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第七十二話「運動会」


 さて……、私事では色々順調に進み始めた二学期だけど学園関連もまた面倒事が目白押しだ。二学期といえば秋、秋といえば運動会だ。体育祭、運動会、何でもいいけど十月に藤花学園初等科運動会が開かれることになっている。


 初等科では文化祭等はない。前世でも俺は文化祭なんて高校以上にならないとなかった。小中でもあるところはあるのかもしれない。あるいは世代の問題かもしれないけど、少なくとも前世の俺は高校以上にならなければなかった。


 藤花学園も初等科には文化祭がない。まぁそもそも文化祭をしようと思ったって、小学校低学年とかに何が出来るのかという話だよな。音楽祭で歌を歌ったり、劇をしたりはしたけど文化祭の運営というのは無理だろう。


 藤花学園は私立だしそういうこともやろうと思えば出来るだろう。かけられる予算も時間も公立に比べたらずっと融通が利くと思う。でもそれじゃ生徒がやってるんじゃなくて、そういう出店のイベントを業者に頼んで開いているだけになる。


 というわけで少なくとも初等科には文化祭なるイベントは存在しない。中等科はどうだろうな。高等科にはあることはゲームの『恋花』で確認済みだ。


 それはともかく目下大変なのは運動会だろう。俺達はまだ一年生だからそれほど大変じゃないと言えばそうなんだけど……。それでも何かと浮き足立った季節になってきたものだと思う。


 まず今日は誰がどの競技に出るか決めるらしい。運動会は十月初旬というか中旬というか、それくらいだけど、逆にいえばあと一ヶ月くらいしかないとも言える。一年生はそれほど準備とかにも駆り出されないけど、これから体育の授業とかでは運動会に向けた練習とかがされることになる。


 運動会の競技だけどそれほど変わったものはないようだ。あまり派手な競技をすれば怪我等にもつながるから、上流階級の学校である藤花学園がそんな危険な競技をするはずもない。


 俺は前世でも騎馬戦とか棒倒しのような危険な競技は現実には見たことがない。漫画やアニメやゲームのような架空のものならそういう競技がよく出て来たけど……、本当にそんな競技を実施している学校ってあるんだろうか?


 高学年の男子の見せ場と言えば精々組体操じゃないかと思う。組体操は俺も前世で経験がある。よくピラミッドが崩れて死傷者が出て組体操にも批判が集まったりしているけど……、危ないからと何もさせなかったら何も出来ない大人になると思う。


 最近では公園の遊具で遊んでいたら怪我をした、責任を取れ、金を払え、という者が増えたために遊具が撤去されて何もない公園などが増えている。


 俺が子供の頃なら遊んでいて怪我をしても本人が不注意で馬鹿だなと言われただけだったけど、今ではそれを誰かのせいにして金を払えとせびるようなことが当たり前のようになってしまった。だから誰にもそう言われないように何もかも撤去、何もさせない、全て禁止、となっている。


 子供が遊具で怪我をしてくれたお陰で行政の責任ということにしてお金を取れてラッキー、なんていう人のために随分生きにくい世の中になったものだ。


 藤花学園ではまだ組体操をしているようだけどそれはあくまで高学年だけで低学年は組体操はない。短距離走とか、リレーとか、玉入れとか、そんな競技が中心のようだ。


「それでは出場競技を決めていきます。まずは……」


 担任の先生が順番に希望者を募っていく。俺は何にしようかな……。体育の授業で見ている限りでは俺ならどれに出ても大抵勝てるだろう。さすがに中身が結構な歳を重ねた男だからか俺はかなり体育の成績も良い。勉強が出来るのは当たり前だと思う。いくら何でも小学校一年生の授業についていけなかったら問題がありすぎる。


 一年生くらいだったら身体能力の差はそれほどないと思う。男女間も個人間もな。重要なのは本人の気持ちだろう。一年生の体力の差なんて知れてるわけで長距離走なんかはどこまで我慢して走れるかでしかない。短距離走はさすがにちょっとは才能の差もあるんだろうけど……。


 俺はさすがに一年生達には負けないので何に出てもいいんだけど……。


「咲耶様は短距離走とリレーが良いと思います!」


「え゛っ……」


 俺が何にしようかと思っていると突然薊ちゃんが手を上げてそんなことを言い出した。短距離走とリレーは内容が被っているようだけど別競技だ。短距離走は一回一回レースが終わる。例えば一年生の部だったら一年生同士が走って一度勝敗がつく。次のレースで二年生が走り、三年生が走り、という具合だ。


