20. 守るべきおなごに国境などない
最終章の開始です。
『守るべきおなごに国境などない』
祖父ちゃんはワールドワイドで活躍していて良く海外に出張していた。
でも某国の大統領と一緒に写真に写っているのは流石に僕に自慢するために作った偽物だと思う。
葬式の時にテレビで見たことのある海外の大物も殺到していた気もするけれど、きっと事前に雇ったそっくりさんだろう。
まったく祖父ちゃんったら死んでまで見栄を張ろうとするんだから。
でも外国人にも慕われていたのは本当の事だったように思う。
秘書さんをはじめとして、祖父ちゃんの周りには外国人の美人さんが多かったから。
外国人で思い出したけれど、僕は小さい頃に外国人の女の子に出会ったことがある。
ほんの僅かな時間だったけれど、まさかあの時の邂逅が将来に影響を及ぼすことになるとは思わなかったよ。
「フランスからの留学生?」
「ああ、二学期から一組に編入されることになった。今ごろ挨拶をしているだろうな」
二学期最初のホームルームに先生が驚きの情報を伝えてくれた。
うちの学校に海外からの留学生がやって来たというのだ。
「文化の違いで色々と困ることもあるだろうから椙山以外は何かあれば手助けしてやるように」
「なんで僕以外!?」
「留学生は女子だ。これ以上増えては困るからな」
何故か先生の言葉に男子も女子も一斉に頷いている。
解せぬ。
僕だって留学生とか気になるんだけど。
「いいか、全力で阻止するんだぞ!」
「「「「おおおお!」」」」
待って、何コレ。
本気で意味が分からないんだけど。
「これ以上ライバルが増えるのはやだー!」
「椙山に全部取られてたまるか!」
「そうだそうだ!」
あはは、これは何を言ってもダメそうだ。
仕方ない、興味はあるけれど自分からは関わらないようにしよう。
と思っている時に限ってそうはならないのが現実というものだ。
「誰か止めろ!」
「絶対に近づけさせるな!」
「ダメ、捕まえられない」
「なんて身のこなしだ!」
ホームルームが終わろうとしている中、廊下の方が騒がしくなってきた。
一体何が起きているのだろうか。
「おい、お前ら準備しろ」
先生の合図でクラスメイトが臨戦態勢になった。
自分で言っといてなんだけど臨戦態勢って何!?
外の騒ぎが段々と近づいて来る。
一体何が起きているんだ。
「ミつけタ!」
あれ、今のカタコトな声はもしかして留学生かな。
「視界を塞げ、中に絶対に入れるな!」
「ぬおおお!」
「させない!」
でも僕が廊下に視線をやったときには、すでにクラスメイト達が壁になっていて留学生の姿が見えない。
しかも彼らは教室の扉を抑えて、誰も中に入れないようにしていた。
そこまでやるの!?
「ムー!ムー!」
これは留学生が必死に扉を開けようとしている声なのかな。
今の状況に首をひねっていたら、山瀬さんがやってきた。
「ねぇ椙山くん、もしかして知り合いなの?」
「同い年くらいの外国人の知り合いに心当たりは無いよ」
「同い年じゃなきゃあるんだ……それは後で聞くとして本当に無いの。例えば最近ナンパしたとか」
「ナンパなんてしないよ!?」
僕をなんだと思ってるのさ。
山瀬さん達みたいな綺麗どころと仲が良いのにナンパするわけないじゃないか。
「本当かな。いつもみたいに自然に優しくしちゃったとか」
「…………無いって。夏休みはほとんどみんなと一緒だったでしょ」
「でも椙山くんは一分目を話したら十人落としてそうだし」
「ははは、冗談ばっかり」
「冗談だと思うの?」
「ごめんなさい」
山瀬さんの目が怖い。
反射的に謝ってしまったじゃないか。
『おなごを怒らせたら己が悪くなくともひたすら謝るのがおのこの生き様じゃ』
祖父ちゃんの教えが身についている証拠かな。
「コウなったラ!」
教室の入り口の方が静かになったぞ。
留学生らしき人は教室内に入るのを諦めたのかな。
でもクラスメイト達はまだ警戒を怠っていない。
これから授業が始まるとは思えない雰囲気だ。
まぁいいや。
僕は外の景色でも見ながら落ち着い……
「カーズヤー!」
