17. おなごを苦しめ怯えさせるなどもっての外じゃ
今日のは無駄に長いです。
『おなごを苦しめ怯えさせるなどもっての外じゃ』
逆に男ならご褒美と思いなさい。
僕が祖父ちゃんのレベルに追いつける日は来るのだろうか。
もちろん、女の子を苦しめる輩はいつも通りにBANだけどね。
女の子のことを苦しめてしまう程に好きになってしまう。
今の僕にはまだその気持ちは分からない。
いずれ分かる日が来るのだろうか。
「へぇ~こんなところにお店があったんだ」
「安いし種類多いから」
「超オススメ」
ある日の放課後、僕は八乙女姉妹と街に繰り出していた。
目的は放課後デート、ではなく手芸用品のお店を教えてもらうためだ。
八乙女姉妹は服飾デザイナーだから詳しいかと思って相談したんだ。
僕もぬいぐるみ作りで裁縫するからね。
「ふむ、オレみたいな人間が入って良いのだろうか」
「会長何言ってるんですか。入ってダメな人なんているわけないじゃないですか」
「愚問か。君はそういう人間だったな」
僕が八乙女姉妹に相談していたら会長がやってきて一緒についてくることになった。
会長は自分で作らないとは言えぬいぐるみ大好きだから興味があったんだと思う。
「せっかく三人きりだと思ったのに」
「放課後デートのチャンスが」
「抜け駆けはさせないさ」
時々三人だけでこそこそ話をしているようだけれど仲が良いのかな。
お姉さんの麻衣さんが会長と同じ三年生だから知り合いなのかもしれないね。
なお、手芸用品店の中でのことは楽しくショッピングをしていただけなので割愛する。
「良い店を教えてくれて助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「どういたしまして」
探していたものが見つかって超嬉しい。
「これでずっと作りたかったものが作れるよ~」
「ほうほう、ちなみにそれはオレの分もあるのかい?」
「あはは、完成品を見て気に入ったならプレゼントしますよ」
「やったぜ」
本当にぬいぐるみが好きなんだなぁ。
「ずるい」
「欲しい」
「もちろん麻衣さんと芽衣さんにもプレゼントするよ」
元からお店を教えてくれたお礼を兼ねてプレゼントするつもりだったからね。
「うれしい」
「うれしい」
でも二人はプロの服飾デザイナーだから気合入れて作らないと。
作りが甘いのとか恥ずかしくて渡せないもん。
「それじゃあこの後は軽く何か食べて……どうしたの?」
八乙女姉妹が揃って何かを気にしていた。
目線を追ってみると、一人の女の子の後ろ姿が目に入った。
上下スウェットでまるで部屋着のようなラフな格好の同い年くらいの女の子だ。
靴も運動靴でおしゃれっ気が無いものであるし、この近くに住んでいてコンビニとかにちょっとした買い物のために外出した、みたいな感じかな。
「あの人が何かあったの?」
「勿体ないと思って」
「磨けば光る」
勿体ないって何の事だろう。
「着飾れば綺麗になりそう」
「アクセも色々なものが似合いそう」
あ~なるほど。
デザイナーとしての血が騒いだってやつなのかな。
素材が良いのに勿体ない!みたいな。
そうは言わないであげてよ。
女の子だって偶にはあんな風に楽したいときだってあるでしょ。
八乙女姉妹もそのことは分かっていたのか、直ぐに興味を失ったようだった。
「…………」
「会長?」
でも今度は会長が異様な雰囲気になっていた。
僕が呼びかけても返事が無く、厳しい目で先程の女の子の後ろ姿を見つめていた。
「会長、どうしました?」
「ん?ああ、済まない。ちょっとな」
会長がここまで歯切れが悪いのは、僕にぬいぐるみ好きを告白した時以来のことだ。
気にはなるけれど、言うつもりが無いのなら無理して聞くことでは無いだろう。
そう思っていたのだけれど。
「!?」
なんだ今の悪寒は。
これは嫌な予感とかそういう漠然としたものではない。
僕はこれを知っている。
だって祖父ちゃんから嫌と言う程に叩き込まれたから。
人の悪意を察することを。
何処だ。
何処にいる。
誰を狙っている。
