第六十八話「日取り」
家に帰ると兄が母に事情を説明していた。まだ正式に決定したわけでもないし日時も確定じゃない。それでも事前にある程度母に相談しておくことで、決定時にもすぐに了承を得られるようにということだろう。
パーティーだからとサプライズで突然言うんじゃなくて、こうして事前に段取りしたり予定を伝えておくのは当然のことだ。最近はサプライズだの何だのと相手を驚かせようとして黙っていたり、ギリギリに教えたりするのが流行っているけどそれで失敗しているのもよく見られる。
成功すれば確かに面白いのかもしれないけど、相手の都合とか気持ちを考えていないそういった演出はあまり俺は好きじゃない。何より失敗の確率が高いだろう。今のケースで言えば事前に母に伝えておくことが大事だ。
俺としては母がパーティーへの出席を反対してくれる方が良いけど、それでも事前に相談しておくのは当然だと思う。相手を驚かせることばかり考えていないで、きちんと相手の気持ちや立場や都合を考えるべきだろう。
それはともかく母はまだ良いとも悪いとも答えず、とりあえず招待状が来てからまた考えるという結論に落ち着いた。兄が説明している間俺は終始黙っていたけど母はチラチラこちらを見ていた。一体どういう意味だったんだろう……。
まぁそんなわけで昨晩は家で母への説明は兄が行なった。今日は俺が誘いたい人を誘うことになっている。昼食にいつものメンバーが集まっている所で早速話を振ってみた。
「今度近衛様のパーティーがあるのですが、皆さん出席されますか?」
「え?」
「それってどういう……?」
薊ちゃんと皐月ちゃんは昨日その場にいたから元々内容を把握しているけど、薊ちゃんグループの四人は意味がわからず困惑していた。
それはそうだろうな。普通ならパーティーの誘いだとすれば主催側から招待状が送られて、それに対して返答するのが普通だ。日時も場所も参加者も主催側が決める。招待された方はその日に行くか行かないか決めるだけだ。
それに比べて今の俺の話し方じゃ四人には意味が通じにくかっただろう。皆に招待状が届いていたのならその日に行くのか行かないのかと聞いているとわかるだろうけど、皆はパーティーがあること自体今聞いたばかりだしな。
「え~……、近衛様が小規模なパーティーを開かれるのですが、その参加者は私が誘って良いと言われたのです。日時はまだ確定ではないのですが候補となっている日は……」
出来るだけ皆にも参加してもらいたいからいくつか候補の日が選ばれている。最終的にその中からいつになるかはまだわからないけど、一応その日で出来るだけ皆の都合の良い日にしようと思っている。
もちろん一番優先なのは伊吹と俺の都合だ。だから候補の日というのは伊吹も俺も空いている日ということになる。その中で俺が招待したい子達が出来るだけ都合の良い日を決めようと昨日伊吹と話し合った。
「近衛様のパーティーなのに咲耶ちゃんが招待客を決めるだなんて……」
「それってまるで……」
椿ちゃんや蓮華ちゃんが何か話している。確かに変わった形かもしれないけど、俺が友達を呼んでいいって言われたんだから良いじゃないか。出来るだけたくさん知り合いを呼びたい。
「それって咲耶ちゃんと近衛様の婚約発表とか婚約パーティーなのかな?」
「…………は?」
譲葉ちゃんの言葉に固まる。何を言ってるんだ?何で俺と伊吹の婚約パーティーなんだよ。それこそ普通近衛家の婚約発表とかだったらもっと大々的にやるだろう。俺が友達を呼んで小さなパーティーでやるようなことじゃない。
「正式決定のお披露目となれば確かに大々的に婚約発表や婚約パーティーが催されると思いますが、最初の段階では親類縁者だけ集めて両家で執り行われるはずです。そしてその後に親しい知人友人に知らされるものでしょう」
あ~……、皐月ちゃんの捕捉を聞いて何となく言いたいことはわかった。つまり一番最初は両家だけで話し合いが進められる。それが決まれば両家の親類縁者には知らされるだろう。そこで両家揃っての席も設けられるはずだ。
そしてその次は両者の友人に知らされる。今俺が自分の友達だけを伊吹のパーティーに呼ぶというのは、俺と伊吹が婚約すると友人達に知らせるための席で、俺と伊吹がそれぞれ友達を招待している、という風に受け止められたということだな。
