9. おなごを辱める卑劣な輩は全力で潰すのじゃ
今回の話は少し長めです
『おなごを辱める卑劣な輩は全力で潰すのじゃ』
これは説明無用だよね。
もしこんな場面に出会ったのなら、僕は祖父ちゃんから引き継いだあらゆるものを使ってぶっ潰す。
でも不安なのは被害にあった女の子の心の傷。
メンアルケアの方法を祖父ちゃんから教わっていないから、僕はどうすれば良いか分からずきっと慌ててしまうだろう。
そしてついにその時がやってきてしまった…………と思ったら予想外の展開になったんだけど。
「行ってきま~す」
僕は誰も居ない祖父ちゃんの家に向けて出発の挨拶をした。
僕の家族は祖父ちゃんが亡くなってから月に一度は祖父ちゃんの家に足を運んでいる。
人が住まない家はすぐにダメになってしまうから普段は業者に頼んでメンテナンスをして貰っているのだけれど、完全に人任せと言うのは気分が良いものでは無いからだ。
僕以外の家族はその日の夜には家に帰るのだけれど、僕だけはいつも残ってお泊りする。
だからこの時だけは祖父ちゃんの家から登校するんだ。
高校の位置は僕の家からだと徒歩か自転車で通える圏内だけれど、祖父ちゃんの家からだと同じ市内だけれど少し遠くて電車を使った方が早い。
つまり長々と何が言いたいかと言うと、月に一度だけ電車通学をする日があるということだ。
「よし、気合入れよう」
たった二駅、されど二駅。
この路線は登校時間になると満員電車になる。
人の圧力で潰される程ではないけれど、簡単には身動きが取れない程度には混雑する。
それに耐えるために気合を入れたのだ。
電車がホームに入り、人波に揉まれて車内に入り、丁度反対側の扉付近まで押し流された。
つり革は全て埋まっているので、上手く他の人と体重を預け合ってバランスを取らないと。
電車が出発すると隣に立っていた女の子が突然ビクンと体を震わせた。
彼女が僕の方に軽く体重を預けていたからその不自然な動きに気が付いた。
制服は僕と同じ高校のもの。
リボンの色は一年生を示している。
僕の位置からだと横顔しか見えないけれど小顔で可愛い系かな。
でも彼女の最大の特徴は顔じゃない。
男目線で思わず釘付けになってしまう程の女の子らしい体つきだ。
決して胸が極端に大きいわけでも線が細いわけでも無い。
ただ全体的にメリハリがはっきりとしていて程よく肉感がある。
それが制服の上からでも分かる。
女の子らしい、というのが何を指すのか明確な定義は無さそうだけれども、彼女を見ると男なら誰でも良くない何かを揺さぶられてしまいそうな、そんな体つきの女の子。
だからこそ彼女がターゲットになってしまったのだろう。
「何してるんですか!」
僕は彼女の後ろに立つ男の手を掴み、次の駅で電車から引き摺り降ろした。
「俺は何もやってねぇよ!」
スーツを着た中年男性は犯行を完全に否定していた。
「いいえ、間違いなくこの人が触ってました」
だけれども、僕はこの人が女の子のスカートに触れていたのをしっかりと目撃している。
もちろん偶然なんかではなく、悪意のある形でだ。
「そいつの見間違いだろ。俺は絶対に無実だ!冤罪だ!」
どれだけ騒いでも無駄だ。
駅員さんが警察に通報しているはずだからすぐに連行されて法の裁きを受けるだろう。
「大丈夫?」
「うん」
この場には被害者の女の子もいる。
痴漢に遭遇したことで怖かったり気持ち悪がったりしているかと思いきや、平然とした表情だ。
男達に襲われかけた山瀬さんもそうだけど、メンタル強すぎないですか。
「早く解放しろ!会社に遅刻するだろうが!俺が居ない分の損害をお前ら責任とってくれるんだろうな!」
男は相変わらず叫んでいる。
しかしなんかおかしいな。
男は叫んでいるけれども何処となく余裕の表情だ。
まさか本気で捕まらないとでも思っているのか。
僕がそう訝しんでいると、その『理由』が僕らの元へやってきた。
「すいません。少々よろしいですか?」
スーツを着た若い男性だ。
「私こういう者です」
男はこの場にいる全員に突然名刺を配り出した。
弁護士?
