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『おなごが困っていたら助けなさい』という祖父ちゃんの遺言を守って助けまくったら大変なことになった  作者: マノイ
特殊な人達

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15. おなごの愚痴や弱音を受け止められるおのこになりなさい

『おなごの愚痴や弱音を受け止められるおのこになりなさい』


 相手が男だったらぶん殴れ。


 今思い返してみると、祖父ちゃん男に厳しすぎるような気がする。


 愚痴や弱音を聞くなら僕も男よりも女の子の方が良いけど。


 それで女の子の気が楽になるのなら、何時間だって聞いてあげるよ。


 まさかその対象があの人になるなんて思いもよらなかったけれど。




「あれ、先生課題持って行くの忘れてる」


 四限目の授業が終わりこれから昼休みを迎えるという状況で、先ほどの授業で提出したばかりの課題ノートが教卓の上に山積みになっているのを発見した。


「ほんとだ。山吹やまぶき先生がこんなミスするなんて珍しいね」


 ノートの山を見ていたら山瀬さんも気になったのか近づいて来た。


「最近少し疲れているみたいだしね」

「椙山君もそう思う?」

「うん、授業中どことなく顔色が悪い気がする」

「心配だね」


 山吹先生は僕らのクラスの担任の女性国語教師だ。

 スーツを着こなし姿勢良くキビキビと動き、生真面目そうな鋭い目つきと口調で僕らを指導する。

 まだ二十代で若手らしいけれども、生徒指導や学年主任を担当していてもおかしくない貫禄がある。


 そんな山吹先生が課題を職員室に持ち帰り忘れるというイージーミスをするなんて信じられない。

 最近は動きに精彩を欠いているようにも見えるし心配だ。


「僕が職員室に持って行くよ」

「私も手伝うよ」

「僕一人で大丈夫だよ」

「ううん、手伝う」

「そ、そう」


 妙な迫力があって断れなかった。

 大した重さじゃないから本当に大丈夫なんだけどな。


「…………私も」

「いつの間に!?」


 しかも草間さんもやってきて既にノートを手に持っているし。

 三人で分けたら一人分の量が少なすぎて不自然なんだけれど、草間さんも断らせない空気を纏っていた。


「それじゃあ三人で行こうか」

「うん!」

「…………おー」


 職員室に入ったけれど、山吹先生の姿が見えなかった。


「いないのかな」

「机に置いておこうよ」


 まわりの先生に言伝を頼めば良いかな。

 昼休みということで多くの先生方がいらっしゃるし。


 しかしその必要は無かった。

 いないと思っていた山吹先生は自席にいたからだ。


 机に顔を突っ伏していて、遠くからだと見えなかっただけだった。


「先生、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「…………おつかれ」


 寝ている訳では無かったようなので、声をかけた。


「んあ…………お、おう」


 先生は慌てて体を起こして取り繕うとしたがもう遅いですよ。

 『んあ』って声が出ちゃったところがちょっと可愛かったです。


「椙山に山瀬に草間か。何の用だ」

「これを持ってきました」

「それは……課題か。わざわざ持って来てくれたのか、悪いな」

「いえ、机の上に置けば良いですか?」

「ああ、頼む」


 先生の机の上は綺麗に片付けられていた。

 身の回りをきちんと整頓しているのは山吹先生らしいなと思う。

 他の先生方の机と比較するとそれが良く分かる。


「しかしたったこれだけを持って来るのに三人で来たのか」

「ええ、まぁ」


 そう思いますよね。

 一人でも十分な量で、多くても二人が普通だろう。


「椙山だから仕方ないか」

「先生!?」

「十人くらいでゾロゾロと来なかった分だけマシか」

「そんなことあるわけないですよ」


 言われてみたら何故かそのシーンをイメージ出来てしまったけれど、きっと無いのだと信じたい。


「山瀬と草間は椙山の監視か。いや、それよりも先生の監視の方が正しいか」

「あはは……」

「…………先生は…………ダメ」

「どういうこと?」


 監視ってまた穏やかじゃない単語が出て来たよ。


「椙山がこれじゃあお前らも苦労するな」

「はい」

「…………はい」


 即答。

 何故僕がいきなりジト目で見られなければならないんだ。


 解せぬ。


「まぁ、問題にならない程度に青春しなさい」


 山吹先生ってこんな大らかな人だったんだ。

 もっと厳格で『学生の本分は勉学だ!』なんて声高に主張するイメージがあったのに。


 そう驚いたのは僕だけじゃなかったみたい。

 山瀬さんもまた山吹先生のイメージが変わったようだ。


「先生はもっとお堅い人かと思ってました。実はいつか怒られるんじゃないかって怖かったです」

「いくら先生でも生徒同士の交流に口を出す程ヤボじゃないさ。やることさえちゃんとやってくれれば青春を謳歌しても何ら問題は無い。なぁ、く・さ・ま」

「…………ふぁい」


 あ~草間さんは授業中に寝てることもあるからなぁ。

 先生方に目をつけられているけど自業自得だ。


「僕も少し驚きです。先日生徒会長からも少し釘を刺されてしまいましたが、先生方からも何か言われると思ってたので」

「ん?昼休みの事とかか?」

「はい」


 生徒会長は生徒寄りの立場だから僕の味方だったけれど、先生の立場で考えると叱らざるを得ない状況かなって思ってた。


「椙山だから大丈夫だろ」

「え?」


 僕だからってどういうことだろう。


「真面目だから無節操に手を出すことはしないだろうし、強いから男子達が強引な手段をとることも出来ん。女子達への嫉妬の類も椙山がまだ誰も選んでなくて誰でも選ばれる可能性があるというのが程よい枷になっているしな」

