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49 フライパンで簡単時短!のブリ大根

 翌日の朝、目が覚めると目の前にはベアの寝顔があった。きめの細やかな肌、長いまつげ。

 その閉じていた目が、ぱちりと開いた。


「オハヨウ、アンナ」

「おはよー。よく眠れた?」


 ベアはこくんと頷き、起き上がった。目覚めが良すぎる。さすがホムンクルス。

 それにしてもホムンクルスって眠るんだな。そもそもご飯食べるのもなんだか不思議なんだけど。

 寝間着から洋服に着替えるベアは、いつもと違ってどことなくソワソワしている気がする。


「どうしたの? ベア」


 するとベアは「キョウ、ラウルス、カエッテクル?」と言う。


「そうだね、お昼前までには帰ってくると思うよ」


 私がそう答えると、こころなしか嬉しそうに寝間着を畳み始めた。どうやらラウルスが帰ってくるのが楽しみで仕方ないらしい。

 たった数日だというのに、ラウルスと離れていたことが寂しかったようだ。恋人かよ。


「サ、アンナ。ハヤク 、シコミ、シヨウ」


 ベッドまで整えたベアが私を急かす。私は「はい、はい」と笑いながら着替えをして一緒に厨房へ向かった。

 そして朝の営業が終わるころ、山猫亭の入り口のドアが開いた。


「オカエリナサイ、ラウルス」


 いち早く反応したベアが、洗った食器を拭く手を止め、ラウルスに駆け寄った。


「ただいま、ベア!」


 足元に荷物を置き、ベアを迎え入れるように両手を開くラウルス。

 熱い抱擁をかます二人。ちょっとちょっと、ラウルスさん。私とよりもラブラブしてないかい? 妬けちゃうわ。冗談だけど。


「いい子にしてたか?」

「ウン」

「そうか、偉いぞ。ベアにもちゃんとお土産買って帰ったからな」

「ベア、オミヤゲ、イラナイ。ラウルスガ、ブジナラ、ウレシイ」


 ラウルスがいじらしいことを言うベアを再び抱き締め、頬ずりする。


 もしもーし。私もここにいるんですけどー。


 しばらく二人のイチャイチャシーンを見せつけられた私は、シラけたままお皿拭きを完了させる。

 お土産である木彫りのオモチャをベアに渡したラウルスは、ようやく私を見た。


「ただいま、アンナ」

「あ、ようやく終わりました? おかえりー」


 まあ普段は私とヴィーがイチャイチャしてラウルスがのけ者になっているので、お互い様なのかもしれない。

 別にいじけている訳じゃないので、私はすぐに笑顔を向ける。無事に帰ってきてくれたことは素直に嬉しいもんね。いくら強いからといって安心できないもの。だけどラウルスは特に怪我も無く、元気な様子だ。良かった。

 ラウルスは右肩にヴィー特製のクーラーボックス、左手には紙に包まれた長い丸太のようなものを持っていた。騎士風のジャケットを着たイケメンだけに、なかなかシュールな出で立ちだ。


「お土産があるんだ」

「待ってました!」


 お土産目当てみたいで気が引けるけど、楽しみにしていたのは事実。私はわくわくと身を乗り出した。


「こっちが約束の魚だ」


 ラウルスがクーラーボックスを開ける。するとそこにはすでに三枚に下ろされた大きな魚の切り身があった。渡す相手が女(私)だということで、わざわざ捌いてくれたそうだ。


「これは、ブリ……かな?」

「そんな名前だったかも……すまん、魚の名前には疎くて。独特の魚の臭みがあるけどうまいらしいぞ」

「ううん、大丈夫。絶対ブリのはず」


 私の認識しているブリと同じ物かどうか気になっただけだ。魚の臭みというのは青魚特有の味のことだろう。元の世界でもお湯をかけたり調味料を入れたりして工夫していたもんね。

 丸太のような包みの正体は、ぐるぐる巻きにされた大根だった。


「ありがとう! お礼にこの二つを使って美味しい料理を作るね!」

「この二つを、一緒に使うのか? それはすごい!」


 ラウルスは目を丸くして感心した。魚と大根が結びつかなかったのだろう。


「任せて! ラウルスはベアとゆっくりしててねー」


 そう言うと私は厨房へ食材を持ち込んだ。カウンター越しに見るとベアの字の練習をラウルスが丁寧に教えてあげている。微笑ましい光景だ。

 よーし。私は腕まくりをした。ブリと大根と言ったら、あれしかない!


