scene:296 ロウダルの援軍
『天撃』の真名術でラング神聖国の船団を攻撃したデニスは、『天撃』の威力に驚いていた。
「デニス様、追撃はどうしますか?」
ゲレオンの質問で、デニスは現実に引き戻される。
「そうだな。追撃しよう。合図を出してくれ」
デニスが乗っている空神馬車から合図が発せられると、他の空神馬車がラング神聖国の船団に向かって飛ぶ。
近付いた空神馬車から、ゼルマン王国の兵士たちが【赤外線レーザー砲撃】で攻撃を始めた。ラング神聖国の船が攻撃を受けて燃え上がる。
【赤外線レーザー砲撃】は射程の長い真名術である。射程ギリギリで使えば、反撃を受けることはほとんどないが、攻撃を逸る気持ちが強い兵士たちの中には、空神馬車を船に接近させて攻撃する者も出た。
そういう空神馬車は反撃を受けて、海に落下して沈んだ。だが、ほとんどの空神馬車は間合いを考えながら攻撃し、ラング神聖国の兵士を倒した。
ラング神聖国の兵員輸送船が浜に乗り上げると、兵士たちが次々に船から降りて近くの漁村に向かって走り出す。
デニスの『天撃』で二千七百ほどの敵兵を海に沈めた。空神馬車に乗った兵士たちが、残った敵兵にどれほどの打撃を与えたかというと、二隻の船を燃やして沈めたので六百人以上になるだろう。
十二台の空神馬車に乗っているのは七十人ほどなので、それだけの人数で六百人というのは大した戦果である。
地上の戦いを見下ろすと、村を防衛している部隊が上陸した敵兵たちに襲い掛かり、混戦状態になっている。これでは上空から援護するのも難しい。
「デニス様、着陸して戦いに参加しますか?」
ゲレオンがデニスに確認した。
「陛下から禁じられている。貴重な戦力である空神馬車を置いて、陸戦に参加することはできない」
だが、味方の部隊が劣勢なのが分かる。それを見てゲレオンは確認したのだろう。ただ上陸地点が判明したら、他の場所を防衛している部隊が駆け付けるはずだ。
敵船が浜に乗り上げた場所まで戻るように、デニスは命じた。そして、『天撃』の真名術を三回発動して敵船のほとんどをバラバラにする。
帰る方法をなくした敵を追い詰めることになるが、デニスたちが上空から降伏するように呼び掛けると敵兵の中にも迷う者が出て来る。
クライバー聖騎将は、味方の戦意が落ちているのに気付き、切り札を出すことにした。ボーンサーヴァントの兵士である。
五百体のボーンサーヴァント兵が生まれ、戦いに投入された。それによりラング神聖国の兵が立ち直り、ゼルマン王国の兵が村へ追い込まれる。
その村の村民はすでに避難していた。
「まずいですね。地上の防衛部隊が、敗走しています」
ゲレオンが声を上げた。
「援軍が来るまで、持ち堪えられなかったか。仕方ない我々も陛下に報告するために王都へ戻ろう」
空神馬車隊は、王都へ向かった。デニスは白鳥城の訓練場に着陸させると登城した。会議室へ行って、今までの戦いの様子を国王へ報告する。
「なるほど、十一隻の船を沈め、三千人以上の敵兵を倒したのだな。ご苦労だった」
デニスが敵船のほとんどをバラバラにしたと報告すると、会議室に集まっていた軍人たちがざわついた。
そのような真名術が軍にも欲しいと考えたのだろう。
「ゲープハルト将軍、援軍はどのくらいで到着する?」
「間もなく到着すると思われますが、村を敵に奪われ陣地化されていると思われます」
国王がデニスに視線を向ける。
「デニス、敵に奪われた村を攻撃することはできるか?」
そう質問されたデニスは、厳しい顔になる。
「味方兵の多くが捕虜になっています。私が攻撃すれば、捕虜になった味方を殺すことになるでしょう」
「それはいかん!」
国王が大きな声を上げた。
「そうなると、援軍が重要になります。最も近い援軍はロウダルの街を守っていた部隊でございます」
「あそこには、ベネショフ骨騎兵団が参加しているのではなかったか?」
国王の問いに、デニスは肯定した。
「そうです。ベネショフ骨騎兵団も、ラング神聖国に奪われた村まで近づいていると思われます」
報告を終えたデニスは、状況を確認するためにベネショフ骨騎兵団がいると思われる場所へ向かう。
空神馬車に乗り込んだデニスはゲレオンに確認する。
「鉛蓄電池の充電は終わっているか?」
ゲレオンが頷いた。
「デニス様が白鳥城へいらしている間に、充電いたしました」
「よし、もう一度あの村へ行くぞ」
ゲレオンとイザーク、フォルカも乗り込んで、空神馬車を飛ばす。デニスたちは一時間ほどで村に戻った。上空から村を観察すると、ラング神聖国の兵が村への出入り口となる二つの道に、土嚢を積み上げ防備を堅めている。
「あそこなら『天撃』を撃てそうだな」
「お待ちください。土嚢を積み上げているのは、ゼルマン王国の兵ではありませんか?」
ゲレオンが下を確認して注意する。
「ん? 本当だ。あれは味方の兵たちか。そうなると『天撃』は使えんな。ベネショフ骨騎兵団のところへ行こう」
デニスたちが西へ移動すると、援軍が移動している光景が目に入る。その中にベネショフ骨騎兵団を見つけると傍に着陸した。
「デニス様、ご無事で何よりです」
カルロスがデニスを見つけて声を上げた。カルロスはライノサーヴァントに乗る兵を率いていた。
「そちらの戦果はどうでした?」
カルロスが空神馬車隊の戦果を尋ねた。
「十一隻の敵船を沈め、三千人以上の敵兵を海に落としたが、残りの船は浜に乗り上げてしまった」
「中々の戦果ではございます」
「村を防衛していた兵士たちも頑張ったので、残りは一万一千人ほどだと思う」
カルロスは頷いた。
「ここからが本番でございますね」
デニスは前方にいる敵兵を倒せば、平和が訪れるのか疑問に思った。そして、戦いを終わらせる手段を考え始める。




