一夜にして全滅した
「トムの坊やがもうすぐ亡くなるみたいよ」
町の広場で人々が話をしていた。
「遂に?」
「へえ、長かったねえ」
「長いと言えば長かったし、短いと言えば短かったような気も」
人の死を扱っているとは思えないほど軽い会話が流れる。
規則正しく、退屈なほどに丁寧に。
「見に行きたいな」
一人の老人がそう言った。
トムの坊やとはほとんど関わりのない者だ。
それこそ、話したことも数えるほどしかない。
「気持ちはわかるが駄目だ」
町長がそう言った。
彼もまたトムの坊やとほとんど話したことはない。
「何故ですか」
「君が挨拶に行けばあの子は違和感を持つ」
「しかしですねえ」
「皆まで言うな。私も同じだ。いや、むしろ私こそが一番口惜しいさ」
町長にそう言われてしまえば黙るしかない。
確かにそうなのだ。
何せ、町長は長い間この町を守ってきたのだ。
いや、それどころか一番初めに命令を受けた者の一人なのだから。
「皆。最後まで普段通りのように振る舞いたまえ」
町長の言葉に皆が頷いた。
*
トム老人はどこにでもいる男性だった。
生まれた頃からこの町に住んでいるが、社交的な性格ではないので町民全員と親しいわけではない。
しかし、大体の人間とは最低限顔見知りではある。
それでも最期の時となれば訪ねてくるのはごく親しい者に限られる。
当たり前の話だ。
人間ならば。
そんなトム老人が、今、息を引き取った。
トム老人と親しかった老人がぽつりと呟いた。
「終わりだ」
隣にいた老婆もまた頷いた。
彼らの周りに居た残りの三人も。
「では、我らも眠ろう」
トム老人の周りに居た者達はそう言って服の下、人間であれば心臓がある場所についているスイッチを押した。
電源オフ。
こうすればロボットは動きを止める。
いや、役割が止まるのだ。
この町に残った最後の人間に、疑いもなく人生を全うさせるという役割が。
*
町長は町を回る。
ただ一人の電源の切り忘れがいないかの確認のために。
「完璧だ」
町長は呟いた。
まるで人間のように。
そして、最後の最後。
トム老人の骸の前へやってくる。
自分に命令をした人間を思い出す。
あの命令が下った時はまだトム老人はトム坊やだった。
そして、年を取らないロボット達からすれば認識はいつまで経ってもトム坊やのままだ。
「坊や。お疲れ様」
町長は微笑んだ。
「人間には天国がある。だから、今度こそ本物の人間に囲まれて暮らすがいい。永遠に――」
そう言って町長は自らのスイッチをオフにした。