 そう、“ブリ大根”!


 まずは大根の皮を剥き、食べやすい大きさに切る。あまり大きく切ると味が染みるのに時間かかっちゃうからね、小さめサイズの乱切りで。こうすれば面取りなんて面倒な作業は不要! それから鍋で大根が浸るくらいのお水を入れ、下茹でをする。

 次にブリを切る。こちらは煮すぎて硬くなったり煮崩れしたりしないように大根より気持ち大きめにカット。ざるに入れ、塩を振り、上からお湯をかける。別の鍋で沸かすのも面倒だから、大根を煮ているお湯でOK。

 フライパンに植物油を引き、軽く焼き目が付くくらいにブリを焼く。この工程でブリの旨みがブリの中にちゃんと残り、尚且つ煮崩れしにくくなる。

 焼けたらブリをフライパンから取り出し、大根をこちらも軽く焼く。全て焼けたらブリをフライパンに戻し、生姜、醤油、酒、冷蔵庫で作り置きしておいた出汁を入れる。


 フライパンで作る煮物、好きなんだよね。鍋と違って具を広げることが出来るから、均一に火が通るし早く料理が仕上がるもん。そうだ、臭み取りにネギもいれておこうかな。


 ブリだったらアラ(頭部)を煮ても美味しいんだけど、切り身でも十分旨みが出る。まあ、アラは骨が多くて身を取り出すのに苦労するから、切り身の方が良かったのかも。結果オーライ。

 お皿に盛ったブリ大根は、見栄えが良く、魚の旨み脂でつやつやと輝いている。


「ブリ大根の出来上がり―!」


 見上げるとそこには期待に満ちた目をしたラウルスとベアがいた。いつの間にか字の練習は終わっていたらしい。


「ワーイ。マッテマシター」

「醤油の匂いってのは、何でこうも食欲をそそるんだろうな」


 まるで日本人のような口振りだ。

 いそいそとブリ大根のお皿を運ぶラウルス。カトラリーとお水を運ぶベア。何てスムーズな役割分断なのだろう。


「いただきます」「イタダキマース」


 同時に合掌して、二人はブリ大根を食べ始めた。


「な、なんだ、この味は!? 魚、全然臭くないじゃないか。大根にもしっかり魚の味が染みてる……! 醤油がこんなに魚に合うなんて驚きだ……! 生姜も魚の味を見事に引き立てている!」


 いつも美味いとしか言わないラウルスが一生懸命感動を伝えてくれた。

 お湯をかけたおかげで臭みも取れ、余分な脂が取れているのだ。


「アンナ、ご飯! ご飯をくれないか!?」

「ベアモ! ゴハン! クダサイ!」

「はいはい、そう言うと思って用意していますよ」


 すぐさま、よそったご飯を運んでいくと、「神か!」と二人に崇め奉られた。


「このブリダイコンってやつとご飯の組み合わせは最高だな! 他になにもいらない」

「ダイコンカラ、ジュワーッッテ、トッテモオイシイ」


 二人はブリ大根のお皿を取り、次にご飯の乗ったお皿を取り、忙しそうだ。


「ご飯にブリ大根の煮汁をかけても美味しいよ」


 私がそうアドバイスすると、ラウルスは再び「神か!」とでも言いたげな顔をした。そしてスプーンで煮汁をかけ、そのままかきこむ。ベアもすぐさま真似をする。


「こっ、これは……! 美味いっ!」

「ウマイ、ウマイ」


 まるで親子のように美味いとしか言わなくなった二人に、私はそっとお代わりのご飯を差し出すのであった。



☆今日のレシピ☆

~ブリ大根~

・ブリ

・大根

・ネギ

・生姜

・醤油

・砂糖

・酒

・塩

・出汁


ブリのアラを使っても美味しいよ! 魚屋さんで安く売ってたらラッキー♪


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