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22 【サイダーが飲みたい!編1(全3話)】角煮まんを作って出発!リアルオークにびっくり

 今までいくつか料理やお菓子を作ってきたけれど、飲み物ってまだ作ったことなかったよね。

 あー、あれ久々に飲みたいなあ。透明でちょっと甘くて、シュワシュワっとした刺激的なやつ。


 そう、サイダー!


 今日は少し肌寒いくらいだけど、暑い日にはサイダーを一気飲みしたらスッキリするだろうな。


 でも、どうやって作るんだろう。


 サイダーって、炭酸水に味付けしたものだよね。

 炭酸水は確か重曹とクエン酸を混ぜる方法と、水に二酸化炭素を溶け込ませる方法で出来たはず。

 でも重曹なんて無さそうだし、二酸化炭素を水に溶かすには専用の機械が必要だから、作るのは難しそう。


 よし、ランチタイムも終わったし、 ヴィーに聞きに行ってみよう。

 錬金術って何でも出来そうな感じだから、何かいいアイディアがあるかも。


「ヴィー、聞きたいことがあるんだけどー」


 ノックをして家に入ると、ヴィーは何か作業中だった。


「あれ、何してるの?」

「依頼されたものを作っていたの。ちょうど終わったところよ」


 テーブルの上には、手の平サイズの布袋がたくさんある。

 どうやらそれを箱に詰めていたようだ。


 ……巾着? お守り?


「触ってみて」

「わ、温かい!」


 ヴィーが差し出た布袋を手に取ってみると、それは熱を持っていた。


「発熱する袋よ。服のポケットに入れて使うと体が温まるの。今日みたいに寒い日には重宝するわよね」


 ヴィーの説明を聞いて、私は心の中で手をポンっと打った。


 ああ、これ、ホッカイロか!


 確かに最近肌寒い日が続くけど、ホッカイロを使う程は寒くない。

 依頼主さんはよっぽど寒がりなんだなあ。


 この発熱袋は中に入っている錬金鉄を割って使うんだそうだ。

 確か、元の世界のホッカイロも鉄を空気に触れさせて酸化させると熱が発生する仕組みだったはず。

ほんと錬金術って科学だよね。


「これを大量に作ってくれって依頼だったのよ。でも……調子に乗って作りすぎちゃったわ」


 テーブルの上には箱に詰められた依頼分と、無造作に山積みになっている余った分があり、山積みの方が多い。

 今後もっと寒い日があったら使わせてもらおうっと。


「それで、アンナは何か用があるって言ってなかった?」

「あっ、そうだった。あのね、飲みたいものがあって、錬金術で作れないかどうか聞きに来たんだよね。ソーダ……いや、炭酸水って言うシュワシュワの泡が出る飲み物なんだけど」


 するとヴィーは頬に人差し指を乗せて首を傾げた。


「待って。もしかして、あれのことかしら」


 そして錬金部屋にパタパタと走っていき、本棚から分厚い本を取り出してきた。

 茶色く変色したページを次々に捲り、あるページで指を止める。

 そして私に見えるように本を移動させた。


「あったわ。もしかして、これじゃないかしら」


 ……読めない。


 まるで楔形文字みたいだ。

 私はすぐに音を上げてごまかすことにした。


「文字ばっかり見てたら頭が痛くなっちゃうんだよね。ヴィー、要約してくれないかな」

「つまり、石灰石と、特殊な鉱石と、レモンが必要って書いてあるのよ」


 ヴィーは私のごまかしに気付くことなく要約してくれた。

 石灰石と特殊な鉱石か……どこかで採集しないといけないのかな?

 レモンならどこかの店で売ってそうだけど。


 すると、本を覗き込んでいた私たちの後ろから、男の人の声が降ってきた。


「石灰石と鉱石なら、心当たりがあるぞ」


 おなじみラウルスの声だ。

 振り返ると、ラウルスの傍にはベアの姿もあった。


「あら、ラウルス。勝手に入って来ないでくれないかしら。ああ、ベアはいいのよ。いつでも大歓迎」


 おお、久々のヴィーの冷たい発言。ゾクゾクするね!


「ノックはしたんだが」

「シタ、シタ」


 しゅんとするラウルス。だけど大丈夫だよ。

 だってほら、ヴィーがラウルスの分までお茶を用意してくれているもんね。

 ほんと、素直じゃないんだから。


「で、心当たりがあるって、どこなの?」

「ミルネラという名の鉱山だ。騎士学校に通っていた頃、特訓のために合宿をしたことがある。その山の採石場に石灰石がたくさん転がっていたんだ」

「鉱石の方は?」

「ミルネラ山の近くにストラムっていう塩湖がある。そこで採れると聞いたことがある」

「じゃあ、さっそく明日にでも出発しようよ!」


 欲しいものが両方一気に揃うなんて、ラッキー!

