異世界転移の準備
みなさん異世界転移の準備はできていますか?
私は全然できていません。
人生何があるか分かりません。こうしてスマホに文章を打ち込んでいて、ふと顔を上げると室内だったのが森の中、座っていた椅子は切り株になっていた、なんてこともあるかもしれません。
私が持ってるIT系の資格も免許も異世界に行ったら役に立つか分からない。そう思ってマヨネーズ作りを調べたことがありました。過去に読んだ小説でマヨネーズ無双できそうだと思ったから!
……日本のマヨネーズや素材になる卵は他の国と比べるとすごく高品質らしいですね。生食できるレベルの卵を生産することも、それを使って作るマヨネーズの味も他の国とは違うらしく、異世界でマヨネーズ無双するのは難しそうです。
作り方を工夫すれば何とかなりそうですが、異世界に行って試しに作ってテロ扱いされる可能性があるなら簡単には試せません。
娯楽のアイデアで一儲けすることも考えました。オセロは簡単に作れるから良さそうです。綺麗に石の形を整えるのは難しそうですが手頃なもので用意すれば何とかなるかもしれません。そのレベルの娯楽が存在しない世界ならですが。
手先が器用で木工技術が得意ならジェンガも作れるかもしれません。同じ大きさの木片を作って、滑りを良くするためのヤスリが作れれば。
ヤスリ作りに難航しそうです。
道具ではなく地力を考えてみます。
腕立て伏せを5回できるかどうかの腕力、ペットボトルは何とか開けられる程度の握力の私。転移直後に魔物とエンカウントしたら終わりでしょうね。足腰を鍛えて逃げられる脚力を付けなければいけません。前までバスに乗って通勤していた区間を行きも帰りも毎日四十分かけて歩いているので多少は強くなっていると思います。創作時間が削られたのは痛いですが。
そもそも体力がないのでずっと逃げ続けることはできません。なので武器を作ることを考えてみます。弓を選びたいところですが必要な素材が多いしそもそも当てられる気もしません。
そこで思いついたのが槍。リーチがあるから少し安心です。実際に槍を持ったことなんてありませんので扱い方も分かりません。押し入れからプレステと三國無双を引っ張り出して趙雲先生に教えてもらおうと思います。
槍を作るのに必要な素材は丈夫そうな棒と尖った石。尖ってない石でもメイスっぽいものにはなりそうです。そしてそれを縛って固定するためのもの。何かのツルっぽいものを使うとしましょう。
……縛り方が分かりません。
蝶々結びと固結びしかできませんし、これは覚えなきゃいけないです。覚えておけば現代でも何かの役に立つかもしれません。
火の起こし方が分かりません。
これでは異世界どころか縄文時代にタイムスリップしても現地の人に敵わないでしょう。現代を生きる私がその時代でマウントを取れるのは身長だけ。それを活かせるのは高いところの木の実を採ることぐらいですが、食べられる木の実が分からないし、きっと現地の人は木登りも上手のはず。私のアドバンテージはないも同然です。使えないやつと思われないように、少なくとも現地調達したもので火を起こす方法を覚えなければいけません。後でググります。
転移先を考えてみます。
言葉が通じないことを前提にすると、防壁のある大きな街は難しそうです。そういう場所は間違いなく警備兵がいますし、言葉が通じない胡散臭い人を中に入れてもらえるとは思えません。
なので、村にしてみます。
現地人とのコンタクトは急がないといけません。一〜二日食べなくても死なないでしょうけど、汚れたり臭う服装だとそれだけで相手に悪い印象を与えます。
そして私が思う、会うときに重要なポイントは相手に『無害』と思わせること。
攻撃力も攻撃する意思もないことをアピールしても『装備や触媒なしで魔法が使える世界』だったら安心してもらえないでしょう。
ということで、震える小動物をイメージしてなりきります。少し涙ぐめば効果が高まりそうです。
次に、喋ること。
言葉が通じる可能性は低いですが、通じないことを相手に認識してもらいます。
相手にとって、『喋れない』のと『喋らない』のは意味合いが大きく違うはずです。
仮にいま日本語が話せない外国人に話しかけられたとして、その人が強気な態度だったら私は多分逃げます。それはもう脱兎の如く。
でも困ってそうな雰囲気を感じたら気になりますし、話す方法を探すと思います。
いま思いつくのは、自分を指差してからスマホでグーグルマップを立ち上げて日本を指差す。その地図を縮小して相手に見せて、相手がどの国の人かを教えてもらってから翻訳アプリに頼る感じに。
……話が脱線しました。
困ってるオーラを出せば助けてもらえる確率が高まる気がします。そしてそれは、街などの人が大勢いるところよりもこじんまりとした村の方が効果的と思っています。
それが盗賊の村だったらどうしようもないですけど。
あ、旅芸人を装えば話が通じないことも納得してもらえて、場合によっては食べ物も恵んでもらえるかもしれません。
言葉が通じなくても楽しんでもらうにはダンスか演奏。ダンスは苦手なので演奏で考えてみます。欲を言えば笛が良いのですが、現地で作りやすい楽器となると打楽器でしょう。少しシミュレーションしてみます。
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老人が一人、村の畑で草むしりをしていた。
普段は三人でやっている作業だが他の二人が腰を痛めて動けなくなり、昨日から一人でやっている。
人手が欲しい。
小さい村だからどうしょうもない。それでもつい思ってしまう。
雑草を掴む老人の手が止まった。村の入り口に一人の女が立っているのが見えたからだ。
ずいぶん綺麗な格好をしている女だ。そんな服でこんな田舎に来たら汚れるだろうに。
そう思って見ていると、女の手が動いた。
両手に小さな木片を持ち、それを重ね合わせるようにして打ち鳴らしながら、笑顔でこっちに歩いてきた。
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ダメです不審者すぎます。複数人いるならともかく、こんな人が一人で歩いてきたら私が村人なら目をそらします。可愛さを盛るためにカスタネットにしてみたのにダメでした。鳴子の方が良さそうだけど踊れないしなぁ。
大人しく情に訴えるしかなさそう。転移の準備って難しいです。
……と、妄想を膨らませた訳ですが。
どうせ異世界転移なんてしない、仕事しよっと。
いま準備の候補にしているのはパン酵母作りです。




