五話 生贄
「あー。危なかった」
アリスと双子を見送ったロビンスは、その場にしゃがみこんだ。
ユニコーン寮の生徒には、さんざん名無しの森は危ないと言い含めたが、彼女たちはライオン寮だ。あちらの監督生であるチャールズは、厳しいようでいて優しいから脅しが足りなかったのかもしれない。
この島には恐ろしい怪物が――〝悪魔〟がいるのだ。
何も知らない生徒たちが毒牙にかけられないためには、ルールを厳守させるしかない。
『はやくもどれ』
夜風に乗っておぞましい声が響いてきた。
顔を上げると、墓地の近くにある教会の窓から、複数の人影が手招いていた。
「今、行きます」
扉に近付くと、中から無数の手が現われて教会へと引き込まれた。
『さあ、お前の若さをよこせ』
無数の手が体を這いまわる。ロビンスは気持ち悪さに歯を食いしばった。
こうして生気を与えなければ、他の生徒たちが襲われかねない。
最初に狙われるのは、同じ監督生のチャールズだ。
未来のないこの学校で、前途ある少年たちを守ろうと誓い合った親友がむさぼられるのだけは耐えられない。
(チャールズ。君を守るためなら、おれはどんな酷い目にだって耐えられるよ)
密かに想って目を閉じる。
せめてチャールズが卒業するまでは、今の日常が壊れないように力を尽くそう。
この島を出た彼が、ロビンスを忘れてしまうとしても。




