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第五十一話「見事断る」


 夕食の席で……、兄は両親に今日のサロンでのことを話し始めた。


「もうすぐうちにも招待状が届くと思うけど、今日サロンで伊吹君にパーティーの招待状を渡されたよ」


「ほう。そうか」


 父は特に驚いた様子もなくそう答えた。もしかしたらこのパーティーとやらも毎年恒例とかで元々知っていたのかもしれない。まぁ知らなくても各家も節目やイベント時期に色々とパーティーをしたりしているから、今更驚くようなことじゃないということだろう。


「お断りしなさい」


「「え?」」


 まだ詳しいことは何も話していないのに母がピシャリと言い切った。父と兄は少し声を漏らして母を見ていたけど母はまったく動揺することなく平然としている。俺としてはもしかしてそうなるかなと思っていたからあまり驚きはない。むしろ母の性格と立場ならそう言うんじゃないかと思っていた。


「近衛様のパーティーに咲耶を行かせることは認めません。お断りしなさい」


 やっぱりね。前回のこともあるから母はもう俺が近衛家のパーティーに行くことを賛成しないだろうと思っていた。


 もちろん前回の騒動と近衛家は直接的には関係ない。むしろ近衛家を恨むのはお門違いだ。でも俺が近衛家のパーティーに参加したがためにあんなことになってしまった。ならば母の性格からしてもう俺を他所のパーティーに参加させるのは嫌がるだろうと思った通りだ。


「まぁそう決めるのはまだ早いだろう?話を聞いてからでも良いじゃないか。良実、詳しく話してみなさい」


 父は諦めが悪いな……。母がああ言い出したらちょっとやそっとじゃ引き下がらないぞ。むしろまた夫婦喧嘩になる可能性が高い。そして今回は俺は母の味方だ。俺と母の思惑は一致している。理由は違っても望む結果は同じなんだから共闘出来るというものだ。


「招待状を見てもらった方が早いと思うから、これ……」


 そう言って兄は俺と兄が受け取った招待状を父と母に見せた。内容は両方とも同じだからどちらを見ても問題はない。ただ招待状の作りが違うだけだ。


「ふむ……」


 招待状に目を通した父はちょっと困ったような顔をして目を瞑った。どうやら理解出来たようだな。そして母もパタリと招待状を閉じて口を開いた。


「この日は旅行の真っ最中です。やはり残念ながら参加出来ませんね」


「うむ……」


 父はまだ困った顔のまま曖昧にそう言うだけだった。父の考えていることはわかっている。別に今からなら旅行の予定だって変更出来る。キャンセル料を払うことや予定の組み換えの手間さえ惜しまなければ、九条家なら別にその程度のことはどうってことはない。


 父の立場なら本当は旅行を変更してでも近衛家のパーティーに参加したい所だろう。父は何も俺を伊吹と近づけたいと思っているだけじゃない。こういう場に参加して他の家との付き合いをしておくのは父の仕事でもある。招待されたパーティーには顔を出すだけでも行って挨拶くらいはしておきたいのが本音だろう。


 でもこの場ではそれを言うのは難しい。毎年の夏休みの家族旅行は数少ない九条家のイベントの一つだ。いや、言い方がおかしいけど……。九条家だって色々イベントや催しはあるんだけど、家族揃っての旅行は限られた時しか出来ない。


 父の仕事の都合もあるから夏休みや年末年始くらいしか家族旅行に行けないからだ。その上、予定していてもいざその時になったら父の仕事が入って家族が揃わないなんてこともよくある。他の家族まで全員キャンセルするわけじゃないけど、父が不参加になって全員が揃わなかった旅行も数多く……。


 当然そうなると父と母は喧嘩する。実はこの二人の夫婦仲は結構良いからな。母は父と一緒に旅行に行くのを密かに楽しみにしているのを俺は知っている。それなのに父が仕事で行けないなんて言ったら母が怒るのも当然だろう。


 そんなわけでうちの家族旅行は結構重要なイベントだ。その重要なイベントを、しかも母があれこれと予定を立てて事前に準備していたものを、今更変更して近衛家のパーティーに行こうだなんて言えるはずもない。


 母が近衛家のパーティーの方を重視していれば変更も受け入れただろうけど、この世界の咲耶の母は咲耶と伊吹の結婚にあまり前向きじゃない。というか俺のせいでそうなった。しかも前回のパーティーであんなことがあったためにますます近衛家のパーティーに否定的になっている。