 今日にでも行きたいくらいだけど、明日まで我慢我慢。

 そう思ったら、ラウルスが眉をぎゅっと寄せた。


「いや、少し問題があってだな……」

「何?」

「ミルネラ山のモンスターがかなり手強いんだ。俺一人で全員を守れるかどうか……」


 ベアがラウルスの服の裾をくいくいっと引っ張る。

 自分もいるよ、と言いたいらしい。

 だけどラウルス的にはベアが心配なので、あまり戦闘に加わらせたくないのだろう。


 するとその時、入口の方から別の男性の声がした。


「私でお役に立てることがあるかな?」


 振り返ると、全開になっている窓から、見覚えのある金髪碧眼の整った顔が見えた。


「ジークハルドさん!」

「やあ、アンナ。君に会いたくなって来てしまったよ」


 イケメンが爽やかにウインクしてる。


 うん、何でだろう。

 この甘いセリフに慣れてきちゃったよ。

 私は満面の笑顔でスルーした。


「えーと、私たち、ミルネラっていう山に行こうって話になってて」


 私が事情を説明しようとすると、それをジークハルドさんが手で制した。


「話し声が外まで聞こえていたよ」


 ですよねー。

 ヴィーの家は町のはずれにあるので、私たちも声を抑えたりしないから、きっと筒抜けだっただろうな。


 でも、聞いていたなら話は早い。

 凄腕の冒険者であるジークハルドさんが一緒に来てくれたら、これ以上心強いことはない。


「じゃあ、同行をお願いできますか?」

「任せてくれ。君たちには擦り傷一つ、作らせない」


 ジークハルドさん、かっこいー! ひゅー!

 話はトントン拍子にまとまり、明朝に出発することになった。


「私、何か山で食べられそうなものを作っていくよ。いい豚バラのブロックが手に入ったんだよね」

「お弁当ね! 楽しみだわ」

「何がいいかなー?」

「山登りは疲れるだろうから、濃い目の味付けの方がいいかもしれないよ」


 ジークハルドさんが的確なアドバイスをくれる。

 そうだよね、汗かくかもしれないし、塩分は大切だ。


 あっ、角煮なんてどうだろう?

 照りが出るまで醤油でしっかり柔らかく煮たやつ。

 そうだ、角煮を包むおまんじゅうも作って、角煮まんにしたら美味しそうだよね。


「あー、でも冷めちゃったら美味しくないよね。向こうで温めるのも難しそうだし……」


 私はせっかく思い付いたアイディアを、自分で却下した。

 角煮は冷めると脂が浮いて美味しくなくなってしまうのだ。

 かと言って鍋ごと持って行くのも大変だし。

 今回みたいに遠出する時はなるべく荷物を少なくしたいよね。


「だったら、これを使ったらどうかしら?」


 すると、ヴィーがテーブルの上にある発熱袋 を指差した。


「これをお弁当箱に付けて温められるように改良したら、山の上でも温かいものが食べられるかもしれないわよ」

「さっすがヴィー! 頭いいっ!」


 私たちは手を取り合って、ぴょんぴょんと跳ねた。

 よく分かっていないベアも一緒になって飛び跳ねている。


 待ち合わせの時間や持って行くものの打ち合わせをして、その日は解散となった。



 翌朝早起きした私は、さっそく角煮まんを作ることにした。


 まずは角煮を包む皮を作ろう! 寝かせる時間が結構かかるからね!

 そうか、ベーキングパウダーがないんだ。


 うーん、他のもので代用できないかな。

 こんな時こそ炭酸水があれば代わりになるんだけど。

 あっ! 卵があるから、卵白をベーキングパウダーの代わりにしよう。そこまでフワフワにはならないだろうけど、無いよりはいいよね。


 卵白をボウルに入れ、泡だて器で泡立てる。

 うう、腕が痛い。

 こりゃ筋肉痛になりそうだなあ。

 いつかヴィーに泡だて器も作ってもらえたら嬉しいな……。


 小麦粉と砂糖をボウルに入れて、そこにヤギのミルクと油、泡立てた卵白を混ぜる。

 油を加えてひとまとめにし、捏ねる。

 そして常温で一時間程度寝かせておく。


 寝かせている間に、メインの角煮を作ろうっと。


 まずは豚バラのブロックをフライパンでまんべんなく焼き色が付くまで焼く。圧力釜が無くても、フライパンでだって美味しい角煮が作れるもんね。

 食べやすい厚みに切り分け、鍋に水と酒を入れ、沸騰したら十分ほど肉を茹でる。


 冷ますと白い脂がたくさん浮いてくるので、それを丁寧に取り除く。

 再び鍋を火にかけ、醤油、生姜、砂糖を加えて煮込む。

 沸騰したら弱火にして、水分が三分の二くらいになるまで煮汁を肉にかけながら煮詰める。


 均等になるように肉の位置を時々変えてっと。

 よしよし、肉に味が染みていい色になってきたぞ~。


 肉に照りが出て、煮汁にとろみが出たら出来上がり。サイダーを入れたら更に肉が柔らかくなるんだけどな。サイダーが完成したら、試してみよう。

 ああ、おまんじゅう生地の方もいい感じに発酵してるみたい。


 生地を小分けにして、打ち粉をしたまな板の上で麺棒を使って楕円形に軽く伸ばし、片面に油を薄く塗って二つ折りにする。

 大きな鍋に湯をはり、中に木の蓋を置いてその上に二つ折りにした生地を置く。

 熱い湯気で十分ほど蒸したら出来上がり。


 よし、一個だけ味見してみよう。

 私はおまんじゅうの皮に角煮を一切れ挟んで、ぱくりと頬張った。


「熱っ! ……うーん、最高!」


 白い皮は意外とふんわりもっちり、挟んだ角煮はこってりとろり。

 味がよく染みていて、噛んだ先から肉がほぐれていくほど柔らかい。


 よし、これで準備はばっちだね!