 それに比べてリレーは各チームの代表がリレー形式で走る。藤花学園では一組、二組、三組で分かれるから俺達は三組チームだ。三組の各学年代表がリレーのチームになる。


 ちなみにこれは男女混合リレーという競技で男子も女子もごちゃ混ぜらしい。代表は各学年の男子一人、女子一人だけど走る順に決まりはなく、誰を何番目に走らせるかの戦略も鍵になる……、っていうけど本当かな?大して差がないような気もするけど……。


 参加競技は一人一種目か二種目程度、最低でも一種目は出なければならない。


 短距離走は悪くない。あまり長々する競技は面倒だからさっと終わるものが良いとは思っていた。でもリレーまで出ると面倒だな……。確かに短距離走とリレーは内容的にはほぼ同じだから足の速い子が出るなら両方に選ばれるのもわからなくはないけど……。俺は二種目も出たくないんだけど……。


「いいですね!是非咲耶ちゃんには短距離走とリレーに出てもらいましょうよ!」


 え~……。どちらかに出るのは良いとしてもせめて一種目になりませんかね?玉入れとか、大玉ころがしとか、ムカデ競争とかはあまり興味がない。個人競技ですぐ終わるもの一つにして欲しい。


「それでは九条さんは短距離走と男女混合リレーということで」


 おい!先生よ!何が『ということで』なんだ?俺は何も言ってないんだが?でもクラス中がもうそういうことでという雰囲気になっている。もういいか……。俺の歳で今更一年生の子達に混じっての団体競技は少々きつい。個人競技だというのならまだ良いだろう。


 そういうわけで俺はまだ何も言ってなかったのに自動的に出場競技が決まってしまった。二種目も出るからもう他にはわざわざ出る必要はない。どうしても出たいと言えば三種目めも出られるのかもしれないけど、俺はそんなに運動会に燃えているわけじゃないからいらない。


 自分は早々に決まってしまったからあとは皆の様子をぼんやり眺めて待つとしよう。初々しい一年生の子達があれに出たい、あれがしたいとワイワイ話し合っているのは微笑ましい。


「おい、九条咲耶!お前本当に大丈夫なんだろうな?」


「…………何のことでしょうか?錦織にしごりやなぎ君?」


 皆だいたい自分の種目が決まって、一度同じ種目のメンバーで分かれて集まることになった。短距離走は各学年男女それぞれ三人、そして男女混合リレーは男女一人ずつとなっている。


 俺は今短距離走の子達と一緒に集まっているけど、その中の一人、錦織柳という生意気なガキが偉そうに声をかけてきた。誰かさんを思い出してちょっとカチンと来る。


「男女混合リレーだよ!短距離走はお前がどんなに鈍臭くてもそのレースが負けて終わりだけど、リレーだったらお前が足を引っ張ったらそれでチームが負けちゃうんだぞ!」


 うわ~……。俺って結構子供に寛容なつもりだけどこれはないわぁ……。そうか……。俺が子供に寛容なんじゃなくて、藤花学園に通ってるような子供は大半が真面目で大人しいから、そうイライラしないで済むだけだったんだな。そしてたまにこういう奴がいるとイラッとするというわけだ。


 錦織柳は俺と同じで短距離走のメンバーと男女混合リレーの代表になっている。こいつの言いたいことはわかった。俺がリレーの足を引っ張るんじゃないかと言いに来たわけだ。この偉そうな態度は本当に誰かさんを思い出す。


 理由も簡単だ。こいつはその誰かさん、近衛門流だからだろう。伊吹から悪い影響ばかり受けていると思われる。折角まだ可愛い一年生で、皆真面目で大人しい藤花学園の生徒だというのに、伊吹の影響を受けている子はこういう生意気で口の悪い者が多い。槐は例外的に大人しいし口も悪くないけど……。


「おい!何とか言ったらどうなんだよ!」


 カッチーン……。一年生のガキが……。


「はぁ……。錦織君……、貴方こそ近衛門流として一組の代表に道を譲ったりなさるのではありませんか?」


「なっ!おっ、俺がわざと負けるって言いたいのかよ!」


 俺の簡単な挑発にすぐ乗ってきた。実に扱いやすい。案外伊吹やこの柳みたいなタイプは転がしやすくて楽な相手なのかもしれないな。まぁ生意気な口をきいてくるからそれはイライラするけど、思い通りに動かそうと思ったら簡単に挑発して動かせる。それに関しては楽だ。


「いいえ……、ただ……、いつも近衛様のお尻にくっついているので、万が一リレーの時に一組代表が近衛様だったならば、いつものようにお尻についていかれるのではないかと思っただけですよ?」


