表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【翻訳英語版③巻発売】悪役アリス  作者: 来栖千依
第六章 鏡写しのアリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/193

三話 英国紳士流の激怒

 リーズは、憂いのある表情で、束ねた髪を指に絡ませた。


「あなた、お嬢が今どこにいるか、分かっているんじゃないの。ジャックに誘拐されたときは、その力で見つけたじゃない?」

「そのはずなんだがね」


 ダークはステッキを床に立てて目を閉じた。


 外部から入る情報を遮断して、体の内側に耳を澄ます。

 自身が持っている三日月の紋章を思い出して、それを焼きつけた愛しい少女の息づかいを探っていく。


『――――』


 真横を通り過ぎていく気配がした。

 目蓋を開けるが、空いた椅子や白いクロスがかけられたテーブルが目立つばかりで、アリスの姿は見えない。


「近くにいる気配は感じる。だが、姿が見えない。トゥイードルズの異能のような特殊な力が働いて見えなくなっているのか、それとも、魂だけになってしまったのかも不明瞭だ」


「魂だけって……」

「そうなっていたら、俺が地獄へ連れて行かなければならないね」


 遠回しに死亡宣告するダークを、リーズはキッと睨みつけた。


「お嬢が死んだかもしれないって言うのに、ずいぶん落ち着いているのね。あなたのお嬢への愛情って、その程度のものなわけ?」


「俺が冷静に見えるかい」


 薄く笑って、ダークは帽子のツバを持ち上げた。

 高いトップで隠されていた頭には、悪魔の証である二本の角が伸びている。


 誰かに見られたら致命的だが、正体を隠す余裕など、とうに失っていた。


「今の俺をからかわない方がいい。アリスを取り戻すためなら、何だってできそうな気分なんだ。河に飛び込もうとした君なら、分かってくれるだろう」


 ダークの瞳には強い憤りが宿っている。

 背を向けたら八つ裂きにされそうな気迫に、リーズはのまれた。


 爵位を笠に着て、のらりくらりと生きている青年という印象だったが、やはり人間とは違う。


 ダーク・アーランド・ナイトレイは悪魔なのだ。


 しかも、微笑みの下に、すこぶる恐ろしい本性を隠している。


「それでは、俺は行くよ。気を付けて帰りなさい」


 ダークは、帽子を戻してレストランを出た。

 広い背中が見えなくなると、リーズは、死地から生還したような心地で長い息を吐いた。


「ふー。本性が出るほど怒ってるってわけね。分かりづらい男だこと」


 でも、面白い男だとも思った。

 毒花のように強い『アリス』には、あれくらい癖がある相手の方がいいかもしれない。


「アタシの一存でどうなるものでもないけど、婚約者として認めてやってもいいわね。もしも、お嬢を生きたまま見つけてくれたなら、だけど――」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