27. 大変なことになった 4の3
「白雪さん」
「実は名前を憶えてくれているか少し不安だったんだ。安心したよ」
白雪 澄香。
会長呼びがあまりにも自然に感じるから本名を忘れそうではあるけれど、もちろんそんなことはない。
今日を機に、これから呼び方を変えようと思っていたんだ。
「白雪さんの綺麗で素敵な名前を忘れるなんてとんでもない」
普段はオレ流の男勝りな雰囲気で話をするけれど、ぬいぐるみを始めとした可愛いものが大好きで名前も可愛い女の子。
もしかしたらリーダーとして箔をつけるために無理矢理今の口調に変えたのかもしれない、というのは邪推が過ぎるだろうか。
白雪さんならやりかねないけれど。
「いつも面倒を見てくれてありがとうございます」
学校でも学外でも、特に最近は女の子達に振り回されて周囲の人に迷惑をかけることが増えて来た。
それを白雪さんは騒ぎにならないようにと裏で手を回してくれている。
白雪さんがいなかったならば、うちの学校の評判が悪くなり、学内ももっとギスギスした雰囲気になっていたはずだ。
「白雪さんが生徒会長で良かったです」
リーダーとして格好良く先頭を歩き、必要であれば裏方でのサポートもする。
その姿に僕は憧れていたし、同時に可愛いものが好きすぎるギャップもまた愛おしい。
ただその立場上、僕から一歩引かざるを得ず、少し申し訳なかった。
「ですがもっと僕に頼ってくれて良いんですよ。そうすればもっと一緒に居られるじゃないですか」
「なっ!?」
「白雪さんの可愛いところを一杯知ってますけど、もっともっと知りたいんです」
「おおぅ……」
白雪さん、赤面死。
「山吹さん」
「うぐっ……この時点で先生はもうギブなんだが」
生徒から親しく呼ばれるのはどんな気分なんだろうか。
生徒と先生という垣根はとても大きいけれど、それを少しでも越えて親愛を届けられたら良いな。
ううん、きっと届けてみせる。
「いつもお仕事お疲れ様です。聞きましたよ、自分から率先して仕事を受け持ってるって」
年齢や立場のせいで押し付けられたわけでは決して無い。
生徒のためになるならばと、苦しい事が分かっていてなおブラックと呼ばれる仕事を更に自分から増やしている。
その姿を僕は偶然目撃してしまったんだ。
「でもご自分の体のことも気にしてあげてください。倒れられたら困ります」
もちろんそうはならないように、少しでも怪しい雰囲気があったのならば止めるつもりだ。
それこそ祖父ちゃんの知り合いに助けを求めてでもなりふり構わず行動する。
だって僕にとって山吹さんは大切な人だから。
「気分転換にたまには僕らと一緒に遊びましょう」
先生という立場を気にしてか、自分から誘ってくることは決してない。
それは当然のことかもしれないけれど、そんな当然なんかぶっ壊してやる。
山吹さんだって普通の女の子なのだから。
「山吹さんみたいな美人な女の子と一緒に遊べるなんて幸せですから」
「おま、相変わらず女の子呼びするのな……」
「もちろん山吹さんは女の子ですよ。それも美人で責任感が強くて授業が分かりやすくて生徒想いで尊敬できる女の子です」
「ぬおーーーー!」
山吹さん、嬉死。
「佐々音さん」
「はわわ、来ちゃった!」
はわわなお胸が大きなドジっ子。
祖父ちゃんに言わせたら狙い過ぎだってサムズアップするだろう。
でもその気持ちは分かる気がする。
「あはは、落ち着いてくださいね。慌てている姿も可愛いですけど」
それにドジなところも面倒を見るのが好きな僕にとっては可愛らしく感じられる。
しかも幼さと体つきにギャップがあるところでドキりとさせられる。
もちろん佐々音さんの良いところはキャラクター性だけではない。
「どれだけ失敗しても諦めず、どれだけ焦っても他人を思いやる気持ちを忘れないところが素敵です」