そりゃ、普通他所の家が主催するパーティーなのに、その招待客を俺が勝手に選んで招待していいっていうんだからおかしいといえばおかしい。でもだからってそれが俺と伊吹の婚約を知らせる場だなんて勘違いも甚だしいだろう。話が飛躍しすぎだ。
「別にそのようなことは何もないのですよ。ただ私が友人を招いても良いと言われたので皆さんに声をかけただけなのです」
変な勘違いをされたままはよくない。下手をすれば俺が伊吹の婚約者だと吹聴して回っているなんていう話にもなりかねないだろう。そうなるとゲームの『恋花』と同じ展開になる可能性がある。俺は伊吹となんて結婚したいとも思っていないのに、勝手に俺が伊吹の婚約者を名乗って追っかけまわしているなんて話になったら大変だ。
その後暫く皆に説明したけどちゃんと伝わったんだろうか……。特に心配なのが譲葉ちゃんだ。俺が説明すればするほど何やらニヤニヤしていたからな……。本当に変な勘違いとかしてないといいんだけど……。
ともかく近衛家が開くパーティーだけど、俺が招く相手を選んで良いと言われたからだと説明して皆に都合を聞いてみる。
「えっと……、私はこの日しか無理です」
「私はこの日だけですね~。他は無理です」
早速行き詰った。蓮華ちゃんと譲葉ちゃんは四つあった候補の日のうちの、それぞれ別の日、一日しか都合がつかないらしい。しかも他の皆は蓮華ちゃんと譲葉ちゃんがオッケーの日が無理だ。つまりこの時点で蓮華ちゃんや譲葉ちゃんの都合に合わせると他の人が呼べないことになる。
残る二つの候補日のうち片方は皐月ちゃんが無理だという。一番多くの人の都合が合う日は何とか四人、その次が三人、残る二つはそれぞれ蓮華ちゃん、譲葉ちゃんしか都合がつかない。
俺が自分で相談したんだけどこれって結構決断するのって勇気がいるな……。俺は皆の都合を知った上で蓮華ちゃんや譲葉ちゃんがオッケーの日を避けるということだ。それはつまり蓮華ちゃんや譲葉ちゃんは来るなと俺が決めるも同然なわけで……。
そうか……。だからパーティーは主催者が一方的に日時を決めるんだな……。もし参加予定の人全員の都合を聞いていたら、誰かが来れないとわかっている日を選ばなければならないかもしれない。それはその人に来るなと言っているのと同じと受け取られる可能性もある。
だから参加者達の都合を聞かずに主催者が日時を決めるんだ。それで来れないというのなら残念だね、という話で済む。来れない日時だとわかっていながらその日を選ぶと角が立つ。そういう意味もあるのかもしれない。
「あ!咲耶ちゃん、私達のことは気にしなくていいよ。都合がつかないんだもん。仕方ないよ。他の皆が良い日にすればいいよ」
「そうですよ。私達のことは気にしないでください」
「譲葉ちゃん、蓮華ちゃん、ごめんなさいね」
まさか譲葉ちゃんに気を使われるとは……。本来ならこちらが気を使わなければならない所だっただろうに、相手に気まで使わせるなんて……。
「それでは第一候補がこの日で、第二候補がこの日ということで……」
「はい」
「わかりました」
第一候補は四人が来れる日。第二候補は皐月ちゃんが無理になって三人が来れる日ということになった。そんな相談をしているうちにお昼休みも良い時間になっていたので教室へと戻ったのだった。
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放課後はサロンで茅さんに都合を聞いてみる。一応四つの候補全部聞いてみたんだけど……。
「咲耶ちゃんからのお誘いだったらいつだろうと行くわ」
「そっ、そうですか……」
一言で決まった……。この人大丈夫か?どんな予定があっても必ず空けるとまで言い出したぞ……。
「昨日茅さんも居られたので御存知とは思いますが私が誘ったとはいっても、主催者は近衛様ですのでそれはお忘れなきよう……」
茅さんの迂闊な言葉で俺が主催者の如く振舞っているなんて思われたら大事だ。近衛家のパーティーなのに俺が主催者面してるとかいう話になったらまたややこしいだろう。普通なら勘違いが広まっても訂正すれば済むと思う所だ。でも咲耶お嬢様に限っていえば近衛家とのいざこざは起こしてはいけない。