「あの、選ばれるとかってどういう意味でしょうか」

「さぁな、自分で考えろ」


 先生なんだから教えてくれても良いのに。


「てなわけで気にせず楽しみなさい。ふわぁあ」


 そう言って先生は欠伸をした。

 生徒の前で気が緩んだところを見せるなんて、やっぱりどこか変だ。


「先生お疲れですか?」

「ああ、少しな。悪いな、気にしたか?」

「…………休むの…………大事」

「草間は休んでばかりいないで勉強しろ」


 やっぱり疲れてたんだ。

 教師は忙しいって言う話は本当なのかな。


「やっぱり部活の顧問が大変なんですか?」


 先生は女子バレー部の顧問だ。


「そうでもないさ」


 本当かな。

 女子バレー部は毎週土日も活動しているって話を聞いたことあるけれど、先生は休みが取れているのかな。


 そう先生の言葉を疑っていたら山瀬さんが他の可能性について質問した。


「テストの準備が大変ですか?」

「そうでもないさ」


 本当かな。

 バランスの良いテストの問題を考えるのって大変そうだけど。


 すると今度は草間さんが質問した。


「…………宿題を…………考えるのが…………大変」

「そうなんだよ。みんなが真面目に授業を受けてくれれば宿題なんて出す必要ないんだよな。く・さ・ま」

「…………ぎゃー…………なんで…………私だけ」


 あはは、先生楽しそうだ。

 こんなに明るい先生ならもっと前から色々とお話すれば良かった。


「ほら、帰った帰った。先生の心配なんてしてないで勉強やら恋愛やら部活やらやることなんて山ほどあるだろ」

「そうですね。その山ほどの中には先生の心配も含まれてるんですよ」

「へぇ、椙山言うじゃねーか。でもな、先生が生徒に愚痴なんて言えないのさ」

「先生は先生の前に一人の女性です。弱音を吐いたって問題無いです」

「んなっ!?」


 前々から先生の事を聖職者なんて呼ぶのが気に入らなかったんだよね。

 先生だって一人の人間なんだから怒るし悲しむし失敗もする。

 そんな先生達を生徒が支えたいって思うのは自然の事だろう。


「椙山くん、それはちょっと……」

「…………まさか…………先生も…………ターゲットに」

「なるほどなぁ。これが椙山か。お前達が夢中になるのも分かるわぁ」


 なんですかその反応は。

 それに少し違いますよ。


「僕じゃなくて僕達ですよ。ね、山瀬さん、草間さん」

「もちろんです!」

「…………当然…………でもお手柔らかに」


 たまたま口にしたのが僕ってだけで、山瀬さんも草間さんも似たような気持ちのはずなんだ。

 フラフラしながら授業をしている先生のことを心配している人はきっと多い。


「だから愚痴くらいいつでも言って下さい」

「そうですよ。私達には聞くことくらいしか出来ないですけど」

「…………叱られないよう…………頑張る」

「お前達……」


 山吹先生は俺達の言葉に思う所があるのか、目の付近をハンカチで少し拭った。




「職員室でよくそんなこっぱずかしい事言えるな」




 うわ、先生達の注目の的になっている。

 しかも微笑ましいものを見るかのような目で見られているし。


 なんか恥ずかしい!


「ええと、その、とにかくです。無理しないでくださいね。僕達はいつでも話を聞きますから!」

「そ、そうです。是非私に・・声かけて下さい」

「…………だけで…………なんとかする」


 僕達は慌てて職員室を後にした。


 結局先生は弱いところを見せなかったな。

 むしろ大人の余裕を見せつけられてあしらわれた感じがする。


「ねぇ草間さん。どう思う?」

「…………微妙」


 山瀬さんと草間さんは謎のヒソヒソ話を始めている。

 僕はそんな二人を横目に見ながら教室へ戻った。




「なぁ椙山聞いてくれよぉ」

「はい、何でしょうか」


 弱みを見せないと思っていた先生だったけれど、僕に良く話しかけて来て素直に愚痴を言うようになった。

 あの日は単に他の先生がいるから自重しただけだったのかもしれない。


 僕に色々と吐き出したからか、先生の顔色は大分良くなったように見える。

 力になれたみたいで嬉しいな。


 ただ、嬉しくなかった人もいるようで。


「先生!私に話をしてって言ったのに!」

「…………ダメ…………絶対」

「別に先生が加わっても良いだろ」

「ダメですよ、先生が生徒となんて!」

「おいおい、何を勘違いしているんだ。先生はただ生徒と交流をして今後の授業に役立てようとしているだけさ」

「…………絶対嘘!」


 うちのクラスは先生が良くやってくるようになり、何故か今まで以上に騒がしくなったのだった。


「監視したのにー!」

「…………つよい」

他の先生(30)『山吹先生は生徒となれ合い過ぎじゃありませんか』

他の先生(34)『けしからんですな』

他の先生(32)『ほらまた椙山君と話してる』

他の先生(28)『私ちょっと注意してきますね』

他の先生(30)『私も行きます』

他の先生(32)『では私も』

他の先生(34)『みんなで押しかけたら迷惑でしょう』

他の先生(30)『でしたら私だけで行きますよ』

他の先生(28)『いえいえ、先生のお手を煩わせるわけには、私が行きます』

他の先生(24)『わ、私が……』

他の先生方『あなたはダメ』

他の先生(24)『ヒエッ』

他の先生(34)『やはりこの中で最年長の私が行くべきでしょう』

他の先生(30)『こんな時ばかり歳上ぶるのは卑怯ですよ』

教頭先生(52)『では最年長の私がビシっと』

他の先生方『教頭先生!?』


もうダメだこの学校……

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[一言] 大半が女性教員ってこと?
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