第九十九話「ニャンちゃんランド」
「うわぁ~~っ!」
「ニャンちゃんだぁ~~!」
「ニャンちゃん……」
やってきたのは最近オープンしたばかりのアミューズメントパーク『ニャンちゃんランド』だ。まぁアミューズメントパークといってもネズミが支配している王国とか、アメリカ映画のキャラクターが飛び回っているような遊園地とは少々違う。
派手な乗り物やアトラクションはなくて、本当にちょっとした乗り物と、あとはグッズとかアイテムが売っている。
「ニャンちゃん可愛い……」
「写真!写真撮りましょ!」
茜ちゃんがニャンちゃんの着ぐるみに近づくと薊ちゃんもついて行って皆で写真を撮ろうと言い出した。確かに可愛いニャンちゃんの着ぐるみだけど……、中身はバイトのおっさんだと思うと俺はあまり素直になれない。
皆は可愛い可愛いと抱き付いているけど……、多分中身は汗だくのおっさんだぞ……。抱きつかれてるからって皆に手を出すなよ?皆に手を出したらロリコンの痴漢だって通報してやるからな。
「はい、チーズ」
「「「「「ありがとう!」」」」」
キャストのお姉さんに写真を撮ってもらう。もちろんそれ以外にも皆それぞれの携帯やカメラで付いて来ているお付き達が撮影してるのは言うまでもない。普通の人達からしたら一種異様な集団だと思う。黒服達が小さな女の子の団体に付いてまわってるんだ。もしかしたら『や』のつく人の子供とか思われてるかもしれない。
ニャンちゃんと写真撮影をした俺達は早速ニャンちゃんランドの中を見て回る。事前に情報を集めて行きたい場所や行く順番まで決まっている。ジェットコースターとかのような乗り物やアトラクションはないし、年齢層が低めだからそんなに物凄く混んでいるということもない。
簡単にいくつか見て回ってからニャンちゃんランドの中にあるお店でお昼ご飯にする。もともと午前はそんなに時間もないし本番は午後からだ。お店がオープンしてから見て回っただけでももうお昼前になる。それからニャンちゃんランドに来て入ればすぐにお昼になるのは当然だろう。
「私ニャンちゃんパンケーキ!」
「私はニャンちゃんランチです」
「ふふん!皆子供ね!私はニャンちゃん丼よ!」
皆が思い思いに注文を決める中で薊ちゃんはニャンちゃん丼なるものを頼んだ。それはあまりに異色のメニューだ。皆が注文したものは子供向けの、お子様ランチとか、キャラクターが描かれたパンケーキなんだけど……、薊ちゃんのニャンちゃん丼は海鮮でニャンちゃんの顔を表現した海鮮丼だった。
「あの……、薊ちゃん……、大丈夫ですか?」
「はい!私はこれにします!」
う~ん……。これって多分本来は子供連れの父親向けのメニューなんじゃないか?メニューの写真からだけじゃボリュームはわからないけど……。
まぁ俺達は子供にしては舌が肥えているとは思う。パーティーとかで大人も食べるような物も食べる。食事に行っても大人と同じ物を食べる。子供の頃からそういう風に慣らされている。だから海鮮丼でも食べられるだろう。食べられるとは思うけど……、その味は俺達が普段食べている物とはかなり違うと思うけど……。
「え~……、それでは私は日替わりニャンちゃんを……」
俺は無難に日替わりニャンちゃんというメニューを頼んだ。これも恐らく保護者、お父さん向けメニューだろう。だいたいアミューズメントパークのメニューで日替わりランチって……。まぁいいけど……。
流石に俺がお子様ランチとか食えない。日替わりニャンちゃんは普通の定食屋の日替わり定食みたいなものだから大丈夫だろう。味はチープだと思うけど前世で慣れている俺ならどうってことはない。
「お待たせいたしました。ニャンちゃんランチのお客様は?」
「はいっ!」
皆の前に続々と注文の品が運ばれてくる。皆揃った所でいただくことになった。
「いただきます」
俺は普通の焼き魚定食みたいな感じだな。申し訳程度にニャンちゃんの顔の焼印のついた玉子焼きがあるだけだ。他の皆は色々と見た目は可愛い凝ったメニューを食べている。
「あ~ん!……ん」
「味は……」
「まぁ……、こんなものですね……」
やっぱり……。見た目は可愛くしてあるけど味はチープだろう。舌の肥えた俺達にとっては特にチープに感じられるはずだ。普通の子供なら喜ぶのかもしれないけど俺達にはウケは悪いだろう。
「うぅ~……」
そして薊ちゃんは一口食べて涙目になっていた。どうやら合わなかったようだ。
「はぁ……。薊ちゃん……、交換しますか?こちらならまだ焼いているので食べられると思いますよ」
ガタッ!ガタガタッ!