だからみんな佐々音さんを見捨てることはないのだろう。
失敗続きでも購買の仕事を辞めさせられることはないのだろう。
幸せになって欲しいと願われるのだろう。
「たくさん失敗しても良いですから、これからはもっとお話ししましょうね」
失敗して僕に迷惑をかけるかもしれない。
最初に出会った購買での騒動の時のように。
恐らくはそれが心配で、佐々音さんは僕に対して積極的になっていない。
「佐々音さんの失敗は僕がちゃんと受け止めますから」
「良いんですしょうか……」
「もちろんです。男の子は可愛い女の子に頼られるのが嬉しいんですよ。まぁ、トラブルで佐々音さんに触れたらドキドキしちゃってそれどころでは無いかもしれませんが」
「はわわわわわ!」
佐々音さん、はわわ死。
「夢叶さん」
「え、名前?」
最初に会った時はお父さんと一緒だったから区別するために名前で呼んでたんだよね。
せっかくだから今日は再び名前で呼ぼうと思う。
夢を叶えるなんてとても素敵な名前なのだから。
「夢叶さんは強いね。まさか全く躊躇せずに僕に迫って来るとは思わなかったよ」
夢叶さんはストーカー被害に悩まされていた。
それなのに男の僕に臆せず接して来た。
いくら救ってもらった相手とはいえ、内心では男を嫌悪する気持ちがあってもおかしくないのに、清々しい程にその気配が全く感じられなかった。
「最初の頃キツく言っちゃってごめんね」
実は夢叶さんを強く叱ってしまったことがある。
あまりにも卑猥なことを言い過ぎたからだ。
学校外で言ってしまい捕まる可能性を心配したからだけど、言い過ぎだったかなと今でも心配している。
「でも守ってくれてありがとう」
夢叶さんは僕の言いつけを守って過激な発言を抑えてくれるようになった。
むしろ嬉々として受け入れてくれたように見えたのは、叱ってしまった負い目による勘違いではないと思う。
だって見方を変えれば僕からの強いお願いでもあるのだから。
「叶えられるかどうかは分からないけれど、二人っきりの時は少しくらい無茶を言っても良いよ」
「本当ですか!?」
「うん。だって夢叶さんみたいな可愛」
「っ!」
夢叶さん、本当は純情死。
まさか可愛いって言われないように敢えて変態発言してたのかな。
可愛すぎるでしょ!
「美来」
「わーい、これって私も恋人候補として扱ってくれるってことだよね!」
「いや~それはちょっと」
「なんでさー!」
いやだって実の妹ですよ。
先生と生徒みたいな話じゃないんですよ。
義妹って訳でも無いんですよ。
「そりゃあ僕は美来が世界一可愛いと思ってるし、女の子としての色気もあるし、愛していると断言出来るよ」
溺愛と言っても良いくらいに甘やかしてしまっている。
だからこそ、こんなことになってしまったのかもしれないけれど。
今の僕にはまだ妹であって異性として考えることは出来ない。
「でもそれは兄として、家族としての想いでしかないんだ」
ああ、女の子に悲しい顔をさせてしまった。
僕はなんて最低な男なんだ。
早く本心を伝えて笑顔を取り戻さないと。
「だから今一度考えてみるよ。女の子の想いを、美来の想いを受け止めるって決めたから」
ハードルは明らかに高い。
でも美来がそのハードルを絶対に越えると努力するのならば、そして僕が努力したいと思ってしまったのならば全力を出すと誓うよ。
案外その日は早くに来てしまうのかもしれないけれど。
「でもその前に、美来の想いに少しばかり答えようと思う」
「え?」
「今の僕の最大限の想いだよ」
妹として、そして異性としての美来をイメージして僕の複雑な想いの全てを篭めて伝えよう。
「愛してるよ、美来」
「ふぁあああああああああああああああああ!」
美来、倒錯死。
僕も死にそう。