八乙女姉妹か。
それとも会長か。
僕らとは違う誰かか。
夕方の街中。
ここは中心街から少し外れた場所だけれど、歩いている人はそれなりに多い。
その中にいるのか、それとも物陰に隠れているのか。
感覚を研ぎ澄ませろ。
僕が見落としたら誰かが傷つくかもしれないんだぞ。
素人相手なら数秒かからず見つけてみせろ。
「見つけた」
雑踏の中でかなり小声でつぶやいたのに、何故か八乙女姉妹には聞こえてしまっていた。
耳が良すぎないかな。
「何を」
「みつけたの?」
「あそこにあるタピオカミルクティーのお店だよ。前から行ってみたかったんだよね」
上手く誤魔化せたかな。
タピオカミルクティーはもう古いけれど、専門店はまだ残っている。
咄嗟にその店が目に入って助かったよ。
さて、急がないとあいつが遠くに行ってしまう。
その前に会長に聞かなければならないことがある。
「会長、あの女性のことご存知ですよね」
「あの子のことは狙わない方が良いぞ」
「狙いませんよ!?」
ちょっと聞いただけなのになんでそんな話になるのかな。
八乙女姉妹も途端に険しい顔に変わったし。
「例え狙わなくても気にする必要は無い」
「はっきり言いますね」
何もそこまで言わなくてもと思ったけれど、それにはちゃんとした理由があった。
「あの子は男性が苦手なんだよ」
「なるほど、どうりで」
歩き方が不自然だと思ったんだよね。
すれ違う人と距離を取るのが大げさで左右への動きが極端に大きかった。
思い返せば確かに男性が近づくときだけ大きく距離を取っていたような気がする。
「だから君があの子に関わるのは止めた方が良い。決して男性嫌いを直そうとか思わないくれよ」
「そうです」
「これ以上はダメ」
これ以上って何の事だろう。
それに男性嫌いは直した方が生きやすいと思うんだけれど。
まぁ今はそれはいいや。
それならあの女の子とは会わずに全てを終わらせよう。
「分かりました。それじゃあ僕は用事を思い出したので先に帰りますね」
「……」
「……」
「……」
「ってなんでついて来るんですか!?」
足早にその場を離れたけれど、三人は無言で僕の後をついて来た。
「あの子を君の毒牙から守るためさ」
「僕はお話しするつもりはありませんよ!?」
「いや、それではダメだ。もし君があのことに気付いて元凶を取り除こうとしているのならば、そのことをあの子に伝えなければならない」
「え?」
会長は詳しい事情を知っていそうだ。
でもあの子に伝えなければならないっていうのはどういうことだろう。
何も伝えない方が怖がらせずに済むと思ったのに。
「良く分からないけど」
「お話は私達がする」
八乙女姉妹までもが僕とあの子が話をするのを止めようとする。
う~ん、危険だから巻き込みたくないんだけどなぁ。
「一つ確認させてくれ。オレは君のことを少しは知っている。山瀬君や松木君を助けたようにあの子も助けられるのか?」
山瀬さんや松木さんに共通するのは卑劣な男をぶちのめした時の事。
なるほど、会長はあの子のことだけではなくて僕の事もそれなりに知っているのか。
「余裕です」
「ハハッ、頼もしい返事だ」
例え相手が軍人であろうと、どのような武器を持っていようと、一対一なら負けない自信がある。
もちろん絶対に油断はしないけれども。
「それなら君が障害を取り除く、オレ達があの子に説明する。それでどうだ」
「……分かりました。ですが念のため迂回してから彼女の前に移動してください」
「分かった。三人で工夫するから任せてくれ」
あの人物の傍に近づかないのなら、危険はまず無いだろう。
事情を知っている会長が動いてくれるのなら頼りにした方が良さそうだ。
「君の雄姿をこの目で見られないのは残念だがな」
「無理は」
「しないでね」
そうして三人はあの女の子に会うためにこの場を離れた。
僕は応援を呼んでからこのまま件の人物を追跡する。
すぐに対処することは可能だけれど、万が一にも他の人への被害が出ないように人気が少なくなるのを待った。
もう少し……あの人とすれ違ったら……よし、今だ!
