三話 コスプレではありません!
何が悲しくて、ヴィクトリア朝のロンドン(あくまで、その時代を舞台にした乙女ゲームだけど!)でコスプレイヤー扱いされなければならないのか。
めまいがして額に手を当てる。
すると、オイランは死角を突くように私の手からダイヤを奪った。
「あっ」
「隙を見せたな、馬鹿め!」
走り出すオイラン。だが彼女は、そこから前には進めなかった。
胴体に細い鎖がぐるぐると巻き付いて、動きを止めたからだ。
「それはこっちの台詞よ。お馬鹿さん」
鎖の使い手であるリーズは、銀行の裏口の屋根に寝そべって片手を振った。
オイランは「ちくしょう、クソ猫もいんのかよ!」と唾を吐いた。
暗躍令嬢アリスのお供には、リーズをモデルにしたキャラもいるらしい。
めまいに加えて頭痛もしてきた。
ここはいつから国際展示場になったの?
私は二次創作お断りの強火オタクだったので、コスプレ・同人誌・その他ファン活動はちょっと苦手。
公式の供給こそ至高だ。
「お嬢、この子どうする~?」
リーズが鎖をぐいぐい引くのでオイランが苦しそうだ。
私はぐらぐらする頭を振って彼女の手からダイヤを取り返し、ハート型のポシェットに入れた。
「怪盗オイランは警察に引き渡して、今まで盗んだ物の捜索をしてもらいましょう」
ミッションの終了を告げた瞬間から、もう次のことを考える。
(連載小説の『暗躍令嬢アリス』について調査をはじめましょう)
誰が書いたのか。
モデルにされたのは本当に私なのか。
突き止めなければいけない事柄は山積みだけど、今はとにかく横になりたい。
今回に限らず、最近めっきり真夜中に活動するのが辛くなった。
この原因は、もしかして。
(ダークのところで、昼型の生活を送ってきたせいじゃない?)
ナイトレイ伯爵邸では、朝日が昇ったら起きて夜になったらベッドに入る規則的な生活を送っていた。それが、こんな悪影響を及ぼすとは思わなかったわ。
少しくらい夜更かしするべきだった……後悔する間にも目蓋は下りそうになる。
眠い。
ものすごく眠たくてたまらない!
「お嬢、大丈夫か?」
あくびをしたらジャックが手を差し伸べてくれた。
「すごく眠くて立っていられないわ」
「なんだ。そんなことか」
ジャックは幼い子どもを見るような目でお兄さんぶった。
「オレが屋敷まで運んでやる。安心して寝てていいぞ」
「ありがとう……」
抱き上げられて安心した私は、スヤァと一瞬で夢の世界へ潜った。
もう一人の自分に会う夢は、今度は見なかった。