 そういった様々な条件が絡み合った結果、今回は無事近衛家のパーティーはお断りすることになった。ただ最後に父は抵抗として余計なことを言い出した。


「わかったわかった。それでは今年は予定通り旅行に行くことにしよう。しかし……、来年からは旅行の日程を考えよう。それくらいは良いだろう?」


 この親父め……。来年以降は誘われたらパーティーに出られるように旅行の日程を変えて、今回誘われた日辺りを空けておこうと考えているんだろう。


 今回招待されたことで近衛家の夏のパーティーの日程が大体どの辺りの日になるかわかった。来年からは家族旅行の日程でその辺りを空けておけば、旅行に行って母のご機嫌も取れるし、近衛家のパーティーにも出られる。父はそう考えているんだろう。


「はぁ……。わかりました……。来年の旅行の日程はまた考えましょう」


「おお!そうか!では残念だが今年はお断りしなければな」


 一見母が折れたように聞こえて父は若干喜んでいた。でも甘いな。今母は何も妥協していない。また後で考えてやると言っただけだ。来年からはその辺りの日を空けておくとは言っていない。


 少なくとも母は俺がよそ様のパーティーに行くのを当分許可しないだろう。だから父に言質を与えることなくぬか喜びさせたというわけだ。まったく恐ろしい母だ。というか父が無邪気すぎる。仮にも九条グループの総帥なんだからもうちょっと気をつけてもらいたい。


 まぁ俺にとっても望み通りの結果になったんだから不満はないから良いけど……。またパーティーに出たら皐月ちゃんとのことで何か起こらないかと少し期待している気持ちもあったけど、余計なイベントに参加しなくて良いと母の許可が下りたんだから文句を言うことはないだろう。