僕は隠密状態になり素早くその人物の背後に迫った。
「!?」
相手に何もさせず、僕はそいつを地面に叩きつけてうつ伏せにし、後ろ手に腕を取った。
「いでええええ!なんだよてめえ!」
そいつは二十代くらいの若い男だった。
背は低くひょろひょろの痩せ型の弱々しい見た目。
だけれどもその見た目とは裏腹に目の奥には昏い欲望が潜んでいる。
「ちょっと黙ってろ」
僕はそいつの顔をアスファルトに押し付けて大声をあげられないようにした。
かなり先を歩いているあの女の子に気付かれないようにするためだ。
「誘拐犯か?それともストーカーか?まぁどっちにしろすぐに分かるか……」
もしこの男が善良な一般市民だったなら。
あるいはまだ犯罪行為をする手前だったのなら。
僕の行為こそが犯罪になるかもしれない。
だがそんなことは知ったこっちゃない。
女の子が傷つく事に比べたら、そんなのは些細なことだから。
「ストーカーの方です」
「ああ、そうだったんですか」
男を捕まえている僕の所にやってきたのは、スーツを着た四十代くらいの男性だった。
この人もあの女の子を尾行していたのだけれど、嫌な感じは全くしなかった。
むしろあの子を心から心配しているような雰囲気だった。
そしてストーカーらしき男を見つけると今度はこっちを尾行し始めたのだ。
だから僕がこいつを捕まえた今、出て来るかなとは思っていた。
「そいつを捕まえて下さってありがとうございます」
「いえ、お気になさらずに」
その男性はお礼を言ったものの、浮かない表情は晴れなかった。
僕はこの人を安心させてあげることにした。
「こいつはもう終わりですからご安心を」
「え?」
ストーカー関連は事件性の高い状況で無ければ警察は動けず、事件が起きてから動かざるを得ないのが現状だと、祖父ちゃんつながりの知り合いの刑事さんが悔しそうに僕に漏らしたことがある。
もしかしたらこいつもそのパターンなのかもしれない。
「偉い人達と知り合いなので必ず動いてくれますから」
「そ、そうなのか!?」
「はい、もう呼んでありますからそろそろ来ると思いますよ。警察、弁護士、政治家、なんでもござれです」
「な!?」
祖父ちゃんネットワーク様々だ。
ひたすら罪を重くして何年も刑務所に入れることも出来るし、文字通り消すことだって可能。
今回どうするかは彼らに任せようと思う。
僕は祖父ちゃんと同じタイプなので、女の子を襲う人物は問答無用で処刑以外の選択肢が出てこないから。
「ありがとう……ございます!」
男の人はその場に膝をつき、両手を顔で覆って号泣し始めた。
「一発ぶん殴ります?」
「いえいえいえ!」
言ったのは僕じゃないよ。
応援に来てくれた警察の偉い人だよ。
あの人、喧嘩っ早いからなぁ。
応援の人達はストーカー男を連行すると僕達に事情を聞くことなく去っていった。
その不自然さに気付いた男性が首をひねっていたが、僕は素知らぬ顔で知らんぷりをした。
「君は一体何者なんだ……」
何者って言われても、祖父ちゃんのことを知らない人には説明し辛いんだよね。
祖父ちゃんから独立した家庭で育てられているから肩書は一応一般人だし。
「ただの高校生ですよ」
「ただのって……まぁいいか。紹介が遅れてすまない、私は紅 蒼汰だ」
「僕は椙山和也です」
気になるところはあるけれど飲み込んでくれたみたい。
嫌な感情は向けられていないっぽいから助かった。
ただ少し怖がられているような感じがしてむず痒いけれども。
「その制服は娘と同じ学校の生徒さんか。あの学校に君のような生徒がいたんだな」
「娘さんですか?」
なるほど、色々と分かった気がする。