「うわわ!」
突然窓が開いて女の子が飛び込んで来た。
もちろんしっかりと受け止めたよ。
男たるもの当然だ。
でもこの女の子ってもしかして。
「カズヤ!アいたかっタ!」
僕を抱き締めているのは銀髪碧眼の西洋美人。
『お人形さんみたい』という表現が似合う可愛らしい女の子だ。
この子が噂の留学生か。
「くっそおおおお!また椙山かああああ!」
「うわあああん、阻止出来なかったよおおお!」
「馬鹿な、ここまでアクティブな娘だったとは」
先生の驚きの理由は僕にも良く分かる。
ここは二階なのに窓の外の狭い足場を通って強引に突撃して来るような女の子には見えないもん。
むしろ大人しいタイプに見える。
「危ない真似はしないでくださいね」
「カズヤはヤっぱり優しいデース!」
あれ、この子は僕の事を知っているのかな。
僕はこんな外国人の美少女は…………いや、まてよ、もしかして。
「クロエはズっとカズヤに会いたかったデース。ちゅ」
「!?」
「「「「ああああああああああ!」」」」
不意打ちでキスされてしまった。
それも唇に。
教室中は大騒ぎだ。
「椙山ああああ!」
「椙山くんなんで避けなかったの!」
「…………私も!…………私も!」
唇に残る柔らかな感触と教室内の大騒ぎを感じながら、僕は幼き日の出会いを思い出した。
――――――――
「ひっぐ……ひっぐ……」
あれは確か小学校五年生の夏休み。
街に遊びに行こうと住宅街を歩いていた僕は、泣いている銀髪の女の子に出会った。
「どうしたの?」
「#$%&!」
迷子かなと思った僕は心配になって話しかけたけれど、言葉が全く通じなかった。
英語も通じなかったので必死にジェスチャーで意思疎通しようと頑張った。
「うえええええん」
でも女の子は泣き止んでくれなかった。
仕方なく祖父ちゃんに連絡して助けを求めようかと思ったその時、白い大型のバンが突っ込んで来たんだ。
バンは僕らの真横で止まり、中から三人のガラの悪い男達が降りて来た。
「間違いない、ターゲットだ」
「早くしろ!」
「このガキはどうします?」
「一緒に連れてけ、ガキとはいえ顔を見たやつを放置するわけにはいかん」
「了解です」
女の子の知り合いということは無さそうだ。
どうやら僕と女の子の二人を誘拐するつもりらしい。
屈強な男三人が子供二人を誘拐する。
運転席にもう一人いるようだから、正確には四人。
通常なら誘拐は成功したかも知れない。
子供の一人が僕でなければ。
「ぐっ」
「がはっ」
「何が起こって……ぬお!」
このころの僕はすでに祖父ちゃんにたっぷりと仕込まれてた。
この程度のゴロツキなら敵ではない。
サッと無効化してバンのタイヤを蹴り壊した。
「うわああああ!」
予想通りに運転手は三人を見捨てて逃げようとする。
でもタイヤが完全に壊れていて真っすぐ運転できず壁に激突した。
念のため引き摺り下ろして無効化しておくか。
全て『処理』し終えた僕は改めて女の子に話しかけた。
「大丈夫?」
女の子は泣き止んでいた。
てっきり怖がって更に泣くかと思ったけれど驚きの方が強かったようだ。
「もう大丈夫だよ」
女の子を安心させるために、僕は全力の笑顔を向けた。
すると女の子の顔はみるみるうちに赤くなる。
「…………めるしー」
その時の僕はフランス語のことをまだ知らなかったから女の子の言葉の意味は分からなかった。
「どういたしまして。君が無事で良かったよ」
でもそんなのは関係ない。
言葉が通じなくても想いは通じるのだから。
――――――――
その時は祖父ちゃんに連絡して女の子は親御さんの元に帰ることが出来た。
『ありがとうカズヤ。ちゅっ』
その別れの時も今と同じようにキスをしてもらった。
その時は唇では無くて頬だったが。
「カーズヤー!ムフフー!」
僕の胸に頬を摺り寄せ甘えるクロエは記憶の中の姿から大きく成長し、とても女の子らしい体つきになっていた。
女の子特有の柔らかさと仄かに漂う甘い香りにドキドキしつつも僕は予感する。
二学期もまた、女の子達との出会いが多くあるのだろうと。