ゲームの咲耶お嬢様だってまるで誰かに嵌められたみたいにおかしなことになっていた。確かに咲耶お嬢様は伊吹の許婚候補として選ばれていたし、咲耶お嬢様自身が伊吹の追っかけのようなことをしていた。
許婚候補だったのは本当のことだし、咲耶お嬢様がそう振る舞っても何もおかしなことも、非難されることもないはずだ。それなのに何故かゲーム中では咲耶お嬢様に非難が集中していた。
特別偉そうにしていたとか、何かおかしなことをしたわけじゃない。そもそも咲耶お嬢様はちょっと残念な子だから難しい謀略とか、裏のある行動なんて出来ない。正面からぶつかっていってコテンパンにやられるタイプだ。
それなのに何故か咲耶お嬢様が裏で悪事を働いているというような話になっていた。あれはどう考えてもおかしい。本当に咲耶お嬢様のことを知っていたらそんなことは思わないはずだ。あれじゃまるで誰かに嵌められたような……。
まぁいい。それは今は関係ないだろう。それよりこの世界では俺はとにかく伊吹や近衛家関連で余計な勘違いをされたり、誤解が広まったりしないように細心の注意を払う必要がある。
どんな些細なことでも勘違いが広まったり定着してしまったらゲームの咲耶お嬢様の二の舞になりかねない。この世界は咲耶お嬢様に異常に厳しい。少しでも危険やリスクがあるのなら徹底的に対処しなければ……。
「咲耶!どうだ?決まったか?」
「近衛様……、ええ。第一候補がこの日で、第二候補がこちらです」
伊吹に呼び捨てにされるたびにイラッとする。そういえばゲーム『恋花』の時も伊吹は咲耶お嬢様を呼び捨てにしていたな。
最初から結婚するつもりなんてなくて、ただ他に許婚をつけられたり、婚約話をされるのが嫌だからと咲耶お嬢様を許婚候補にして、いつも呼び捨てにしながら後ろに付き従わせていた……。それなのにいらなくなったら咲耶お嬢様を嵌めて破滅させる……。
ああ、だからか?だから伊吹が咲耶と呼び捨てにするとイラッとするのかな?
「わかった。それじゃ出来るだけこの日になるようにする」
「はい……」
話はまとまった。もう後は近衛家がパーティーの日をいつにして誰を招待するかの問題だ。俺はそれぞれの日に呼びたい人をメモに書いて渡した。第一候補の日は茅さんを入れて五人、第二候補は四人、第三第四はそれぞれ二人。招待客の名前も書いてあるから日が決まればその日に都合がつく相手に近衛家が勝手に招待状を出すだろう。
「ごめんね九条さん」
「鷹司様」
伊吹が俺から受け取ったメモを仕舞っていると槐がやってきた。そう言えば槐もこのパーティーに参加すると言ってたな。伊吹の方は誰を呼ぶんだろう。
「伊吹は一度言い出したら聞かないんだ。九条さんの迷惑になるからって言ったんだけどね。結局迷惑をかけちゃってごめん」
「いえ、鷹司様が謝られることではありません。ところで……、近衛様はどのような方を呼ばれる予定なのでしょうか?」
槐に謝られてもな……。俺の方が悪い気がしてくるからやめて欲しい。俺は別に槐を責める気なんてまったくない。伊吹が言い出したこともわかってるし、伊吹が他人の言うことなんて聞かないのもわかってる。それを自分が悪いみたいに槐に言われてもこちらが困るだけだ。
まぁ槐はそれが狙いかもしれないけどな……。関係ない槐が謝ることで俺の矛を収めさせようという計算なのかもしれない。それならそれで別にいいけど……。
そんなことより伊吹がどんな相手を呼ぶつもりなのか気になる。何しろそのパーティーに俺も出る可能性が高い。変な奴が来るパーティーとかだったら仮病を使ってでも行きたくないからな。
「伊吹が呼ぶのは僕と水木さんだけだよ。良実さんも呼ぼうと思ってたみたいだけど最初に断られちゃったからね」
「あぁ……、そうですね……」
伊吹……、こいつ他に呼べる友達がいないのか?いないよな……。ゲームの『恋花』の時はわからないけど、少なくともこの世界じゃ伊吹は割りとボッチというか友達が少ない。他に呼べそうな親しい相手がいなかったんだな……。ちょっとだけ不憫だ。まぁ自業自得だけど。
「おい槐!咲耶と何の話をしてるんだ?」
「何でもないよ。パーティー楽しみだねって話してただけ」
そういって槐はすっとぼけながら伊吹と並んで俺から離れて行った。どうやら日も決まりそうだし、あとはうちの母がどういうかが問題かな。