と俺がそう言ったタイミングで向かいの席の人が急に動いて驚いた。何か落としたのかな?チラッと見えた感じでは帽子にサングラスをした人が何故かこんな場所で新聞を広げている。まぁ食事の時に新聞を読む癖のある人なのかもしれない。
それより薊ちゃんは恐らく生の海鮮丼は生臭さがきつかったんだろう。普段俺達が食べるような物とは質も鮮度も違いすぎる。新鮮で美味しいお刺身なら食べられても、こういう所で出てくる少々アレな品質の物は慣れていないと食べられないと思う。
「えっ!咲耶様が食べた物を私がいただいてもよろしいのですか!?」
「あ~……、そういうのを気にされますよね……。でもまだこの付け合わせしか手をつけていませんから、これさえどければ……」
前世の感覚なら注文した物でも交換したり、味見といって分けたりしていたけど、今生ではそんなことをすることはまずない。庶民の女性ならそういうシェア的なことをするだろうけど、俺達からするとそれはマナー違反だ。
だけど生臭くて食べられないのなら、まだほとんど手をつけていない今なら交換しても良いんじゃないかな。幸い俺はまだ付け合わせを少し食べただけだ。これだけ避けておけば問題はない……、と思う。
「いいえ!むしろその付け合わせをください!他の物も咲耶様が食べてから交換してください!」
「……え?」
「あっ!薊様だけずるいです!」
「そうね。徳大寺さんだけ咲耶ちゃんの物と交換とは許せないですね」
「え?え?」
薊ちゃんは俺に他の物も手をつけてから交換しろといい、椿ちゃんと皐月ちゃんまで何やら言い出した。やっぱり皆まずかったのかな?見た目は可愛いけど味はチープだろうしね……。
日替わり定食だから俺のだってそんなに大したものじゃないけど、メニューの中ではまだマシな方だった。もちろんだからこそ俺が頼んだわけだしな。
「え~……、まぁこのままでは薊ちゃんの昼食が困ったことになりますし、今回は薊ちゃんと交換ということで……」
皆も美味しくないから交換したいのかもしれないけど、さすがに日替わり定食のおかずをバラバラに皆と交換するというわけにもいかないだろう。それだと薊ちゃんが困ってしまう。皆は一応食べられるみたいだし今日は我慢してもらうしかない。
「やったわ!さぁ咲耶様!一口ずつでも良いので他の物も召し上がってください!そして交換しましょう!」
いや……、だから何で折角まだほとんど手をつけてないのにわざわざ全部食い止しにする必要がある?このまま交換すればいいじゃん……。
「いえ、このまま交換しましょう……。でなければ交換しないということで……」
「えっ!それは困ります!わかりました!その付け合わせだけで我慢しますから交換してください!」
薊ちゃん……、相当その海鮮丼がまずかったんだね……。可哀想に……。だからそんなの頼んで大丈夫かって聞いたのに……。
この後何か皆が妙な雰囲気になりながらも俺と薊ちゃんは注文の品を交換して昼食を終えた。薊ちゃんがギブアップした海鮮丼を食べてみた感想は……、まぁ……、普通って所だ。前世の、庶民の頃だったらまぁ普通かな、と思うようなものだった。
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午後からは本格的にニャンちゃんランドを回っていく。元々低年齢層向けで派手な乗り物もないし、食後でもリバースする心配はないと思う。
「次はあれに乗ろう!」
「茜ちゃん、やっぱりここに入ってから元気ですね」
何か普段は俺と微妙に打ち解けていないような茜ちゃんだけど今日は俺の前でも弾けていた。こういうことがきっかけで仲良くなれたりするのかな。
「ちょっと!私が咲耶様の隣よ!」
「徳大寺さんはさっき咲耶ちゃんの隣だったでしょう。次は交代です」
薊ちゃんや皐月ちゃんが妙な争いをしている。一番前に乗りたいとかならわからなくはないけど、誰の横がどうとかそんなのは争うほどのことでもないと思うけど……。
「ほらほら!薊ちゃん、皐月ちゃん、もう乗る番ですよ」
並んでいた順番に乗り込む。薊ちゃんと皐月ちゃんは二人でいがみ合っていたから隣同士だ。二人で一緒に乗ったらちょっとは仲良くなれるんじゃないかな。
「ちょっと……、何で貴女が隣なのよ……」
「それはこちらの台詞です……」
うんうん。後ろの席から聞こえる二人の会話はとても微笑ましい。
