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50 簡単、ヘルシー! もやし炒めと油揚げの煮びたし

 ランチタイムの片づけを終え、お茶でも飲もうかとしていた時、山猫亭の扉が開いた。


「こんにちは、アンナ、いる?」


 入り口から顔を覗かせたのは、錬金術師であるヴィーだ。真っ直ぐな長い水色の髪と紫の瞳をした、超がつくほどの美少女であるヴィーは大きなリュックサックを背負っている。どうやら錬金術の材料を採集しに行ってきたらしい。

 ゲーム世界だから……という理由を言ってしまえば簡単だけど、ヴィーは採集行動には不向きな、ふりふりのワンピースを着ている。


「いるよー。お帰り、ヴィー」


 私が厨房から顔を見せると、ヴィーは花が咲いたような笑顔を浮かべる。ほんと、同性でも血迷いそうなほどの美貌だ。


「今ニアの森から帰って来たところなの。一緒にお茶でもどうかと思って」

「ちょうど今からお茶にしようかなって思ってたんだ。入って、入って!」


 私は出入り口に駆け寄ってヴィーの荷物を下ろしてあげた。


「何これ、重っ!」


 一体その華奢な肩のどこにこんな思いリュックサックを背負う力が!? というほどに重量級だ。ヴィー、この美少女にはまだまだ謎がいっぱいありそうだ。

 重い荷物を下ろしたヴィーは、ふう、と息を吐く。


「そういえば森の出口でシューさんに会ったわよ。アンナによろしくって」

「シューさんに? それはすごい偶然だねー」


 シューさんというのは山猫亭の常連で冒険者のおじさんだ。たまに冒険先で得た珍しい物や食材を持って来てくれることがある。


「それで、これをくれたわ。食べられるんですって」


 よいしょ、とヴィーがリュックサックから取り出した袋の中には、白くてひょろひょろーっとしたものがたくさん詰まっていた。


「これは、もやし!?」


 その正体が分かった途端に私は驚きの声を上げた。

 もやしって自生しているの!? いや、自生してないってことはないだろうけど、スーパーでしか買ったことのない私にはイメージが湧かない。


「そうとも呼ぶの? 色々な呼び方があるらしいわ。錬金術師たちはこれを“ビース”って呼んで薬に使っているのよ」

「もやしが? 薬なの!?」


 そんなの聞いたことない。もやしと言えば、貧乏学生の強いお友達だ。炒めても良し、鍋に入れても良し。量のかさましにはうってつけ。私もよくお世話になったものだ。……と大昔の思い出みたいに語っているけど、ついこの間のことなんだけどね。


「骨が折れにくくなったり便秘が解消したり……色々な効能があるのよ」


 なるほど、薬というか栄養補助のサプリメント的な役割なんだな。そういえば栄養が全くなさそうに見えて、実はたっぷりあると聞いたことがある。骨が折れにくくなるということはカルシウム、便秘が解消するってことは食物繊維が入ってるってこと……かな?

 まさかゲーム世界に来てそんな知識を得られるとは思わなかったなあ。


「……で、何をそんなに驚いているの? アンナ」

「このもやし、料理して食べても美味しいんだよ」

「そうなの? シューさんは食べられるけど味は保証しないって言ってたわ」


 ヴィーは思ってもみなかったらしく、紫の瞳を丸くして驚く。

 ああ……きっとシューさんはそのまま食べたんだろうなあ……。それにしても味を保証しないものを私にくれるってどういうこと?


「アンナなら美味しくしちゃうかも、って期待したんでしょうね」

「そんなに期待されても困るけど、さっそくもやし料理を作ってみるね!」


 私は腕まくりをした。

 錬金術師でも魔法使いでもない私は、全ての食材を美味しくできるわけじゃない。おまけにプロの料理人でもない、ただの元・居酒屋バイト。手に入りやすい食材を、少しだけ美味しく、がモットー(たまにモンスターも食べちゃうけど)。頑張ります!


「まずは基本のもやし炒め!」


 私はフライパンを火にかけ、油を引いた。そしてもやしを炒め始めると、フライパンはジュッという良い音を立てる。味付けはニンニクを少し、塩コショウを多めに。もやしに軽く火が通ったら、生卵を卵黄が割れないように乗せて、蓋をする。


「できました! 簡単美味しい、たまご乗せもやし炒め!」


 座って待っていてくれたヴィーの元へ料理を運ぶと、ヴィーは綺麗な目をキラキラと輝かせた。


「すぐにできたわね。でも、美味しそう! おなかペコペコだったのよ。いただきます!」


 私の影響で、すっかり覚えてしまった合掌をして、ヴィーは食べ始めた。


「んー、ニンニクの良い香り! まさか虫よけに使っていたニンニクがこんなに美味しいなんて思いもしなかったわ。もやしもシャキシャキ! 塩コショウが効いてるわね」


 ヴィーは食べるたびに感想を丁寧に言ってくれる。

 居酒屋時代の癖でつい濃い目の味付けにしちゃうから普段は控えるように気をつけているんだけど、もやし炒めは塩コショウ強めの方が美味しいんだよね。自分の家で作る時も、卵と一緒に食べると味がぼやけるから、それを防ぐためにも気持ち多めに淹れるようにしていたっけ。


「ヴィーが食べてる間に、もう一品作ってくるね~」


 私は厨房へ引き返した。今度は簡単な煮ものにしようと思う。

 冷蔵庫から油揚げを出してっと。それをフライパンで軽く焼く。一度取り出し、今度はもやしを炒める。そこに醤油と出汁と砂糖と塩を入れ、油揚げを戻し、ぐつぐつ煮る。油揚げはすでに火が通っているし、もやしにもすぐ火が通るので、煮汁が染みれば完成だ。

 彩りに刻んだネギをパラパラかける。


「もやしと油揚げの煮びたし、できあがりー!」

「もう出来たの? どっちも早いわね!」


 再びテーブルへ運ぶと、ヴィーはちょうどもやし炒めを食べ終わった頃だった。


「もやしと厚揚げを醤油で煮てみたよ」


 料理の説明を受け、さっそく食べ始めるヴィー。その顔は再び笑顔になった。


「わあ、今度はおショーユ味なのね! 油揚げがまるでお肉のように感じるわ!」


 これも大好評だった。ささっと煮た割には味が浸透するのだ。しばらく置いておけば、もっと味が馴染むんだけど、すぐにでも食べてほしいもんね。

 ヴィーは煮びたしもぺろりと食べた。


「ふう、美味しかった。ごちそうさま! アンナが作ると食べ過ぎちゃうから困るわ」


 ヴィーがお腹を撫でる。が、そのお腹はちっとも出っ張っていない。


「ヴィーは細いから大丈夫だよ。それにもやしも油揚げもあまり太らない食材だもん」

「そうなの? 素敵ね。じゃあ、錬金術で量産できるようにやってみるわ」


 ヴィーはウインクをして袋に残しておいたもやしを掲げた。

 もやしはローカロリーだしかさましに仕えるから、量産できればかなり経費が抑えられるかもしれない。そしたら浮いたお金でまたお肉を買うことができるかも。


「私も手伝うよ!」


 ニンマリとしながら、お手伝いを申し出る私だった。



☆今日のレシピ☆

~もやし炒め~

・もやし

・生卵

・塩コショウ

・にんにく


~もやしと油揚げの煮びたし~

・もやし

・油揚げ

・醤油

・出汁

・塩

・砂糖

・ネギ


もやしは水に浸けて冷蔵庫に入れておくと長持ちするよ!



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