表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【翻訳英語版③巻発売】悪役アリス  作者: 来栖千依
第六章 リデル家の愉快なお家騒動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/193

四話 死亡フラグは暗転直下

 ダークの好感度を上げたことにより、さっそく死亡フラグが立ったらしい。


 おののく私の肩に手を置いて、ダークは立ち上がった。

 ヒスイは彼に、ポールにかけてあったジャケットとコートを手早く着つけていく。


「カレイさんがあしどめ。いまのうちに、デテイケー」

「了解した。じいやにはあとで臨時給を出そう。俺はしばらく留守にするよ」

「イッテラッシャイマセ」


 ヒスイが胸に手をあてる。と同時に、廊下でドタドタと何人もの足元がした。

 私は、ダークに腕を引かれて歩きだす。


「廊下には出られないわ。どうするの?」

「緊急脱出しよう」


 ダークが向かう先には、革張りの大きな図鑑がつめこまれた、重厚そうな書棚があった。


「ま、待って。それは本棚よ?」


 私は叫ぶが、ダークは立ち止まるどころか、一層スピードを上げた。


 ――ぶつかる!


 衝撃に備えてきゅっと目をつぶった私は、抱きとめられてつんのめった爪先が、壇上のプリマドンナのように一回転するのを感じた。


 頬をそよりと冷たい風に撫でられて目を開けると、先ほどいたのとは別の部屋へ躍り出ていた。


「ええっ?」


 驚いて振り返ると、書棚がくるりと回転して戻るところだった。


「仕掛け扉……!」

「そんなに驚いてもらえると、作ったかいがあるな。流行の騙し絵(トロンプ・ルイユ)だよ。隠し部屋への扉に、背表紙を描いた革を張って、書棚をよそおっているんだ。それにニンジャ風の仕掛けを施したのは、俺のアイデアだけどね」


 ダークが自画自賛した直後、もといた部屋に多数の足音が駆けこんだ。


『神妙にしろ、ナイトレイ伯爵! 眠り姫事件の重要参考人として――って、いないじゃないか!』


 回転扉の隙間からそっと覗くと、部屋に突入してきたのは、ダークから取り調べを受けていた若い警察官だった。他にも数名の警官がいる。

 彼らは、部屋にダークがいないと分かると、残されていたヒスイを問い詰めた。


『おい、きみ。伯爵はどこへ行ったのかね?』


 すると、ヒスイは腕を交差させてバツを作った。


『オーマイゴウっ。ワタシ、英語ノーノー!』

「ヒスイ殿……!」


 自分の使い所を理解した、すばらしいオーバーアクションに、私は泣きそうになってしまった。


「……あとで、ヒスイにも臨時給を出そう」


 扉から顔を離したダークは、床の跳ねあげ戸を開いて手招きした。


「この下に抜け道があるんだ」


 近づいていくと、闇一色の階下が見えた。ぽっかり空いた四角い空間から、黒い腕が伸びて引きずり込まれそうだ。


「暗いわね」

「怖いかい?」

「……迷っている暇はないでしょう」


 警察に見つかれば、ダークは捕らわれてしまうだろう。重要参考人ともなれば、武器を携帯しないように派手な衣装の着用は認められない。


 もしも影の角に気付かれて、悪魔だと大騒ぎされたら、爵位を奪われるどころか、普通の生活さえ営めなくなってしまう。


「行きましょう、ダーク。ここでないなら、どこでもいいわ」

「ワンダーランドへお連れしますよ、麗しきレディ、お手を拝借しても?」


 ダークが差しだした手に、私は指を揃えた手を重ねる。


「お手柔らかに頼むわ」

「承知しました」


 そう言うなり、ダークは大きな手の平で私の口をふさいだ。

 私は、驚いて「ふごっ」とうめくが、容赦なく空いた脱出口へ飛びこんでいく。


 ――落ちるっ!


 私は、悲鳴を堪えながら、ぽっかり空いた穴のなかを、真っ逆さまに落ちていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