「お隣は初めてですね」
「そっ、そうですね……」
俺の隣は茜ちゃんだ。乗り物で隣になるのは初めてだな。
『それではニャンちゃんトロッコが動きま~す。ニャンちゃんトロッコしゅっぱ~つ!いってらっしゃ~い!』
客が乗り込んだことを確認してキャストがマイクで出発を告げる。これはどうやらゆっくり動くトロッコに乗ってコース上のキャラクター達を見ていくもののようだ。
『皆と一緒にニャンちゃんの世界に……』
トロッコが進みニャンちゃんのナレーションが流れてキャラクター達が動き出す。
「うわぁ!かわい~!」
「ふふっ」
隣の茜ちゃんが目をキラキラさせて夢中になってキャラクター達を見ている。俺にとっては茜ちゃんの方が可愛いと思う。
暫く静かにトロッコは進み、途中のキャラクター達が動いたり、音声が流れたり、映像が流れたり、子供向けながらもなかなかよく出来ていた。そしてトロッコも物語もクライマックスを迎える。
『あぁっ!ニャンちゃんが危ない!皆も気をつけて!』
「「「「「きゃーーーっ!」」」」」
トロッコは最後の最後でガタガタと揺れて急降下した。乗っている子達皆が悲鳴を上げる。俺の隣に座っていた茜ちゃんは俺の腕にぎゅっと抱き付いてきた。本当に可愛らしい。
『ニャンちゃんは間一髪、危機を乗り越えて無事に……』
「あ~、びっくりしたね~!」
「ちょっと!西園寺さん!抱き付かないで!」
「そういう徳大寺さんが抱き付いてきているのでしょう!」
後ろの声に誘われてチラリと見てみれば、薊ちゃんと皐月ちゃんがお互いに抱き合っていた。とても微笑ましい。
「あっ!わ、私……、ごめん」
「いいえ。いつでもこの腕をお貸ししますよ」
自分も俺に抱き付いていることに気付いた茜ちゃんが離れてしまった。ちょっと残念なような、何とも言えない気持ちになる。最後のクライマックスを越えたトロッコはゆっくり動いて下り場まで到着する。
「あ~、最後はびっくりしたね~!」
「ほんとよ……」
譲葉ちゃんの言葉に薊ちゃんは胸を押さえながら答えた。まだ心臓がドキドキしてるのかな?
「そろそろお土産屋さんに行きましょうか」
「そうですね」
蓮華ちゃんの言葉で時間を確認してみれば結構良い時間になっていた。回る予定だった乗り物は全部回ったと思うし、この後また外に出てお店も見て回る予定だ。残念ながらニャンちゃんランドはそろそろ出なければならない。
「これ可愛いね」
「あっ、でもこっちもかわいーよ」
皆で最後にお土産屋さんに入る。皆で何か買っていこうと選んでいるけど中々決まらない。
「このキーホルダーは?」
「う~ん……。それはここじゃなくても売ってるからね~……」
「でもそんなこと言ってたら決まらないよ?」
皆があーでもないこーでもないと話し合う。
「咲耶様はどれがいいと思いますか?」
「え?え~……、私より茜ちゃんの方が詳しいと思うので……。茜ちゃん、何か良い物はありますか?」
俺にニャンちゃんグッズのことを聞かれてもわからない。最初からここに来たがったのは茜ちゃんだし俺よりは詳しいだろう。
「えっ!……えっと、それじゃ……、これ……、がいいと思う」
茜ちゃんが示したのはニャンちゃんのストラップだった。こんな物ならどこにでもありそうだけど……。
「あ~!これ確か限定のやつだよね!茜よく気付いたわね!」
「それではこれにしましょうか」
「事前に調べて今日はこれを買って帰ろうと思ってたから……」
お?何かいい感じにまとまりそうだな。俺から見たら普通の物との違いがわからないけど、どうやら限定品らしい。皆でお揃いのストラップを買う。
「あ~!楽しかったね~!」
「そうですね」
譲葉ちゃんの言葉に蓮華ちゃんが答える。皆も満足した顔をしていた。昼食とかで色々あったけど、それも含めて楽しかった。こんな低年齢層向けの施設で精神的に大人な俺が楽しめるのかと思ったけど十分大人でも楽しめる。俺の場合は皆がいてくれたからかもしれないけど……。
「まだ終わりではありませんよ。ニャンちゃんランドは出ましたけど、まだ向こうへお買い物に行きますよ」
椿ちゃんがちょっと積極的に進み出す。そういえばこの次に行く所は椿ちゃんが行きたいと言ってたんだっけ。
この後もニャンちゃんランドの外でお店を見て回った俺達は一日中楽しんでから、名残惜しいけど夜になる前に解散となったのだった。




