婚約者の様子がおかしい
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婚約者の様子がおかしい。
そう気付けるくらいには彼のことを知ってきたつもり。
お嬢様は考えすぎですよと侍女は言う。
でも世のお姉様方が言うには
よそよそしくなる
一緒にいても早く帰りたそう
約束を急にキャンセルする
これって浮気の兆候をなんですって。
今日だって彼は我が家に来たもののずっとそわそわしていて、お茶の時間を早めに切り上げてそそくさと帰っていったわ。
きっと私よりも優先するものができたのね。
そのうち手紙や贈り物が少なくなり交流する時間も少なくなって私は蔑ろにされるようになるのかしら。
しかも彼の家に行った時、偶然彼の話を聞いてしまったの。
「放っておけないんだ、僕が守ってあげないと。でも母上が許さないだろうから家を与えて囲うしかない。根回しが済むまで気付かれるわけにはいかない」
物陰から見た彼の様子に、本気なのだと知る。
守ってあげたい子なんだ。可愛げのない私とは大違い。当主教育を受ける私は可愛らしくないし彼よりも年上だから放っておけない様なか弱い存在でもない。泣きそう。
彼は婿入りするのだから大丈夫だと父は言う。
彼はまだ若いから手綱を握れば大丈夫よと母は言う。
手綱ってどう握るの?
かくなる上は自ら証拠を押さえに行くしかない。
次の茶会は当日キャンセルされた。伝えに来た彼の従者が我が家を出で行く際に後をつける。
向かったのは郊外にある小さな一軒家。敷地に近付くと庭の方から彼の楽しげな声が聞こえてきた。
彼は私との約束よりもこの家で過ごす時間を選んだのだ。腹の中がムカムカしてきた。真実を知るのは怖いけれどこのまま見過ごすことはできない。
「不貞の現場を見つけたわ!」
「な、なんで君がここに⁈」
庇うように隠す彼の腕の中にいる子を見ようと近付いたら
ふわふわした輝くキャラメル色、黒い大きな瞳はうるうるして庇護欲をかき立てる。
小さくて、愛らしい
「クゥーン」
子犬⁈
「捨てられていたのを放っておけなかったんだ。母がアレルギーで家には連れてゆけないから離れの管理人に世話を頼んだ」と彼。
子犬は度々脱走するらしい。今日も迷子になってしまい彼は急遽茶会を欠席して探したそうだ。
彼7歳、私10歳の時の話である。
その子犬は我が家で暮らすことになった。
今思えば天からのギフトだったのだろう。
子犬はかけがえのない家族になったし
小さき者を守り、命に対して真摯な彼の一面を知れて私は彼をもっと好きになった。
その彼と来春、正式な家族になる
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