まず、この人はあの子の知り合いで恐らくは父親。
理由は分からないけれどあの女の子が危険な目に合わないように見守っていたのだろう。
そしてもう一つ分かったのは会長があの女の子のことを知っていた理由だ。
この人の娘さんは僕と同じ高校に通っているらしいから、見たことがあるかあるいは会ったことがあるのだろう。
詳しい事情まで知っていそうだったから、もしかすると仲が良かったのかもしれない。
「ああ、娘の夢叶だ。ちなみに君は何年生かい?」
「二年生です」
「そうか。だとすると夢叶の同級生だな」
「同級生なんですか。だとすると僕とは違うクラスなのかな」
紅夢叶さん。
聞いたことが無い名前だった。
「いや、そもそも娘は学校に通ってないんだ」
「え?」
「あのクズのせいでな……」
夢叶さんはずっとストーカー被害に悩まされていて、二年生に進級する直前に襲われかけたらしい。
ただその時の目撃情報が全く無くて明確な物理的被害が無かったためか、そいつは無罪放免で放たれてしまった。
それゆえ夢叶さんはストーカー男に狙われるのが怖くて家から出られなくなり不登校になった。
それから数か月経った今、引きこもって姿を見せない夢叶さんのことをストーカー男が諦めたかもしれないと思い、勇気を出して少しだけ出歩いて安全かどうかを確認していたそうだ。
また学校へ行きたかったから。
もちろん危険であるので父親の蒼汰さんがこうしてボディーガードの役割をしていた。
もしかしたら部屋着でラフな格好だったのは、ストーカー男に見つかっても夢叶さんだと思わせないためだったのかもしれないね。
「でも君のおかげで娘はこれでようやく学校に行けるようになった。重ね重ねありがとう」
「お役に立てたようで何よりです」
会長が夢叶さんに事の顛末を話さなければならないと言った理由も分かった。
ストーカー男が捕まって安全になったことを伝えなければ夢叶さんは安心出来ないからだ。
裏でこっそり倒しました、じゃダメなケースもあるんだね。
何はともあれ、これにて一件落着。
夢叶さんとは学校で会えるかな。
でも男性が怖いのは変わって無いかもしれないから話しかけない方が良さそう。
なんて考えていたら、蒼汰さんから驚くべき一言が放たれた。
「君は娘の恩人だ。どうか会ってやって欲しい」
「え?」
あの、男性恐怖症じゃないんですか。
ストーカー男が怖かっただけでそうじゃないですか、そうですか。
夢叶さんが僕に会う必要ってありますか。
助けてくれた人に本人からもお礼を言うのが筋ですか、そうですか。
逃げられなかった。
そして蒼汰さんに連れられて向かった先には夢叶さんと思しき女の子がいた。
もちろん会長と八乙女姉妹も。
「家族公認だと!?」
会長の驚きの言葉が、妙に印象に残った。
夢叶さんがどんな人だったのかって?
それはまた別の機会に……
「性交を前提に結婚してください!」
「いやん、こんな格好で旦那様の前に出るなんてはしたない。今すぐ全裸になりますね!」
「自己開発しておきますから好きなプレイを教えて下さい!」
別の機会って言ってるでしょ!
なんで男性に襲われそうになる女の子をみんな変態にしちゃうんだろう。
(そのシーン出してないから)忘れられてるかもしれないけれど山瀬さんも『くんかくんか』タイプですし。
トラウマ抱えさせてシリアスにしないためとはいえ、ワンパターンすぎるかな。
でも後悔はしてない。
次はいよいよあのキャラが……
というところですが、次の更新は少し先になるかもしれません。
6/27~7/01 の間だけ例外的に執筆時間があまり取れないので(以降は元のペースに戻ります)




