scene:312 ゲートマウンテンへの道程
更新が途絶えてしまい、申し訳ありません。
忙しすぎて書けませんでした。
縞模様ハイエナを長巻で仕留めた雅也は、死骸から血が流れ出しているのを見た。
「この血の臭いに気付いて近付く野生動物が居るかもしれません。少し移動しましょう」
レーヴェン博士たちに提案すると、賛成してくれたのでゲートマウンテンを目指して森の中を歩き始めた。
「これくらい離れればいいんじゃないか?」
疲れた顔のフューゲル技師が言い出した。彼は縞模様ハイエナと遭遇してから、必要以上に周囲を警戒している。初めて野生生物に襲われたのだから仕方ないのだろう。
「分かりました。少し休みましょう」
長巻を全員に配ったが、失敗だったかもしれない。長巻はかなり重量があるので、清水などは重そうに持っているのに雅也は気付いたのだ。
「長巻は重すぎるみたいだな。武器はナイフに替えようか?」
雅也が言うと清水が頷いた。
「そうしてもらえますか。ついでに杖みたいなものはありませんか?」
雅也は収納空間を探し、ナイフが三本あるのを見付けた。それを清水とレーヴェン博士、フューゲル技師に配り、長巻を回収した。体力がありそうなカヴィルは、長巻で良いという。
杖は近くの若木を切って杖に加工した。長巻よりずっと軽いので使いやすいはずだ。
「聖谷常務、ゲートマウンテンまで何日掛かると思いますか?」
「たぶん三日で麓に到着し、登るのに一日というところか」
「そうなると野営する事になるんですね。野営の道具はあるのですか?」
「大丈夫だ。テントと寝袋がある」
それから七キロほど進んだところで日が傾いてきた。野営する場所を探さなければならない。森の中に大岩があり、その周りに木が生えていない場所があった。
「ここで野営しよう」
収納空間から、二つのテントを取り出した。このテントなら、三人の男が寝られるだけの大きさがある。テントは雅也とカヴィルが中心になって設営する。
「カヴィルさんは、慣れているんですね」
「年に二度ほど、キャンプに行くんですよ」
手際よくテントを張り、中に寝袋を人数分置く。これらの品はデニスのところで作られたものだった。テントは何かの魔物からドロップした皮で作られており、普通のテントより丈夫だった。
寝袋は綿入りで地球のものより重い。薪拾いに行って枯れた倒木を見付け、それを担いで戻った。これ一本あれば一晩は大丈夫そうだ。
持ち帰った倒木は、収納空間から出したノコギリと鉈で小さくして薪とした。テントの近くで焚き火をしてお湯を沸かす。
「聖谷常務、我々は地球に帰れるだろうか?」
焚き火を囲んで食事をしていると、レーヴェン博士が質問した。
「ワープゲートが見付かれば、戻れると思います」
「作動していたものが、オフになるという事も考えられる」
「そうですね。ですが、残っている者たちが、また作動させると思います」
「そうか。地球では、我々が生きている事を知っておるのだったな」
雅也が異世界のデニス経由で神原社長に知らせているので、我々の帰還をアシストするはずなのだ。
辺りが暗くなり、空に星が見えるようになった。ここから見る夜空は、星が多いように見える。天の川銀河の別の星なら、太陽より中心部に近いのではないだろうか。そう雅也は推理した。
「あっ、月が……」
フューゲル技師が突然声を上げた。その視線の先を見ると、真ん中に大きな窪みがある月が森の一角から空に昇ってきた。ちょっと青みがかった月であり、大きさは地球の月より大きいようだ。
「地球じゃないんだな」
アメリカ人であるカヴィルが、月を見上げてポツリと言った。この月で地球とは別の星に居るのだと実感したらしい。
「フェシル人というのは、異世界の惑星から全員が旅立ったのだろ。その理由は何だったのだ?」
レーヴェン博士が雅也に尋ねた。
「惑星の寒冷化が直接の原因です。フェシル人は我々より高い気温を好む人々だったようです」
「というと、地球人とは異なる人間という事なのかな?」
異世界の住人なのだから、地球人とは異なるのは当たり前だ。それなのに、デニスたちはほとんど地球人と変わらない。そこが不思議だ。
「そうですね。ホモ・サピエンスとネアンデルタール人くらいの違いはあったかもしれません」
「そうすると、ここはフェシル人にとって寒いのではないか?」
「だから、我々に贈ると言っているのかも」
「なるほど。我々にとって運が良かったという事か」
カヴィルが雅也に視線を向けた。
「ここは大陸の一部だろうか。それとも島なのだろうか?」
「分かりません。ただゲートマウンテンに登れば、分かるかもしれませんよ」
その日の夜は交代で見張り番をして休み、翌日もゲートマウンテンを目指して進んだ。森が途切れると、谷が見えてきた。両脇は崖が聳え立ち、谷の中央を川が流れている。その川岸を進み始める。
雅也は川の流れを見ながら進み、川の中にキラキラと光るものを見付けた。
「何だろう?」
川に近付いて光るものを掬い上げた。雅也の行動を見てレーヴェン博士たちが集まってくる。
「どうしたのかね?」
雅也は川から掬ったものをレーヴェン博士に見せた。
「これは砂金じゃないですか?」
「えっ」
驚いたフューゲル技師がバシャバシャと川に入り、砂金を掬い上げる。
「間違いない。砂金ですよ。もしかすると、大金持ちになれます」
フューゲル技師の興奮した声が谷間に響いた。