僕はとてつもなく嫌な予感がしたので、ポケットの中であるところにこっそりと電話をかけてミュートにして放置した。
「弁護士さんが何の用でしょうか」
対応は駅員さんがしてくれている。
「実は彼女が痴漢されている現場を私も目撃したので、証言しようかと」
「そうなんですか?」
「はい、彼女はそちらの男性に触れられてはいませんでした」
「え?」
どうやら僕の嫌な予感が当たってしまったようだ。
僕は間違いなくこの中年男性が女の子を触っているのを目撃した。
真横に居たし、見間違いなどありえない。
つまりこの弁護士の方が見間違いをしているか、あるいは嘘をついているかだ。
「彼女に触れていたのはそちらの男性では無く、そちらの学生さんです」
「僕?」
「はい、間違いなく貴方です」
弁護士という肩書の威力は凄いんだな。
ずっと僕らの味方の空気だった駅員さんが、素直に僕を疑って女の子との間に割って入って来た。
「自分が犯した罪をこちらの男性に擦り付けるつもりだったのでしょう。子供とはいえあまりにも卑劣な行いです。然るべき処置をすべきだと提案致します」
中年男性はニヤニヤとこちらを見ている。
なるほど、グルか。
大人しい女の子を狙って痴漢した上に、バレた時の保険をかけて仲間が実行犯を庇い、しかも助けた人物を犯人にしたてあげる。
最低最悪の犯罪だ。
「さぁお嬢さん、怖かったでしょう」
弁護士を名乗る男はそういって女の子に近づこうとする。
まさか味方のフリをして後で襲い掛かるつもりじゃないだろうな。
こいつらならやりかねない。
あまりの卑劣さに直ぐにでも息の根を止めたくなってきたが、そんなところを女の子に見せるわけには行かない。
ここは我慢だ。
「駅員さん、その人を彼女に近づけないでください」
「え?」
駅員さんは弁護士の言葉を鵜呑みにしかけているが、まだ僕を完全に黒とは判断しきれていないようだった。
だからどうにか僕の言葉を聞いてくれて、襲われかけた女の子に成人男性が近づくのは良くないと気付いて間に入ってくれた。
「どういうつもりですか」
弁護士の男が涼しい顔を崩さず僕に目を向けた。
僕はその言葉をスルーしてポケットからスマホを取り出して画面を確認する。
よし、狙い通りの状況になっている。
「あなたとお話したい方がいらっしゃるようです」
「は?」
僕は弁護士の男にスマホを差し出した。
流石に意味が分からず表情が崩れて困惑している。
でも今からこの男はそんなものでは済まない程に顔をゆがめることになるんだ。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。私がその電話に出る必要が何処にあると言うんだい」
「別に出なくても良いですが、出た方があなたのためになると思いますよ」
心の準備が出来るだけだけど。
男は僕が全く動揺していないことを不気味に思ったのか、訝し気な表情になりながらも電話を受け取った。
「お電話を変わりました。どちらさまでしょうか」
弁護士の男は電話越しの声を聞いて目を見開いた。
そして口が半開きになり全身がガクガクと震え出した。
「な、なりすましは犯罪行為ですよ。まったく、痴漢をなすりつけるだけでなく、偽物の弁護士を用意するなんてあまりにも卑劣な……え、画面……ひええええええ!」
テレビ電話モードに切り替わったかな。
電話の向こうの人物が本物であることに気が付いたみたい。
「な、な、なんでこんな子供が……!」
弁護士の男は放心状態になり膝をついた。
ってちょっと、僕のスマホを落とさないでよ。
脱力した腕からスマホが床に落ちそうだったので僕は慌てて滑り込んでキャッチした。
「先生ありがとうございました」
『なぁに、和也君の助けになれて嬉しいよ。それで、彼らの処遇はどうしたいかね』
「もちろん全力でやっちゃってください」
『はっはっはっ、和也君がそこまで怒るのは珍しいな。よかろう、後の事は任せなさい』
「お願いします。今度お礼に……じゃなくて遊びに行きますね」
『ああ、待ってるよ』
電話の相手は弁護士界隈では知らない人は居ないとされる超大御所の弁護士さん。
祖父ちゃんから譲り受けた伝手の一つだ。
「チッ」
「おい!」
僕が電話をしていたら実行犯の男が状況の悪化を悟ったのか突然逃げ出した。
変わり身の早さは凄いな。
まぁ逃がさないけどね。
「なんでてめぇが前に!?」
追い抜いて回り込んだだけですが。
「ぐわっ!」
僕は男の両腕を素早くとって極めながら地面に叩きつけた。
ギリギリ折れてないはずだ。
「ぬおおおお!離せええええ!」
後は警察らしき人達が来るのを待てば、ひとまずは解決かな。
何故だ。
何故僕は今、被害者の女の子と一緒に学校へ向かっているのだろうか。
「センパイ、まだ襲わないんですか?」
「まだも何も襲わないよ!?」
しかもこの女の子、痴漢されたばかりとは思えないくらい僕に体を寄せて来るんだけど。
この女の子がメンタルケアを断って僕と一緒に歩いて登校したいと言った時に気付くべきだった。
見た目だけではなくて中身も男を誘ってくるタイプの女の子だってことに。
「ワタシは何されても抵抗出来ないか弱い女の子って有名なんです」
「なんで今それを説明したのかな」
「何をされても抵抗できないんですよ」
「なんで繰り返したのかな」
「こんなことされても抵抗出来ないんですよ」
「ぬお!」
危なっ!