 皐月ちゃんとのことはまた夏休み前までに遊びに行く時にどうにかすれば良いことだ。それにどうせ友達との信頼関係なんてそんな簡単に、それこそ一朝一夕でどうにかなることじゃない。これから徐々に親しくなる最初の一歩として今度の遊ぶ日のことを考えよう。




  ~~~~~~~




 無事に伊吹にパーティーのお断りを伝えて、薊ちゃんもだったら参加しないと宣言して、茅さんも出たくないけど仕方ないから出ると諦めて、皐月ちゃんは普通に参加すると言っていた。


 あまり伊吹や槐の前で俺に絡めてそういうことを言うのはやめてもらいたいけど……。あまり恨みを買っていたら本当に将来伊吹や槐に潰されてしまう。本人達が自己都合で断るのは勝手だけどそこで俺をダシにするのはやめて欲しい。


 ともかくこれで思わぬ所から突然出て来た変なイベントは回避出来た。出来るだけ余計なイベントに関わらないにこしたことはない。いつわけのわからないイベントに巻き込まれて変なフラグが立たないとも限らないからな。


「……ということで残念ながら近衛様のパーティーには参加出来ないのです」


「という建前で咲耶様は喜んでおられますよね?」


 一昨日招待状を貰い、昨日にはお断りを伝えて、今日はようやく皐月ちゃんも昼食に誘って薊ちゃんグループと一緒に食事の真っ最中だ。


 何故か話題は近衛家の夏のパーティーの話になった。だから俺は家族旅行のために止むを得ず、渋々、大変心苦しいがお断りしたことを告げた。なのに何故か薊ちゃんから突っ込みが入った。何故だ。


「どうして咲耶ちゃんは近衛様のパーティーに参加したくないのでしょうか?」


 いつもは椿ちゃんが座っている俺の横に今日は皐月ちゃんが座っている。薊ちゃんグループの四人は向かいだ。俺達だけだったらあまり席に執着はないけど流石に他所のグループの七清家が来ていれば席順にも気をつけなければならない。


「うぇっ!いえ……、別に私は近衛様のパーティーに参加したくないわけではないのですよ?」


 皐月ちゃんからの思わぬ突っ込みに慌てる。いくら本心で参加したくないと思っていてもそれを表に出して言うのは憚れる。もし堂々とそんなことを言おうものなら角が立つし揉め事の原因にもなる。それに近衛門流を敵に回しかねない。近衛が敵になれば鷹司とその門流も向こうにつくだろう。それは大事だ。


「でも咲耶ちゃんはパーティーに参加出来ないことを喜んでいるのですよね?」


「いやぁ~、そのぉ~……」


 今日の皐月ちゃんはどうしたというのか……。やたら厳しく切り込んでくる。いつもの察しが良くて気が利く皐月ちゃんならこんな人前で俺が困るようなことを言わないタイプのはずだけど……。これじゃまるで周囲に俺が近衛のパーティーに行くのが嫌、近衛が嫌、と宣伝しているようだ。


「近衛様のパーティーが嫌なんじゃなくて咲耶様はパーティーのような騒がしいことそのものがお好きではないんですよね?」


「え……?」


 そこへ何故か薊ちゃんが急にそんなことを言い出した。まぁ確かにどこが主催であろうがパーティー自体にあまり参加したくないけど……。


「咲耶様は尊く、儚く、美しいんです!だからパーティーみたいな騒がしい所はお好きではないんです!そのような場は咲耶様には相応しくありません!咲耶様はもっと静かな所で佇んでおられるのが似合います!」


 いや……、薊ちゃん?貴女も何言ってんですか?もう言ってることが滅茶苦茶すぎて意味がわからない。何故俺が静かな所で佇んで……。はっ!それってまさか俺にはボッチがお似合いだってことか!?一人寂しく誰もいない物音もしない所で佇んでおけと……。


 なんてな。薊ちゃんがそんな意地悪で言っているわけじゃないことはわかっている。ただ言うことがオーバーな上に少々意味不明になってるだけだ。


「咲耶ちゃんはパーティーそのものが嫌いなんですか?」


「うっ……、え~っと……、まぁ……、パーティーはあまり得意ではないです……」


 じーっとこちらを見ながらそう聞いてくる皐月ちゃんに返答に困ってそう答える。確かに俺はパーティーは苦手だ。それは別に薊ちゃんが言うように騒がしいからじゃない。単純に俺がパーティーが苦手だというだけのことに過ぎない。


 あまりパーティー自体に参加したことがないし、マナーもそれほどなってないからとても気を使うばかりで疲れる。そもそも人混みが嫌いだし、パーティーに出ても何が楽しいのかわからない。


 食事はまぁおいしい。可愛いドレスを着たりするのも嫌いじゃない。でもそれだけの苦労や気疲れしてまでパーティーに参加したいかと言えば答えはノーだ。


 もちろん俺の立場上参加しなければならない時もあるだろう。自分がしたくないからとしなくて良いというものじゃない。パーティーに出席することはただ楽しむだけじゃなくて色々な役割や義務があってのことだ。父があちこちのパーティーに、顔を出して挨拶するだけでも行ける限り行くのはそれが仕事だからだ。


 俺達のような各家の子息子女だってただパーティーを楽しむためだけに参加しているわけじゃなくて、それによって様々な意味や理由があるから参加している。本来なら出たくないから出ませんは通用しない。


 ただ今の俺は母の意向もあって当分パーティーに出ることはないだろう。いわば謹慎処分だ。勝手にそういう場に出るなと母に止められている状況だと言えばわかりやすいだろうか。


「そうですか……。それでは今度当家でパーティーがあっても誘わない方が良いですか?」


 えっ!皐月ちゃんのパーティー!行く行く!


「いえ!皐月ちゃんのお誘いとあれば何とかして母を説得してでも是非行きます!」


「あっ!咲耶様!それならばうちのパーティーにもお呼びしますから是非参加してください!」


「ええ!是非!」


 薊ちゃんもそんなことを言い出したから頷いておく。可愛い女の子からのお誘いだったらいくらでも行くに決まってる!母が反対する?そんなもの気合で説得するさ!伊吹や槐の誘いならお断りだ。でも薊ちゃんや皐月ちゃんの誘いなら母を説得して是非参加しなければ……。


「あの~……、それでは当家のパーティーもお誘いしても良いでしょうか?」


「椿ちゃんの?もちろんです!」


「そういえば九条家ではパーティーはされないのですか?」


 椿ちゃんからも誘われたら行くに決まってる。そんな話で盛り上がっていたら薊ちゃんがそんなことを言い出した。そう言えば俺の記憶にある限りでは俺が九条家のパーティーに出席したことすらないな。


「パーティー自体は開かれていますが私は九条家のパーティーには出たことはありませんね」


「えっ!」


「そうなのですか?」


 皆驚いたような変な顔をしている。確かにそう言われたら自分の家の主催パーティーにも出たことないって変なのかもしれないな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 間違い無くおかしい それだけはわかる
[一言] まあ、普通は驚くよね
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