておりました。ベア叔父さま」


 花束を持ってきたベアは、私を目にするとほれぼれと頬をゆるめた。


「見ちがえるほど綺麗になったなあ、アリス。リーズとトゥイードルズが帰ってこないと聞いて心配したが、ここを飾りつけるためだったのか!」


 花束を受け取った私は、毒気のない顔で笑った。

 感極まるベアを、作り笑顔のリーズが案内する。


「どうぞ、こちらに。お席をもうけましたわ」


 テーブルには、双子がつたない字で『ベアおじさんの席!』と書いた札が立っている。当主席とは正反対に当たるその席に、ベアは、素直に腰かけた。


 ジャックが用意したカップに熱い紅茶を注いでいく。

 当主席に向かった私は、花束をテーブルの端に置いて、壁際にひかえていたダークを呼んだ。


「叔父さま。パーティーを始める前に、お伝えしたいことがありますの」

「何か、新しいサプライズかい?」


 うきうきと楽しそうなベア。

 私は、隣に立ったダークの腕に、手をからめて宣言した。


「私は、ここにいるダーク・アーランド・ナイトレイ伯爵と婚約します」

「こんやくっ!?」


 仰天するベアに、ダークは理想の婚約者らしく微笑んだ。


「突然の発表になって申し訳ありません。彼女の唯一の親類であるあなたには、先にお披露目しようと思いまして――」

「そんなこと、認められない!」

 

 ダークの言葉をさえぎって、ベアはテーブルに拳を叩きつけた。

 あまりの衝撃に、準備したカトラリーが散らばってしまう。


「その子は――『アリス』は、リデル男爵家の当主だ! ナイトレイ伯爵家へ渡すわけにはいかない!!」

「そんなに家名が大切なら、あなたが継がれてはいかがです? 俺は必ずやアリスを幸せにしてみせますよ。誰よりも大切に思っていますから」

「誰よりも? ちがうな。わたしより『アリス』を大切にできる者はいない!」


 ベアは立ち上がった。

 その姿は、まるで焦点の合わないレンズで覗いたようにぼやける。


 膨張ぼうちょうするようにむくむくと大きくなる体。

 彼を人間だと疑わない者には、にわかに信じられない光景。


 しかし、予想していた私は、すこしも動揺せずにいた。


 リデル邸に烙印スティグマをほどこして、『アリス』を見守ってきた悪魔のことだ。

 もしも私が結婚で名実ともに家を出ようとしたなら、とり乱して正体を現すと思っていた。そのために、ダークと形だけの婚約をしたのだ。


 一方、ベアに懐いていた双子は、変わっていく彼をぼう然と見上げている。


「「ベア……?」」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