僕の手を掴んでお尻にもっていかないで!
「お礼にホテルに行こうって言われても抵抗出来ないんですよ」
「絶対嘘だ!」
短時間しか話してないけれど良く分かった。
この女の子は絶対に抵抗出来ない女の子じゃない。
むしろ相手を自分から誘って破滅させるタイプの女の子だ。
『和也、世の中には決して溺れてはならぬおなごがおる』
祖父ちゃんが言ってたのは多分この女の子のことだ!
まさかあの痴漢騒動も自分から……いやいや、流石にそれは無いでしょう。
「ワタシの体、魅力ないですかね」
「……」
どう答えても間違いになる質問は止めて!
沈黙しか出来ないから!
「中学の頃はクラスの男子が全員ワタシでオ〇〇ーしてたと思うんですけど」
「こらああああああああ!」
女の子は慎みなさい。
とまでは言わないけれど、男とする話題じゃないでしょ!
「さっきのキモ男だって大喜びで触って来たのに」
思い出したくない記憶ですらないのね。
まさか堂々とその話題を出すとは。
それなら、この女の子の本性が分かってからずっと気になってたことを聞いても良いかな。
「もし僕が居なかったらどうするつもりだったの?」
「そんなの決まってるじゃないですか。抵抗出来ないワタシは卑劣な男達に思うがままに嬲られてぐったりしたところをホテルに連れ込まれて」
「本当は?」
この女の子を自由にしゃべらせたらダメだ。
危険なことしか言わないんだもん。
「これ」
「鞄?」
なんと鞄の底に隠しカメラが仕込まれていた。
鞄を脇に抱えると丁度お尻の部分が映る位置に調整されていた。
完全に証拠を撮られていたからあの男はどちらにしろ逮捕されていたわけだ。
でも対策しているからと言って見過ごすことは出来ない。
「どうにかして電車以外で登校できないの?それか時間をずらすとか」
「何故です?」
「だって準備していようが君が被害に会うことは変わらないじゃないか」
証拠が撮られる少しの間だけだから問題ない、なんてことはないはずだ。
どれだけ短時間であっても、女の子が卑劣な輩に汚されるなんてあってはならないことだ。
「ワタシを気持ち良くしてくれる人ならOKですよ」
「絶対にダメ!」
「どうしてですか?」
「どうしても!」
「……」
この女の子はどのような理由を伝えてもエロい表現で誤魔化すような気がする。
僕にはまだこの女の子の本心が分からないけれど、このままではダメだと強く思った。
「松木 鷹音」
「え?」
「ワタシの名前です。椙山センパイ」
女の子は唐突に僕に名前を教えてくれた。
「ワタシ決めました。センパイのこと本気で狙いますね」
「え?」
松木さんはそう言うと、ほんの少しだけ頬を赤らめた。
そういえば松木さんが表情を変えたのはこれが初めてかも。
それが意味するところは……
「さあ、センパイ。学校なんかぶっちしてレッツゴーホテール!」
「こらああああああああ!」
もしかして僕はとんでもない女の子と知り合いになってしまったのではないだろうか。
やばい女の子を増やしてしまった……




