閑話 大変なことになった(夏祭り編)
「プハー!うめぇ!」
「いい飲みっぷりですね」
「おうよ、久しぶりの休みだからな」
「バレー部の顧問が忙しいんですっけ」
「マジそれな。毎日毎日スポ根連中の面倒を見て、二学期の準備をして、ほんっとしんどいわ」
「お疲れ様です。今日はストレス発散出来ると良いですね」
「椙山が傍にいてくれるだけで先生のストレスなんか消え去ったよ~」
「うわ、抱き着かないでください!浴衣はだけてますよ!」
先生はかなりボリュームがある方なのでイケナイ感触がしっかりと伝わってしまう。
しかもビールを結構飲んでいるので、大人の香りが漂っている。
「先生離れて下さい!」
「むぅん、山瀬のいけずぅ」
先生とは対照的にピシっと浴衣を着こなす山瀬さんが助けてくれた。
浴衣に合わせてか髪をかきあげて後ろで縛っておりうなじがチラリと見えてとても色っぽい。
そんな二人の様子を見ていたら、『とてとて』という擬音が似合いそうな感じで女の子が寄って来た。
「…………あ~ん」
食べ物をいっぱい抱えた草間さんだ。
どうやら屋台の料理がお気に入りってことなのかな。
普段は無表情系だけれど笑顔が隠せていない。
そんな草間さんが爪楊枝に指したタコ焼きを僕に差し出して来たけれど躊躇してしまう。
恥ずかしいから、ではない。
熱くて火傷するのが怖かったからだ。
「…………ふ~…………ふ~」
そんな僕の逡巡の理由が分かったのか、草間さんはタコ焼きを冷まそうと息を吹きかけた。
一生懸命頬を膨らませる姿がなんか可愛い。
「…………今度こそ…………あ~ん」
「いただきぃ!」
しかしそれは先生によって奪われてしまう。
「…………先生…………酷い」
「そうはさせないぜ」
「…………まだあるから…………いいもん」
「全部先生がガードしてやる。タコ焼きはビールに合うからな!」
「…………ぐぬぬ」
この二人、相性が良いんだか悪いんだか分からないな。
草間さんはあまり勉強やる気がないから普段先生に良く怒られている。
だから先生が苦手なのかなと思ってたけれど、これはじゃれているようにも見える。
自分から友達を作ろうとしないタイプだから良い傾向なのかも。
「あはは、賑やかで楽しいね」
「本当にね」
祭囃子が聞こえる神社の参道は夏祭りを楽しむ人々でとても賑やかだ。
夏になると毎週のようにどこかで夏祭りが行われており、僕は毎週女の子達と各地のお祭りに遊びに行っていた。
今日は山瀬さん達と遊ぶ日だった。
女の子達は全員浴衣を着ていて、誰もが思わず目を奪われてしまう程に似合っている。
山瀬さんはシンプルで控えめな花柄の浴衣で年相応の色気や可愛らしさを纏っている。
先生はよりシンプルで淡い緑一色の浴衣だけれど、大人の体型により強烈な色気を放っている。
草間さんは食べ物をあしらった柄の浴衣で少し子供っぽいのが妙に似合っていて可愛らしい。
「ねぇねぇ、あの人超格好良くない?」
「うわうわ超イケメンじゃん!」
「浴衣が色っぽーい!」
おや、近くからそんな声が聞こえて来たぞ。
この辺りにそんなイケメンがいるのかな。
「椙山君、いこ」
何故か慌てた山瀬さんに腕を引かれ、僕らは境内に向かって歩き出す。
しばらく歩くと、別行動をしていたもう一人の女の子を見つけた。
「片栗先輩こんなところに居たんですね」
「ふぇっ!?椙山様!?」
片栗先輩だ。
片栗先輩は王道の桜柄の紺の浴衣を着ている。
唯一浴衣を自前で持っていて着慣れているらしく自然に似合っていて、少し小柄な背丈でありながらも大人っぽい清楚な雰囲気が感じられる。
ただ、それは普通に立っていればの話であるが。
今の片栗先輩は子供っぽさの方が増していた。
「え、えとえと……」
先輩は日曜朝に放送されている魔法少女の仮面を頭につけており、手首には水ヨーヨーをぶら下げていた。
そしてこれまた魔法少女の絵柄の綿あめを買おうとしているところだった。
「後生ですから見ないでくださいまし……」
なるほど、子供っぽいものが好きなのが恥ずかしいってことか。
別に変じゃないのに。
ふと、僕の中にいたずら心が湧いてしまった。
「えいっ!えいっ!」
そう言って小さくジャンプしてみる。
僕がはじめて片栗先輩と会った時の真似だ。
それが分かったのか、片栗先輩の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
「椙山様のいじわる!」
「あはは、ごめんごめん。でも恥ずかしがる必要なんて無いと思うよ」
だってこんなにも可愛らしいのだから。
でもその可愛らしい雰囲気はすぐに鳴りを潜めてしまった。
「ですがもう高校三年生なのにこのようなものが好きなのは変ではないでしょうか」
「そんなことはないよ。絶対にない」
好きなものを好きで何が悪いというんだ。
別にそれが誰かに迷惑をかけるものでもないのに。
「だから安心して可愛らしい姿をたくさん見せてくださいね」
「~~!!やっぱり椙山様はいじわるです!」
さっきと同じセリフで真っ赤な顔。
だけれども今の片栗先輩は笑顔だった。
――――――――
僕らは一通り出店を巡り、境内でお参りをしてから神社から少し離れたところにある高台にやってきた。
周囲は人で一杯であり、今か今かと開始を待ちわびている。
「うい~ま~だ~?」
「先生流石に飲み過ぎじゃないですか?」
「らいじょーぶらいじょーぶ。いざとなったら椙山に介抱してもらうから」
「椙山君は何もしなくて良いですよ」
「わたくし達が介抱致しますから」
「…………うんうん」
「ぶ~ぶ~」
今年の夏休みは女の子達と毎日のように遊び続けた。
こんなにも幸せな日々が来るなんて、去年までの僕には想像も出来なかったよ。
「椙山君どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
感慨深い気持ちが漏れて普段とは違う表情になってしまったのか、山瀬さんが僕を心配そうに見ていた。
本当に良く見ている。
山瀬さんは僕の事をいつも気遣って助けてくれる素敵な女の子だ。
「あ、始まるよ!」
誰の声か。
人ごみの中から漏れたその声に反応して僕らは一斉に空を見上げる。
するとひゅるひゅると響く打ち上げ音に続き夜空に大輪の花が咲いた。
威勢の良い爆音が胸に響き、視界一杯に広がる色とりどりの鮮やかな花びらに目を奪われていると、それを程良く味わったタイミングで次々と花が打ち上げられる。
「綺麗……」
不思議だ。
連続して打ち上げられる花火の音に隠れることなく、右隣に立つ山瀬さんの呟きが聞こえて来た。
あれ、これって……
僕の右指に何かがそっと触れた。
そしてそれは遠慮がちにそっと僕の指を優しくつまむ。
「…………」
「…………」
ねぇ祖父ちゃん。
『心に決めたおなごが見つかるまでおのこは鈍感であるべきじゃ』
本当にそれで良いのかな。
こんなにも多くの女の子に想われて鈍感であり続けるのは正しいのかな。
僕、分からなくなってきちゃった。
これって最早本編かも。