「いっ、伊吹君が相手だったとしても俺はわざと負けたりしない!」


 うんうん。本当に伊吹のグループは単純でやりやすい。生意気な口はイラッとするけど、それさえ目を瞑れば相手をするのは簡単だ。


「口では何とでも言えますものね?それはレースで証明してくださいな」


「わかってる!お前こそ俺の足を引っ張るなよ!」


 そう言うとドカドカと柳は歩き去った。お~い。リレーの方はそれでいいとしても、今は短距離走の代表で集まってるんだけど?勝手にどっか行かないでくれないかな?




  ~~~~~~~




 さて、運動会の種目も決まって皆も何だかワイワイと浮き足立っている。幼稚園や保育所で運動会をしてきただろうから初体験という子はほぼいないだろうし、皆運動会が楽しみなんだろう。こういう所はまだまだ一年生だなと思う。見ていて微笑ましい。


 先生が皆を鎮めて授業を始めようとするけど中々この雰囲気は収まらない。まだ一ヶ月以上も先だっていうのに皆もう浮かれている。


 そんな一日もあっという間に進み放課後にサロンへとやってきた。休み時間やお昼休みは皆運動会の話ばかりだったけど、五北会のサロンでもそうなのかな?さすがに五北会のメンバーだったら運動会ごときでそんなに浮かれたりしないかな?


「御機嫌よう」


「おう!咲耶!お前は何の種目にしたんだ?」


「近衛様……、御機嫌よう……」


 サロンに入るとさっそく伊吹がやってきてそんなことを聞いてきた。もう完全に浮かれまくってるな……。本当に伊吹グループは子供ばっかりというか何というか……。


「ちょっと伊吹……。まずはあれを渡すんじゃないのかい?」


 そこへ槐がやってきて何やら伊吹に促していた。一瞬『忘れてた』って顔をした伊吹はすぐに俺の方に向き直って何かを差し出してくる。


「わかってるよ!……咲耶、これ!」


「はぁ……」


 差し出されたのは招待状だ。この前言っていたパーティーの招待状だろう。何か受け取ってもずっとソワソワしたまま俺の前で待っているから、今すぐ開けて返事をして欲しいということかな。


 そんなことをしなくても日時は俺と伊吹で決めたんだから俺は絶対参加可能な日だってわかってるだろうに……。ともかくいつまでも俺の前でソワソワされてたら鬱陶しいから封を切る。


「わかりました……。それでは慎んで参加させていただきます」


「よし!絶対だぞ!絶対来いよ!」


 はいはい……。わかったって……。そもそも俺が絶対参加出来る日を選んだんだから行くに決まってるだろ。その後ようやく他の参加者である茅さんや薊ちゃんや皐月ちゃんに招待状が配られていった。ここにいない薊ちゃんグループのメンバーには郵送されているらしい。


 それにしても一番近い日になってしまったな。候補日の中で一番日の近い日が一番多くの人が参加出来る日だった。だからこうなるかなとは思っていたけどさすがにパーティーまであまり日がない。


 まぁいいか。十月になると運動会もあるし九月中にパーティーが終わってくれる方が、面倒事が一つ減ってありがたい。


「ところで咲耶は運動会、何に出るんだ?」


 まだそれを聞くか……。しつこいな……。別に隠す必要もないからいいけど……。


「短距離走と男女混合リレーです」


「そうか!俺と一緒だな!楽しみだな!」


 いや……、別に楽しみではないぞ?そもそも短距離走は男女別々に走るから俺の相手は女の子ばっかりだし……。男女混合リレーは男女どちらという順番はないから一緒に走る可能性はあるけど、リレーで一緒に走ったからって別に何もないだろ……。


 それにしても……、もともと二学期というと学校行事が多いイメージだけど、それに加えて伊吹のパーティーやら皆でお出かけやら、俺の二学期は色々と忙しい季節になりそうだ。



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― 新着の感想 ―
行くに決まってるだろ。 2択で切り捨てようとした方が何か仰ってますね……。 咲耶は基本年上が年下を見るような視線だけど煽られるとすぐ同じ土俵に立っちゃうから割と本人も今世年相応というか、大人からしたら…
[一言] 地元だと小学校でも騎馬戦はやりましたけど組体操は数回練習しただけで危険だからって中止になったんですよねぇやってみたかったんですが 騎馬戦は人気競技で小中高全部あったけど珍しかったのかな
[一言] 精神が成人してても現在の身体能力にはあまり関係ないだろう(゜ω゜)
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