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【翻訳英語版③巻発売】悪役アリス  作者: 来栖千依
第六章 リデル家の愉快なお家騒動

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三話 不思議の国へごしょうたい

「……俺も、会いたかったよ」


 ダークは頬を赤らめながら答えた。

 それを見て、私は『ん?』と思う。


(今、ダークの好感度を上げてしまったような気がする!)


 それはまずい。相手は悪魔だ。

 しかも、何が起きるかアンノウンな裏ルートの持ち主だ。


 ダークと恋人になろうものなら、私はあっとう間に死んでしまうだろう。

 死にゲーオブザイヤーは伊達じゃない!


 青くなる私に、ダークはやれやれと語る。


「落とし物をしていたとは不覚だ。俺は、ヒスイから君が怪我をしたと聞いて、様子を見にリデル男爵邸へ行ったんだ。目立たないように、窓際で帽子を外したのが敗因だったようだね。容赦なく撃たれてしまったし……」


 ダークは、ふと違和感を覚えた顔になった。


「そういえば君、俺だって分かっていたのに撃ったのかい?」

「弾は外しましたわよ?」


 けろりと明かすと、ダークは、「そういう問題じゃない」と気色ばむ。


「撃たなくてもよかったじゃないか」

「撃たれたくなかったら、正面から訪ねていらっしゃったらよかったのよ。窓からこそこそとロメオ気分で来られると、迷惑ですわ」

「……大人しいレディに成長したかと思ったら、昔のままだね。アリス」


 ダークがはにかんだので、私はむっとした。


「あの頃より、貴族令嬢としての礼儀作法は身に着けたつもりよ。呼び名は『ウサギ』と『ダーク』、どちらがお好き?」

「世間体も考えて『ダーク』でお願いするよ。それにしても……。俺、大胆な子はわりと好きなんだけど、手を出していいものか悩むな」

「はいっ!?」


 私が目を白黒させると、ダークは顎に手をかけて思案する。


「女性に乗られる経験って、あまりないものだよ。こんなにアピールしてくれてるのに、何もしないんじゃ甲斐性なしだ。けれど、花嫁に迎える大切な女性の純潔を、神に誓い合うまえに奪っていいものか……」

「じ、じゅ、純潔!?」


 この男、いったい何を言い出すんだろうと、私はわなわな震えた。


「勘違いしないで! あなたと私は許婚でもなんでもありません。ただの『ともだち』なんだから変な想像をされては困ります!!」

「あれ? 友達は、いないんじゃなかったっけ?」

「!」


 意地悪く笑われて、私は絶句した。

 ダークは、困りげに肩をすくめる。


「君に『ともだちいない』発言をされたときは、結構ショックだったよ。おかげで、胸にぽっかり穴が開いてしまった。これは、友好の証しにキスでもしてもらわないと塞がれないな」


 私は、ダークに腕をつかまれた。

 背に回る手は力強く、まっすぐに見つめてくる瞳は、熱にうるんでいる。


「君が嫌でないなら」

「嫌だと言ってもするくせに」


 可愛くないことを言いながら、私はそっと目を閉じた。

 もしも心を覗かれても、恋しさくらいしか見えないから――。


「あと、スコシ」


 唇が触れ合う寸前、耳元でたどたどしい声がした。

 キスを中断して声の方を見れば、大机に前のめりになって、熱心にこちらを見つめるヒスイがいた。


「ひ、ヒスイ殿、いつからそこに?」

「サッキ? つづき、ドーゾ」

「そう言われても……困りますわ」


 恥ずかしさがこみあげてダークの膝から下りると、彼はがっかりした顔で従者をたしなめた。


「ヒスイ。こういうときは、空気を読んで下がりたまえよ……」

「イヤ。モッタイナイ」

「その精神は褒めたいところだが、仕事はどうしたんだい?」


 すると、ヒスイははたと思い出した顔で、両手をパンと合わせた。


「ソウダッタ。ワタシ、知らせにきた。なにかキタ」

「――招かれざる客か」


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