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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
301/313

scene:300 ヌオラ共和国の旧迷宮主

 西の隣国ヌオラ共和国の迷宮から旧迷宮主が出て来て暴れている、という報せでデニスたちは急いでベネショフ領に戻った。


「父上、旧迷宮主はどうなっていますか?」

 デニスはベネショフ領に戻ると、エグモントに確認した。

「ヌオラ共和国軍が、旧迷宮主と戦っている。だが、そのヌオラ共和国軍の動きがおかしい」


「おかしいとは?」

「戦いながら、東へと下がっている」

 それを聞いたデニスは、嫌な顔をする。

「旧迷宮主を、我が国に押し付けるつもりですね」


「たぶん、そうだろう」

「こちらの警告を無視した上に、自国で暴れる旧迷宮主を、我が国に誘導するとは……」


 デニスはヌオラ共和国を潰してやりたいと思うほど腹が立った。その怒りが顔に出ていたのだろう。父親のエグモントが、デニスの肩をポンと叩いた。


「冷静になれ。お前がヌオラ共和国の指導者だったら、どうする?」

 デニスは自分が指導者だったら、どうしただろうと考えた。自国の戦力だけでは、旧迷宮主を倒す事はできない。ならば、外国の戦力を当てにするしかない。


「隣国に旧迷宮主を倒す戦力があるのなら、その戦力を借りようとするでしょう。但し、こんな押し付けるような真似はしません」


「お前なら領民のために頭を下げるだろう。だが、ヌオラ共和国の指導者たちは、そんな事をすれば自分の権威に傷が付くと考えているのだ」


 デニスは溜息を漏らした。

「それで旧迷宮主というのは、どんな化け物なのですか?」

「巨大な蜘蛛の化け物だ。頭から尻までの長さが人の七倍ほどもあるそうだ」


 たぶん十二メートルくらいなのだろう。

「国境で待機している兵の数は?」

「九十名ほどだ。本隊が王都モンタールへ行っているから、旧迷宮主と戦える者というと九十名だけになる」


 その九十名は、ライノサーヴァントに騎乗して『装甲』『怪力』『爆砕』『爆噴』『光子』などの真名を持つ兵たちだ。ベネショフ領の精鋭たちであり、隣国のために一人でも失いたくない。


 それを考えると、またヌオラ共和国に怒りを覚えるデニスだった。とは言え、このままでは旧迷宮主がベネショフ領に入るだろう。それは阻止しなければならない。


「旧迷宮主はチグレグ川を渡ってベネショフ領に向かってくるでしょう。川で旧迷宮主を仕留めます」


 エグモントがデニスに目を向ける。

「分かっていると思うが、ヌオラ共和国の兵を攻撃してはならんぞ」

「連中がやっていることを考えれば、許されると思うのですが」

「ダメだ。ヌオラ共和国の連中に、付け入る隙を与えたくない」


 普通に考えれば、文句を言えるような状況ではないのだが、ヌオラ共和国はちょっとしたことでも難癖を付けて非難する面倒な国なのだ。


 デニスはイザークとフォルカを連れてチグレグ川へ向かった。そこではベネショフ兵が川岸の林に隠れ、ヌオラ共和国の兵と旧迷宮主を見張っていた。


 その部隊の指揮を執っていたのは、最年長の従士であるザムエルだった。

「デニス様、連中は旧迷宮主を誘導することに成功したようです」


「そうか」

 デニスが木に登ってヌオラ共和国の方へ目を向けると、巨大な蜘蛛の姿が見えた。じっくりと観察してから木から下りる。


「倒せると思いますか?」

 ザムエルが尋ねた。

「遠くからでは判断できない。だが、あの化け物が川に入ったら、天撃波の一撃を加える。その後、【赤外線レーザー砲撃】で一斉攻撃してくれ」


「畏まりました」

 ザムエルが命令を伝えるために離れていった。デニスは旧迷宮主の動きを見ながら、ヌオラ共和国の者たちを観察する。


 この蜘蛛は火が嫌いなようで、ヌオラ共和国の兵が火を使って領土から追い出そうとしていた。その結果、ヌオラ共和国の森が火事になっているが、構わないようだ。


「誘導していると聞いていたが、違うのだな」

 デニスが言うと、ベネショフ領の兵の一人が答えてくれた。

「初めは戦いながら、こちらに誘導していたのです。ですが、川が近くなったので、追い出す方式に変えたのでしょう」


「火が弱点なら、火を使って仕留めればいいのに、なぜそうしない?」

「火炎球や爆裂球では、仕留められなかったようです」


 デニスは対岸の森が火に包まれているのを目にして、渋い顔になった。そうしているうちに、旧迷宮主が川に入った。デニスは天撃波の準備に入る。


 川の上空で大気が集まり始め、密度の高い空気の層ができる。次の瞬間、それが強烈に圧縮されて爆発が起こり、発生した衝撃波が凄まじい勢いで降下する。それは天撃波となって蜘蛛の化け物を直撃し、巨大な金槌が落ちたかのような威力となって旧迷宮主を押し潰す。


 蜘蛛の外殻がひしゃげて体液が噴き出し、川の水が吹き飛ばされて川底が姿を見せた。その後に猛烈な爆風が発生し、デニスたちへ吹き寄せた。ベネショフ領の兵は木の後ろに隠れていたので、怪我をする者は居なかったが、ヌオラ共和国の兵は吹き飛ばされて多少怪我をしたようだ。


「攻撃せよ!」

 ザムエルが命じると、近くに居た三十人ほどのベネショフ兵が一斉に【赤外線レーザー砲撃】を放った。光線が化け物蜘蛛に突き刺さり、その肉体を焼き始める。


 三十本のレーザー光線は旧迷宮主に膨大な熱エネルギーを与えた。すると、化け物蜘蛛の身体が燃え始めた。


 旧迷宮主が倒れた時、何人かの兵が真名を手に入れた。その中にはイザークとフォルカも居た。イザークは『崩撃』、フォルカは『突雷』という真名を得たという。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 複数人が真名を手に入れたのって何気に初の描写な気がする
[一言] 天撃破の余波で怪我したヌオラ共和国の兵士に関して謝罪と慰謝料を要求してきたら、近隣諸国にヌオラ共和国は旧迷宮主の脅威を警告したのに他国に押し付けて更に難癖までつけてくる国家だからとか喧伝すれ…
[一言] 「攻撃の余波で我が国の兵士が吹き飛ばされ被害を受けた!   謝罪と賠償を要求する!!」 とか言ってきそう
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