 そして集合時間になり、私たちはまだ暗い中を出発した。


 ミルネラ山は今までで一番の遠出だ。

 途中の大きな町までは歩きで、そこから乗合馬車に乗り、更に歩いた。

 あまり大きくはないその山に辿り着いたのは、お昼頃だった。

 

 早く登らなきゃ日が暮れるってことで、ひとまずお弁当はお預け状態。

 私たちは山をひたすら上った。

 自然が多いと言うよりも、石ばかりが転がっている寂しげな雰囲気の山だ。

 何度も石に足を取られそうになりながら、頂上付近の採石場にようやくたどり着いた。


「んで、石灰石ってどんなの?」


 イメージとしては灰色とか白色なんだけど、そんな感じの石がごろごろあって判別出来ない。


「そうね。石灰石は水に溶ける性質を持っているそうだから、一番手っ取り早いのは水をかけてみることだと思うわ。でも、その時に熱が発生するから注意が必要よ。危険だから、私が水をかけるわ。皆は石灰石っぽいものを集めてくれるかしら」

「分かった!」


 私たちはまずヴィーに石灰石を見つけてもらい、それとよく似た色の石を集めまくった。


「あ、あの石、大きくって良さげ!」


 私は皆から離れ、奥まったところにある大きな白い石を発見して駆け寄った。

 そこにあったのは両手でようやく持てるくらいの大きな石だ。

 これが石灰石ならたくさんサイダーが作れそうだ。

 私がウキウキしながらその石を抱え上げようとすると、背後に黒い影が差した。


「アンナ、危ない!」


 私は近くにいたラウルスの背に庇われた。

 何? 何が起こったの?


 ラウルスの肩越しに向こうを見ると、一匹のモンスターがいた。人型に近く、その肌は緑色。

 鋭い牙が生えた口元からは、ドロリとしたよだれが垂れていた。


「あれは一体……!?」

「オークだ」


 あれがオーク! ゲーム画面で見た時よりもリアルだな!

 オークは鋭い爪を使って攻撃を繰り出してきた。

 ラウルスが必死で応戦するものの、私を庇いながら戦っているからか、劣勢だった。


「二人とも伏せて!」


 その時、ジークハルドさんの声が私たちの耳に届いた。


 訳が分からないまま、私はラウルスに覆いかぶさられてその場に押し倒される。

 うう、地面に頭や背中がぶつかって痛い。

 でもそれどころじゃないよね。


 するとヒュンッという風を切る音と共に疾風が頭上を走り抜けた。

 それとともに獣の断末魔の叫びが辺りに響く。


 ジークハルドさんが、あっさりとオークを倒してしまったのだ。


「怪我はなかったかい? 奥の洞穴がヤツの巣だったようだね」


 ラウルスの肩越しに、空とジークハルドさんの顔が見える。


「そうだったんですか。ありがとうございます、ジークハルドさん。助かりました」


 私が巣穴に近付いたから、オークが襲ってきたらしい。

 軽はずみな行動を取って申し訳ないことをしたなと反省した。


「ところで二人とも、いつまでその態勢でいるつもりかな?」


 ジークハルドさんに呆れたように言われて、ようやく自分がどんな態勢なのかを思い出した。


 ラウルスに目を向けると、ちょうどラウルスも私の顔に視線を向ける。

 あまりにも近くにラウルスの顔があって、私は一瞬ドキリとした。

 だけどラウルスはそれ以上に動揺したようで、がばりと身を起こすと、急いで私から距離をとる。


「ご、ごめん。突然だったから、他に助ける方法が思いつかなくて……」

「う、うん。ラウルスも助けてくれてありがとね」

「あ、ああ。ぶ、無事で良かったな」


 すぐに背を向けたその耳が、熟れたリンゴみたいに真っ赤になっている。


「やれやれ、妬けるね」


 ジークハルドさんの呟きが聞こえてくる。


 いやいや、私は思ったよりラウルスの顔が近くにあってびっくりしただけだし。

 ラウルスもそんなに照れないでよ。動揺がこっちに移っちゃうから!


 オークの方はなるべく見ないようにして、私たちはヴィーとベアが居る方へと戻ったのだった。



■今回の錬金術レシピ


●発熱袋

・鉄

・水

・塩

・特殊な炭


●角煮まん

~角煮~

・豚バラブロック

・酒

・醤油

・生姜

・砂糖

~おまんじゅうの皮~

・小麦粉

・砂糖

・ミルク

・油

・卵白


濃厚な味の角煮をおまんじゅうの皮で包めば、ボリュームアップ!


■今日のラウルス君

アンナと急接近で心臓が爆発状態。


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